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開店前から行列も 「ポケモンパン」韓国で大ブーム 「幸せだった時代を懐かしみ…」

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「ポケモンパン」の商品
「ポケモンパン」の商品=製パン大手「SPCサムリプ」提供

韓国で「開店ダッシュ」といえば、新型コロナウイルス流行で海外旅行に行けなくなったために起きた「リベンジ消費」で見られるもの、という認識が強かった。ブランド物のバッグや時計、スニーカーなどの高級な限定品を手に入れようと、デパートの開店前に並んで売り場にダッシュする様子が報じられてもいた。

ところが今回のポケモンパンは、わずか1500ウォン(約154円)。この安い商品のために開店ダッシュをいとわない人たちがこれだけいるというのは、どうしてなのだろう。

4月11日の朝7時ごろ、私も自宅近くのスーパーに足を運んでみた。出入り口の前には、もう60人ほどが列を作っている。「ポケモンパン6個入りのパッケージ商品が販売される」といううわさを聞きつけ、早朝から並んでいるのだと分かった。

私が訪ねたスーパーの前に並んでいた人たちの年齢層をみると、20~30代の若者が多かった。ただ、孫のために来た高齢者、両親と一緒に来ている子どもたちも目立つ。ポケモンパンを手に入れるための「開店ダッシュ」は、年代を問わないようだった。

「ポケモンパン 夜10時ごろ二つほど入荷」と書かれたコンビニの貼り紙
「ポケモンパン 夜10時ごろ二つほど入荷」と書かれたコンビニの貼り紙=2022年4月13日、ソウル、李聖鎮撮影

列の一番先頭に並んでいた30代の男性に話を聞いた。子どものために午前4時に来て待っているのだという。男性は「最近になって、いくつかの店を転々として探しても、ポケモンパンを買うことがどんどん難しくなっている」と教えてくれた。

このスーパーの開店時間は午前10時だが、8時半ごろには開店ダッシュによる混乱やけが人が出ることを避けるため、整理番号が配られた。この日は1週間が始まる月曜日だったが、8時過ぎに列に並んでいた人をえると、100人ほどまで膨らんでいた。

「ポケモンパン」を買うため開店する前にスーパーの前で列を作って待つ人たち
「ポケモンパン」を買うため開店する前にスーパーの前で列を作って待つ人たち=2022年4月11日、ソウル、李聖鎮撮影

どうして今、人々はポケモンパンにここまで熱狂しているのだろうか。

韓国でポケモン人気は1990年代末に始まり、その後はゲームなどで人気が一時盛り上がったものの、長い間ほぼ「忘れられた存在」だった。それが、韓国の製パン大手が2月にポケモンパンの販売を始めると、50日間で1200万個を売り上げる大ヒット商品となった。生産ラインは今もフル稼働を続けている。

発売当初は、幼いころポケモンのアニメを見たりゲームをしたりして育った20~30代の「MZ世代」が、懐かしさから消費意欲をかき立てられたと分析されていた。ただ、全国で品切れが続出し始め、その人気が長期化の様相を見せて報道が過熱していくと、ポケモンのアニメになじみが薄い10代をはじめとした子どもたちにも人気は飛び火していった。

子どもたちの心をつかんだのは、この菓子パンに同封されているポケモンのキャラクターのシールだ。めずらしいシールが欲しくて、次々にパンを買おうとする現象が起きて、人気にさらに拍車をかけた。

知人が「開店ダッシュ」して手に入れたポケモンパンの数々
知人が「開店ダッシュ」して手に入れたポケモンパンの数々=ソウル、李聖鎮撮影

専門家に「ポケモンパン現象」を分析してもらった。

消費者学が専門の仁荷大学の李銀姫(イ・ウンヒ)教授(63)は「幼いころ熱中していたものに、成長した後に再び没頭する現象だ」とMZ世代の消費者心理が大きく左右していると指摘する。

「MZ世代は今、入試や就職活動といった激しい競争にさらされている。身体的には大人になったが、そこまでの競争がなく幸せだったと感じる幼少期を懐かしみ、現在の息苦しさを少しでもまぎらわせようとしている。癒やしを求める現象ともいえる」とみる。

李教授はさらに続ける。「1500ウォンという安い価格のため、10代の子供たちが容易に熱中できる点も、さらに人気に拍車をかけた要因だろう」と分析した。

一方、人気が行き過ぎたことで副作用も見られる。

一部の店舗では、他の商品と抱き合わせ販売をして利益を上げようとしたり、知人らにこっそり販売したりするといったことが起き、メディアなどで問題になっている。同封されたシールを売買できるインターネットのサイトでは、1500ウォンよりかなり高い価格で取引されるようになった。ひどいケースでは、ポケットパンがあると偽って小学生をだまし、いたずらをしようとして逮捕されたコンビニ店主もいて、韓国社会に衝撃が走った。

「ポケモンパンはありません~ 問い合わせお断り」と書かれたコンビニの貼り紙
「ポケモンパンはありません~ 問い合わせお断り」と書かれたコンビニの貼り紙=2022年4月13日、ソウル、李聖鎮撮影

 正直、40代半ばの私は、ポケモン世代ではないし、パンもあまり好きではない。だからパンやシールを手に入れようと朝早くから列に並ぶ考えは全くない。おそらく私のような人も多かったはずだが、ポケモンパン人気は社会現象にまでなった。

その背景には、韓国社会でよくみられる「流行に乗り遅れたくない」という意識もあるのだと思う。なぜポケモンパンやシールを欲しがるのかという理由はもはやどうでもよくなり、とにかくみんなが買っているから自分も、という具合だ。

数年前、小中高校生の間で黒色の長いダウンコートが大流行したことがある。肩からかかとの上ぐらいまで、黒色のダウンコートが体をまっすぐすっぽりと覆う姿から「キンパッ」(韓国ののり巻き)のようだと言われた。ほとんどの児童生徒が着ていたことから「制服でない制服」とまで呼ばれたほどだった。

ところが、この「キンパッ・ダウンコート」も、今年の冬にはほとんど見かけることはなかった。流行というのは、そういうもので、ポケモンパン人気もいずれ下火になっていくのだろう。

ただ、流行に乗ることで癒やしを得られるなら、それはそれで役割はあるのだとも思う。私は、他人に見せびらかしたい、他人がしているから自分もという流行で癒やされる性格ではないけれど、それでも癒やしは欲しい。小さくても自分のためになる癒やしを、何か見つけないと。