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検索した香りが漂ってくる エープリルフールだった「グーグルノーズ」現実にする研究

World Now 更新日: 公開日:

グーグルは4月1日、「グーグルノーズ」という名のサービス紹介をウェブサイトに掲載した。スマートフォンなどで香りを検索して実際に嗅ぐことができる、という触れ込みだった。エープリルフールのジョークだ。
東京工業大学教授の中本高道は、そんなジョークを現実のものにする研究を進めている。基本的な「においのもと」を組み合わせることで、いろいろな香りを自由自在に再現する技術だ。

香りの再現に不可欠となる調香装置の原型を見せてもらった。分厚いA4ファイルくらいの銀色の箱で、パソコンにつなげられている。内部には試験管のような13本のガラス瓶が整然と並び、それぞれ上部から細いチューブが伸びる。この瓶に各種の「においのもと」を入れておき、パソコンから送られてくる配合データをもとに調香する。

香りやにおいは、限られた種類の「においのもと」の組み合わせで表せるのではないか。だとすれば、必要な「においのもと」と配合データを手元にそろえることで、思いのままに香りを再現できるはずだ――。中本は、そう考えて研究を進めてきた。

中本はこれまで、ラベンダーやジャスミン、ローズマリーなどアロマテラピーで使う158種類の精油から30種類の「においのもと」を抽出。それらをもとに、ペパーミントやオーガニックオレンジ、ブラックペッパーの香りを再現することに成功している。

香りを構成する「においのもと」の配合データを、インターネットを通じて離れたところに送るのは容易だ。先方に調香装置があれば、届いたデータをもとに香りを再現することができる。映像や音声のように、香りを別の場所に送信できることになる。

■実現には巨大な調香装置が必要

だが、現実は、そう甘くない。

香りの配合データは複雑で、忠実に再現するには多種多様な「においのもと」を用意しておかないといけない。巨大な調香装置が必要になってしまう。

中本は言う。「色は三原色ですべてを表せる。それに相当するものが、香りではわかっていない」。できるだけ少ない「においのもと」で幅広い香りを再現できるかどうかがカギだ。

そもそも、「においのもと」の配合データを調べるのも簡単ではない。いま、そこにある香りの配合データをリアルタイムで遠くに送るには、データを短時間で調べる装置が必要になる。

もし、香りの送信が可能になったら、どんな使い道があるのか?

「バーベキューの香ばしい香りを、携帯電話で友達に送ることができるようになるかもしれない」。中本は、そう話す。香りつきの電子広告も考えられるという。さまざまな香りを出せる電子広告が街角にあれば、通りがかった人たちを振り向かせる効果は大きい。

母の日を前に、カーネーションの花束の映像とともに花の香りを漂わせる。夏休みが近づけば、北海道のラベンダー畑の映像と香りを流す……。「においのもと」を内蔵した電子広告は、自動的にさまざまな香りを調香して周囲に放つ。

ゲームや映画などに応用できるようになれば、映像と音声に香りが加わって臨場感が増す。家族旅行の際、映像とともに海や山の香りも記録しておけたら、再生したときに鮮明に思い出がよみがえるはずだ。(友野賀世)