1. HOME
  2. World Now
  3. エリート士官の卵が集まる米海軍士官学校、最近「横須賀」人気が高まっている

エリート士官の卵が集まる米海軍士官学校、最近「横須賀」人気が高まっている

揺れる世界 日本の針路
米海軍士官学校での卒業式
米海軍士官学校での卒業式=2022年5月、米メリーランド州アナポリス、ロイター

前山さんが連絡官に就任した当時はオバマ政権末期。米海軍が15年10月から、南シナ海で「航行の自由作戦」を始めるなど、米国が中国との対決姿勢を強めていた時期にあたった。

16年秋、当時の米海軍トップ、リチャードソン海軍作戦部長が急きょ、士官学校にやってきた。午後8時から、全学生を集めて1時間の講話を行った。全学生を集めた緊急の講話は異例のことだ。前山さんは翌日の授業で、学生に「どんな講話だったのか」と尋ねた。ほぼ、南シナ海における中国の活動についての話だったという。前山さんは「米海軍の関心がインド・太平洋に移った」と語る。

米海軍士官学校の研究室での前山一歩氏
米海軍士官学校の研究室での前山一歩氏=同氏提供

前山さんは士官学校で週10コマ以上の授業を担当し、日本語や日本文化などを教えていた。言語文化学科で日本語は西独ロ仏と並ぶ選択科目だった。前山さんが士官学校に赴任した当時、日本語を選択した学生は年間約170人だった。

ところが、徐々に学生たちの関心が高まった。授業で、台湾や北朝鮮、中国などの情勢についての質問が飛んだ。「中国と友好的なパイプを増やし、透明化を進めて抑止する考えをどう思うか」と質問した学生もいた。前山さんもP3C哨戒機のパイロットとして東シナ海を飛行した経験など、日米協力や海自の活動について紹介した。学生は、前山さんが離任するころには250人くらいにまで増えていた。

士官学校には、「ジャパニーズ・アメリカンクラブ」という同好会がある。毎週金曜日の昼休み、30分ほどの時間を利用し、習字や折り紙などをして、日本文化に触れ合う。16年当時の登録会員は50人ほどだったが、20年には500人くらいにまで増えた。

米海軍士官学校では毎年1月末から2月初めくらいに、「シップ・セレクション」という一大イベントが開かれる。演壇には、サンディエゴやホノルル、横須賀など、米海軍基地がある場所ごとに、米海軍艦艇のステッカーが貼り出される。最上級生にあたる4年生のうち、艦艇要員約250人が、成績順に、自分が乗艦したい艦船のステッカーを手に入れていく。

今年、米海軍士官学校で行われたシップセレクション
今年、米海軍士官学校で行われた「シップ・セレクション」=前山一歩氏提供

前山さんが赴任した頃、「シップ・セレクション」での1番人気はスペイン・ロタ島の米海軍基地の艦艇だった。17年のセレクションで、横須賀の艦船を選んだのは成績順で15番目の日米ハーフの男子学生だった。周囲は前山さんに「横須賀が15番目に選ばれるなんて、快挙だ」と教えてくれた。翌18年のセレクションでも、横須賀の艦艇を選んだのは、やはり成績順で10数番目の女子学生だった。

ところが、19年には6~7番目まで上昇。20年と21年のセレクションでは、共に成績トップの学生がいずれも横須賀を母港とする米原子力空母ロナルド・レーガンを選んだ。

前山さんは学生たちに「(横須賀を母港とする)第7艦隊に勤務すれば、海軍のオペレーションすべてを学べる」と教えていた。友好親善訪問から、「航行の自由作戦」のような厳しいつばぜり合いまであらゆる任務を経験できるという意味だった。

米中の緊張が高まるなか、学生の両親らには横須賀勤務を心配する声もある。両親に説得されて、横須賀勤務をあきらめた学生もいるという。

ただ、学生本人たちの士気は高い。前山さんは「米国人の愛国心は、日本人のそれとは違います」と指摘する。その象徴が、ケネディ大統領が1961年の就任演説で語った「Ask what you can do for your country(国家が君たちに何をしてくれるかを問うな。君たちが国家に何ができるかを問え)」という言葉だという。

米海軍横須賀基地
米海軍横須賀基地=2022年1月、朝日新聞社ヘリから、相場郁朗撮影

士官学校には毎年6月末、全米のエリートたちが入校してくる。前山さんによれば、上級生は新入生に対し、「君たちは故郷ではトップだったかもしれないが、ここにはトップだった人間ばかりが集まっている。君たちは、自分に何ができるのかを常に問い続けなければいけない」と言って聞かせるのだという。

前山さんは「米社会はアナポリスについて、米国を強く、豊かにするリーダーを育てる大学として期待している」と語る。卒業後、アナポリスというブランドを背負っていくことに負担を感じる学生もいるという。「アナポリスの学生にはプライドと責任があります。大きな力を持つ者には大きな責任が伴います。米市民からの期待にどう応えるのかをいつも考えているのです」

米士官学校の構内には、同校の卒業生で、2018年8月に死去したジョン・マケイン元上院議員の墓がある。マケイン氏はベトナム戦争の際、5年間の捕虜生活に耐え抜いたことで知られる。マケイン氏は生前、「自分が拷問に屈しなかったのは、アナポリスでの4年間の経験があったからだ」と語っていたという。

前山さんは「米海軍で日本に対する関心や期待が高まっています。日本でも日米同盟の重要性が注目されていますが、もっとパートナーである米海軍に関心を持って欲しいと思います」と語った。