――なぜいま、フードテックが世界で注目を集めているのでしょうか。
世界人口が増え、気候危機が差し迫っている中で、食とテクノロジーの持つ意味合いがますます大きくなってきている。
これまで人類が食料を生産してきたやり方は、長期的に見れば持続可能ではない。増え続ける人口を養うためには、作物の育て方を見直さないといけない。私たちが食べる家畜、食肉そのものも見直さないといけないのだ。
どうすれば良い解決策を見いだせるのか、様々な分野の知恵を結集しなければならない。だからこそ、巨額の資金が食の未来に投じられている。背景にあるのは、このままでは地球は持たないという危機感だ。
――今後の世界が抱える問題に、フードテックはいかに貢献できるのでしょうか。
地球温暖化問題を例にとると、世界中の国が二酸化炭素の排出量を削減しようとして自動車に規制をかけたり、太陽光発電に移行したりしようとしている。だが、生産・流通などを含めた食のシステム改革の影響力は過小評価されている。
食肉の生産過程で出る温室効果ガスの排出量は膨大で、全体の約15%を占める。植物性の代替物にするなどすれば、温暖化の進行を遅らせることができる。消費者はもちろん、生産者も各国政府も食のシステムにおける技術革新が、地球の命を長引かせることができるほど影響が大きいことだと思い起こすべきだ。
――フードテックに特化したメディアを作り、メーカーやスタートアップ、研究者らが一堂に集うイベントなどを始めました。
食と技術に関心を持つ企業や人はそれぞれにいたが、つなぐ機会がなかった。そこで2015年からイベントを始めた。大企業やスタートアップ、食品会社などが連携できるようになり、日本でも開催した。その輪はいまも広がっている。技術見本市であるCESにも働きかけ、今年から正式カテゴリーになった。食とはテクノロジーで、またそのプラットフォームでもあることに世界が気づき始めている。
――フードテックの未来についてどう考えていますか。
近年注目されているフードテックは、まだ初期の段階にある。飲食店がロボットによって全自動になるのか、食肉が別の物質で作れるようになるのか。未知のことは多くあり、乗り越えなければならない規制もある。だが、こうした技術が人々に受け入れられ、市場や技術が成熟すると、産業の主流の一つになるだろう。
――口に入れる食べ物にテクノロジーを駆使すると聞くと、どことなく不気味だと感じる人もいると思います。
育った環境による影響は大きく、自分が慣れ親しんだ食を選ぶことが心地良いという考えは自然だ。ただ、私たちが今食べているものの多くは、実はかつては食べ物だと考えられていなかったもの。歴史上の食の改革者たちが工夫を重ねて、食べるようになってきた。実際には、私たちの歴史は常にフードテックを必要としてきた。
――フードテック界における日本の役割についてはどう考えていますか。
長きにわたって豊かな食文化を築いてきた日本はとてもユニークな立場にある。大きな可能性を秘めている。一方で、大企業の中には変化に敏感に反応できていないところもある。古い文化を壊すことを恐れなければ、日本発の技術が世界に大きな影響を与えることができる。
日本は過去数十年間、ロボット技術では世界最高水準にあることを証明してきた。ロボット技術を生かしたイノベーションは、日本からも起こりうる。発酵技術も強みだ。長年培われてきた、健康的な食品を作る技術の蓄積が日本にはある。食の未来を作る上で強みとなるだろう。
Michael Wolf 米国のジャーナリスト。フードテックに特化したウェブメディア「The Spoon」を立ち上げ、2015年からは業界関係者を集めた「スマート・キッチン・サミット」を主催。