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「映画は劇場よりもオンライン配信」の流れ、どうみる? 巨匠イ・チャンドンの答え

現地発 韓国エンタメ事情
イ・チャンドン監督
イ・チャンドン監督=全州国際映画祭提供

全州映画祭で最も大きな劇場は、2300席の「全州ドーム」だ。仮設の大型テントで、コロナの影響で2020年、2021年は設置されなかったが、今年復活した。期間中の週末に上映されたドキュメンタリー映画『君がチョ・グク(原題)』(イ・スンジュン監督)を見に行くと、2300席がほぼ埋まっていた。『君がチョ・グク』は、曺国(チョ・グク)元法相と家族に対する検察の捜査を中心に描き、就任したばかりの尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領とも深く関わる内容だ。世間の注目が集まるなか、全州ドームでは劇場公開を前に先行上映され、多くの観客が集まった。

韓国ではコロナ禍で映画館の観客数が激減していただけに、全州映画祭の盛況ぶりは映画人たちにとって久々に希望を感じるニュースだった。映画振興委員会(KOFIC)によると、コロナ前の2019年の観客数は2億2668万人だったが、2020年は5952万人にまで落ち込んだ。全州映画祭の関係者は「観客が来なかったらどうしようと、実は心配していた」と打ち明けた。

全州ドーム
全州ドーム=成川彩撮影

「祝祭性を回復する」という目標を掲げた今回は様々な企画があったが、チケットがほぼ売り切れとなったのは、特別展「イ・チャンドン:見えないものの真実」だった。

全州ドームで上映されたイ監督の代表作『ペパーミント・キャンディー』(2000)と、イ監督の最新作『心臓の音(原題)』(2022)が上映された回には、ソル・ギョング、ムン・ソリ、チョン・ドヨンらが舞台あいさつに立った。ソル・ギョングとムン・ソリはいずれも『ペパーミント・キャンディー』と『オアシス』(2002)の主演俳優で、ムン・ソリは『オアシス』でベネチア国際映画祭新人俳優賞を受賞。チョン・ドヨンは『シークレット・サンシャイン』(2007)でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞し、『心臓の音』にも出演している。予告なしに突然現れた豪華ゲストに会場は一挙に盛り上がった。

映画『ペパーミント・キャンディー』から
『ペパーミント・キャンディー』から=全州国際映画祭提供

今回初公開となった『心臓の音』は世界保健機関(WHO)の提案で作った、うつ病がテーマの短編だ。本来は世界の複数の監督が作った短編をまとめてオムニバスとして発表する予定だった。イ監督は「私は作るのが遅い方だけど、今回は一番早く作ったようで、他の監督はまだだと聞いている。今回の特別展で先行して公開することになった」と話した。主人公の少年は、うつ病の母(チョン・ドヨン)が心配で授業を抜け出して家に向かう。イ監督は「うつ病の母を助けたいという息子の思いを描いた作品だが、それは階級や国境を越えた普遍的なものだと思う」と語った。

映画『心臓の音』から
『心臓の音』から=全州国際映画祭提供

デビュー作『グリーン・フィッシュ』(1997)上映後のトークにもムン・ソングン、チョン・ジニョンら大物俳優が駆け付けたのは、今年デビュー25年を迎えるイ監督のお祝いの意味もあったのだろう。小説家から映画監督となったイ監督は、25年にわたって映画を作ってきた原動力について「1980年代に小説家として創作活動を始め、80年の光州事件をはじめ社会問題と向き合ったアイデンティティーが今に続いている」と語った。『ペパーミント・キャンディー』はまさに光州事件を経験して人生の歯車が狂っていった男の20年を描いた映画だった。

コロナ禍で韓国ではオンライン配信サービスで映画を見る習慣が広まり、作り手は劇場公開を前提にした映画よりもオンライン配信向けの映画やドラマへ移行している現状がある。

これについてイ監督は「ショッピングをするように簡単に見て、退屈なら早送りするような見方で消費される映画ではなく、映画の中の時間に身を任せ、その世界を感じる経験、そういう映画が生き残らなければならない」と語った。オンライン配信向け作品のオファーは複数来ているが、今のところは断っているという。「シナリオは常に準備中だが、熟成させて作れなかったこともあるので、内容は今は伏せたい」と言い、次作についての具体的な内容は語らなかった。

全州国際映画祭の舞台あいさつに登場した俳優ら
全州国際映画祭の舞台あいさつに登場した俳優ら。左からムン・ソリ、ソル・ギョング、チョン・ドヨン、キム・ゴヌ、イ・チャンドン監督=全州国際映画祭提供

世界的に脚光を浴びる韓国映画については、その理由として「多様性」と「躍動性」を挙げた。「韓国映画は監督によって映画の色合い、性格が違って、他国の映画に比べて多様だと思う。もう一つは躍動性。ダイナミックな力を感じる。それは韓国人が社会問題など大変なことを乗り越えてきた生命力によるものだと思う」と、監督なりの意見を述べた。「25年前にデビューした当時は海外では韓国映画にほとんど関心がなかった。韓国映画が発展する過程で少しでも役立てたのはうれしい」と笑顔を見せた。