1. HOME
  2. 特集
  3. ナンバー2の力――もうひとつの主役たち
  4. 業界2番手だから作れた、湖池屋「プライドポテト」 ある冊子が社員を変えた

業界2番手だから作れた、湖池屋「プライドポテト」 ある冊子が社員を変えた

World Now
業界第2位の湖池屋を生まれ変わらせた「プライドポテト」を持つ同社マーケティング部長の野間和香奈さん=中村靖三郎撮影

昨年末、東京都板橋区の本社を訪ねると、会議室では20代の若手を中心とした社員8人が、年明けに発売する新商品「愛をコメて」の販売戦略を話し合っていた。お米を三角のおにぎり状に固めた一口サイズのスナックで、「今までにない、ご飯のような食べ物」だという。

お米を使った新商品を開発した湖池屋の小林重文さん=中村靖三郎撮影

「乱食時代の若者に、米の魅力を再発見して再び好きになってもらおうという超ビッグプロジェクトです」。開発リーダーの小林重文さん(28)が力説する。ザクザクした食感の中に米のうまみを凝縮させ、たんぱく質も取れる。「ジャンクで味が濃くてうまそう、と見せかけて、実は栄養があるという裏切り。この裏切りこそが愛です」。そしてこう続けた。日本の米食文化を守り、農業も応援したい――。あまりに壮大な野望に面食らったが、メンバーたちは真剣そのもの。約2年をかけて開発してきた。

この熱気が象徴するように、湖池屋の業績は好調だ。2021年の売上高は18年の1.2倍、経常利益は4.6倍に増えた。

だが、16年までは、ナンバー2の苦境にあえいでいた。

最近はポテトチップスをおはしで食べる人も増えている
最近はポテトチップスをおはしで食べる人も増えている=鈴木暁子撮影

湖池屋は1953年におつまみ菓子メーカーとして創業。その後、創業者が飲食店で手作りされていたポテトチップスの味に感動し、67年に日本で初めてポテトチップスの量産化に成功した。

しかし、その8年後。人気商品「かっぱえびせん」を誇るカルビーがポテトチップスに参入すると一気に頂点に駆け上がった。国内市場ではカルビーが販売シェア7割と、2位の湖池屋(2割)以下を大きく引き離す。

こうした中、市場では他社より1円でも安く売ろうとする低価格競争が繰り広げられた。湖池屋もライバルの動向ばかりを気にした。他社が価格を下げれば一緒に下げ、増量したら負けじと追従した。マーケティング部長の野間和香奈さんは、「なんとか食らいつこうとしたが、ついていけるほど体力もなかった。出口が見えず、自分たちが何をすべきか見失っていた」と振り返る。トップとの差は広がり、いつしか社員はロングセラー商品の味替えなどを繰り返すばかりになっていた。

転機は16年。キリンビバレッジ社長などを経た佐藤章さん(62)が新社長に就き、改革が始まった。

まず取り組んだのは、「原点」に立ち返り、誇りを取り戻すことだった。

湖池屋には元々、辛口スナック「カラムーチョ」や「ポリンキー」などユニークな商品が多く、熱烈なファンもいる。だが、その「湖池屋らしさ」が失われていると佐藤さんは感じた。佐藤さんの命を受けた野間さんは、創業時の「もの作り」にかける思いを探ろうと、元社員を訪ねて回り、創業者の生前の声が残る音声データを聴き、あらゆる資料にあたった。

浮かび上がったのは、外国生まれのポテトチップスを、どうしたら日本人好みの味にできるかと試行錯誤を繰り返した職人たちのこだわりだった。じゃがいもの厚さ、揚げる温度、油の切り方……。天ぷらを参考に、日本中のじゃがいもを集めて模索していた。「おいしいものを作るのは手間がかかる。人の思いが入っていた」(野間さん)

こうした内容を冊子にまとめ、全社員に配った。中にこんな一文もある。「新しい方へ行け。難しい方へ行け。おもしろい方へ行け」

社員と談笑する湖池屋の佐藤章社長(左)=中村靖三郎撮影

ここから「最高のポテトチップス」作りが始まった。合言葉は「絶対(トップの)まねをしない」。佐藤さんは社員に繰り返し説いた。「ナンバー2は、トップと違うことをしなきゃだめなんだ。オリジナリティーを持つんだ。僕らは僕らのカウンターパンチを出すんだ」。原料選びからのりの配合、塩の粒の大きさまで。手間がかかってもおいしさを追求した。ライバルを見ないかわりに、徹底して消費者の要望や不満に耳を傾けた。広報部長の小幡和哉さんは、「もう1回やれと言われても無理と思うぐらい、みんな鬼気迫る感じだった」と話す。

完成した新ブランドは「プライドポテト」と名付けた。価格は一般的な商品の約1.5倍。それでも、初年度の売り上げは、20億円いけばヒットと言われる業界で40億円に上った。その後も、厚さが通常の約1.7倍の「じゃがいも心地」や食塩不使用の「これまでにない商品」を相次いで出している。

業界第2位の湖池屋の商品

「一品が会社や市場をも変える」。佐藤さんがそう考えるようになった「事件」がある。

新卒で入ったビール市場首位のキリンビールで販売担当をしていたときだ。ナンバー2争いをしていたアサヒビールが87年に「スーパードライ」を世に出すと、市場が一変。10年余りでアサヒはトップに躍り出た。苦しめられた佐藤さんは痛感する。「今までにない商品が出ると、こんなに状況が激変するのか」。その体験が、「生茶」や缶コーヒー「ファイア」といったヒット商品を手がける自身の原動力になった。

環境はめまぐるしく変化している。自動車業界に突然テスラが現れ、掃除機の形はルンバの登場で根本から変わってしまった。「これまでの業界の境目がなくなってきている。スナックの定義を変えてもいいじゃないか」

もはや土俵は一つではない。問われるのは「お客さんの役に立つかどうか」。そのために、新しい価値を生み出すチャレンジをすることこそ「ナンバー2の責務」だと思っている。

■ファミマも堂々「2番目」アピール

昨年のクリスマスシーズンにファミリーマートが販売した「3種チキンのパーティーセット」=ファミリーマート提供(販売は終了)

クリスマスにチキンを食べた人も多いだろう。コンビニ大手ファミリーマートは昨年12月、「ファミマは日本で2番目に人気のチキンのお店!」をうたい、俳優の玉木宏さんらを起用したCMやポスターで大々的に「2番」をPRした。

ファミマによると、昨年8月に全国の15~69歳の男女5000人にインターネット調査をした結果、「日本で人気のチキンと聞いて、思い浮かべるお店」の問いにファミマと答えた人は40.1%、「おいしいと思うチキンはどこのお店のものですか」では24.0%で、いずれもファミマが2位だったという。1位は同じ「チキン専門ファストフード店」だった。

同社マーケティング責任者の足立光さんは、「ファミリーマートの看板製品のひとつであるチキンで、有名なチキン専門店に次いで、『日本で2番目に人気のチキンのお店』に選んで頂いたのは大変光栄なことだと考えましたので、堂々とその事実を打ち出すことにしました。また広告キャンペーンとしてはあまり例のない『2位(でもおいしい)』を、ファミリーマートらしいちょっとおちゃめなトーンで打ち出すことで、注目を集めることができるとも考えました」とコメントした。胸を張って「2位」、そんな時代が来たのかもしれない。