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チンパンジー3頭を身代金誘拐、WhatsAppで脅迫 コンゴで横行する動物違法取引の理由

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
コンゴ民主共和国ルブンバシにあるJACK霊長類リハビリセンターから連れ去られた赤ちゃんチンパンジー3頭のうちの1頭で、名前はモンガ
コンゴ民主共和国ルブンバシにあるJACK霊長類リハビリセンターから連れ去られた赤ちゃんチンパンジー3頭のうちの1頭で、名前はモンガ=JACK Primate Rehabilitation Center via The New York Times/©The New York Times

 ロクサーヌ・シャントロウは9月初旬、日が昇る前にメッセージアプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」の着信音で目が覚めた。

コンゴ民主共和国のルブンバシにあるJACK霊長類リハビリテーションセンターの共同設立者である彼女に、誰かが嫌な動画を送ってきたのだ。

チンパンジーの赤ちゃん2頭が、倒れた家具が散乱する汚れた土間を飛び回る様子が映っていた。動画のアングルが変わると、もう1頭のチンパンジーが鎖でつなげられた両腕を頭の上に乗せてタンスの上に立っていた。

音声メッセージが3回あり、送信者(複数)はロクサーヌが6ケタ(訳注=10万単位)のカネを支払わなければチンパンジーを殺すと脅してきた。また、彼女と彼女の2人の子どもたちも殺すと脅迫するメッセージも入っていた。

ロクサーヌは動画に映っていた幼いチンパンジーたちがモンガ、シーザー、フセインだとわかった。ベルギー人の彼女とフランス人の夫フランクが運営する野生動物保護センターのJACKから連れ去られたのだ。

フセイン
フセイン=JACK Primate Rehabilitation Center via The New York Times/©The New York Times

このセンターにはチンパンジー40頭と14種のサル64頭がいる。いずれもコンゴでの違法な野生動物取引から救い出されていた。

コンゴでは野生動物の違法取引が横行している。だが、このチンパンジーの誘拐は、アフリカの保護施設から霊長類が身代金目的でさらわれたとされる最初のケースだ。

今年の初め、絶滅の危機に瀕(ひん)しているセンザンコウがコンゴの別の地区で身代金目的のために捕らえられたが、これは警備が厳重な施設から誘拐されたのではなく、森林で捕獲されたのだ。

この二つの事件は、野生動物犯罪を扱うコンゴの専門家たちを困惑させている。この国で身代金目当ての動物誘拐に手を染める犯罪者が増える可能性を懸念するからだ。

「これは、私たちの国の状況がいかに脆弱かを示していると思う」とアダムス・カッシンガは言う。コンゴの違法な野生動物取引と闘う非営利団体「Conserv Congo(コンサーブ・コンゴ)」の創設者である。

取り戻した野生動物を保護するために設けられたJACKのような施設は「野生動物に関する法の執行に欠かせないパートナーだ」とアイリス・ホーは言う。「Pan African Sanctuary Alliance(パンアフリカン・サンクチュアリ・アライアンス=汎アフリカ保護施設同盟)」の政策担当責任者で、「保護施設における動物の安全確保は、野生での動物保護と同様に重要である」と指摘する。

コンゴでは、サンクチュアリ(保護区域)にはナショナルパーク(国立公園)と同じ法的保護が与えられている。

しかしながら、シャントロウ夫妻にとって、違法取引業者から救出した動物の保護はより難しくなっている。JACKが安全な場所とはもはや思えなくなってしまったからだ。「今は残りの動物の赤ちゃんたちを自宅に連れ帰って一緒に寝ている。そうしないと心配だから」とフランクは言っている。

チンパンジーの誘拐から数日で、ロクサーヌはさらにメッセージを受信した。フランクの話だと、赤ちゃんのチンパンジー1頭を斬首し、2頭を中国人のヤミ取引業者に売りとばすと脅すメッセージだった。ところが、その後、誘拐犯は連絡を絶った。「私たちには何の知らせもない。それがすごく心配だ」と彼は話していた。

コンゴ版のFBI(米国連邦捜査局)ともいえる「国家情報局(NIA)」は、捜査中との理由で、(ニューヨーク・タイムズの)インタビューの要請を断ってきた。

それでも、フランクによると、当局は今回の事件を「非常に重く」受け止めており、「チンパンジーの赤ちゃんの強奪を国家の安全保障上の脅威とみなしている」という。

シーザー
シーザー=JACK Primate Rehabilitation Center via The New York Times/©The New York Times

コンゴは野生動物の保護で重要な役割を担っている国だ。この国には世界で2番目に広大な熱帯雨林があり、霊長類の多様性ではブラジルとマダガスカルに次ぐ世界3位を誇る。

コンゴはまた、アフリカ大陸にいる4種の大型類人猿――チンパンジー、ボノボ、マウンテンゴリラ、グラウアーゴリラ――のすべてが国内に生息する唯一のアフリカの国でもある。チンパンジーの生息数は、どの国よりも多い。

しかし、カッシンガによると、コンゴはここ何十年にもわたって不正や社会不安、内戦、汚職に苦しんでおり、貧困率の高さと「アフリカの中心部」という地政学的な位置が相まって、野生動物の違法取引のハブになっている。

コンゴで活動する国際的な保護団体はほとんどなく、サハラ砂漠以南で最大のこの国は、違法取引対策の資源もサービスも不十分なままの状態に置かれている。こうカッシンガは言い添えた。

コンゴは象牙やサイの角、センザンコウのウロコの違法取引の拠点になっていることに加え、生きている赤ちゃんチンパンジーやゴリラ、ボノボの密猟も急増している。

フランクによると、中国やパキスタン、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)といった国々でペットとしての霊長類の需要が高まっているからだ。密猟者たちはふつう、1頭の赤ちゃん動物を捕まえるために最大10頭の成獣を撃つ。

「(狙った)1頭だけでなくて、もっとはるかに広範な巻き添え被害を招く」とホーは指摘する。「その動物の一家が皆殺しにされてしまう」と言うのだ。

コンゴにある他の霊長類保護施設と同様、JACKは違法取引から救出された動物を受け入れている。そうした動物はコンゴの法律では国家の資産とみなされている。

フランクによると、アルコールや薬物中毒になった多くのエイプ(類人猿)やサルが保護施設に連れてこられる。いずれもトラウマ(心的外傷)を負っているという。連れ去られた3頭のチンパンジーについて、彼は「トラウマ状態からは何とか救い出すことができた」のだが、「(誘拐されたことで)今また悪夢が始まった」と話していた。

JACKで働く夜間の武装警備員は、(3頭のチンパンジーが)連れ去られた夕刻時に何も見なかったし、何も聞こえなかったと言う。捜査員も強引に侵入した証拠は見つからなかったと言っている。

フランクによると、そうだとすれば犯人は施設スタッフの少なくとも一人と通じているに違いないとシャントロウ夫妻は「確信している」という。

今回の事件に世間の注目が集まることで、犯人が3頭のチンパンジーを返す気になるのではないか――。

彼はそうした楽観的な思いを持ち続けようとしている。「ある朝、ドアの前にチンパンジーがいるのを見たいと願っている」と彼は言う。「チンパンジーたちが無事でいてほしいのだ」と話していた。

しかし、カッシンガは犯人たちを裁判にかけることが重要だと警告した。「もし、彼らが裁きを免れたら、こうした事件が次々に起こるだろう」と指摘する。「政府と市民社会と国際社会が一体となって、この種の犯罪は容赦しないという明確なメッセージを送る必要がある」と言っている。(抄訳)

(Rachel Nuwer)©2022 The New York Times

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