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「2位じゃだめ?」がゲームに 作者が問う「トップだけが勝ち抜く社会」のおかしさ

World Now 更新日: 公開日:
シモン・ハバードさんと、手がけたゲーム「ホワイファースト?」
シモン・ハバードさんと、手がけたゲーム「ホワイファースト?」=本人提供

使うのはマスが並ぶボードと、マイナス4からプラス5まで9種類の数字が書かれたカードだ。各プレーヤーは5枚ずつ配られたカードから1枚を、合図と同時に一斉に自分か他の人の前に置く。例えば「マイナス3」が置かれたら、ボード上の自分のコマを三つ後退させるというふうに、数字に応じてコマを動かす。自分や他人を前後に進ませ、2位になれればポイントをゲット。5ラウンドで合計点が2番目に多い人が勝ちだ。

つくったのはフランスのゲームクリエーター、シモン・ハバードさん(35)。「現実の社会では常に1位であれといわれる。1位以外はみなルーザー(敗者)だと。競争よりも、ときに協力し、周りの人に目を配りながら生きるほうがいい社会なのにと思っていた」。絵描きや作曲活動をしていた2012年、表現手段としてこのゲームを手がけた。

実際にやってみると2位になるのはけっこう難しい。他者との間のポジションにくるには、他のコマの位置や戦略をよく見て、どのカードを切るか判断しないといけないのだ。他のプレーヤーと協力して誰かを1位(つまり負け)にさせるなど、周囲と通じることが必須だ。

「1位の者はさらに点をとろう、もっと力や富を得て強くなろうと、なりふり構わぬ行動に出がち。でもこのゲームはそれではまわらないので、周りの人を注意深く見るようになる。ゲームという小さな社会でも、2位が勝つというルールによって人の振る舞いはがらりと変わる」とハバードさんは言う。

ホワイファーストで遊ぶ様子
ホワイファーストで遊ぶ様子=鈴木暁子撮影

米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に象徴されるスーパースター企業の独占ぶりはもちろん、政治や教育などあらゆる面で1位がぶっちぎりがちな世の中だ。首位以外に出番がまわる、そんな社会の可能性がゲームから見えてくる。

トップだけが勝ち抜く社会にハバードさんが疑問をもったのは、家族で農村に引っ越した12歳のときだ。両親は家畜の健康や環境に配慮しながらヤギを育て、その乳で作ったチーズを広めようと意気込んでいた。だが現実は厳しかった。広告にも費用をかけ大量生産する大企業の製品はあふれ、小規模農家はささやかな生活もまかなえない。効率を上げるためヤギを世話する余裕がなくなり、うなだれた両親の姿が目に焼き付いている。

2018年、フランスの町で、開発したゲームの遊び方を説明するシモン・ハバードさん
2018年、フランスの町で、開発したゲームの遊び方を説明するシモン・ハバードさん(中央)=本人提供

ゲームを発表した12年、フランスでは「もっと稼ぐために もっと働こう」のスローガンで07年に大統領になったニコラ・サルコジ氏がフランソワ・オランド氏に敗れた。「結果がなんだろうと一心不乱に働くだけでは、地球も人もおかしくなる。何のために1位になろうと走るのか。ホワイファースト? そう聞いてみたかったんだ」

ゲームの売り上げはさほど芳しくはなく、現在は市販されていない。だが一時は英国やオランダ、ドイツ、中国、そして日本でも販売された。日本語名は「二位じゃ駄目なんですか?」。名付けたのはゲームストア・バネスト(名古屋市)代表の中野将之さんだ。原題の「ホワイファースト?」ではわかりにくいだろうと、09年に参院議員の蓮舫氏がスーパーコンピューターの巨額開発費を追及した際の発言からとった。このゲームについて中野さんは、「出遅れた人も2位を狙う集団に加わる可能性がある。トップばかりが良いわけじゃないという、皮肉な面白さもありますね」と話す。 

シモン・ハバードさんと「Why First?」
シモン・ハバードさんと「Why First?」=本人提供

■「キャプテン」で苦労した私 2番手の強みは自由さ? 

人に嫌われるのがいやで優柔不断な私(鈴木)が、バレー部のキャプテンに選ばれたのは中学2年生の時だ。悪夢の始まりだった。部活の時間、だらだらとおしゃべりしている友だちに「ねー練習してよー」と言わなければならない。走るのは苦手なのに率先して荒川沿いの土手を走らねばならない。胃を痛くしながら部員の尻をたたいても、よその部の先生にまで「お前がしっかりしないとバレー部は終わりだぞ!」と小言を言われねばならない。なんという理不尽。なんという孤独。なんにも面白くない。

こりた私は高校に入ると部活動やグループ活動には一切近づかず、以来三十余年、リーダーに苦手意識をもってきた。

いま思えば副キャプテンあたりが向いていたのにな。キーッとなったキャプテンに近づき、「まあまあ、○○ちゃんはあんなだけどさ」となだめつつ「練習やろー」と部員たちに呼びかける。みんなに聞いた意見を集約し、「こっちがいいと思うなあ」と方向性を示す。

キャプテンは孤独だけど、副キャプテンはいつも大勢の人の中にいる。「しなければならないこと」「あるべき姿」のような型からちょっと自由な立場で、広く意見を聞きながら調整し、クリエーティブな提案をする。それが私のもつ2番手のイメージだ。この特集で取材した「市場2位の企業」や「第2の都市」、企業や歴史上の「ナンバー2」にどこか共通する気がする。もちろん、一番手ではないがゆえのしんどさもあるのだが。

バレー部の成績は市のベスト8がせいぜいだった。私にも「まあまあ」「一緒にやろー」と言ってくれるナンバー2がいたらよかったのに。いやそういう友はまわりにいたのに、私が頼ろうとしなかったのかもしれない。活躍の場も責任も、1カ所に集中したらつまらないし、しんどい。もっと自由になれば? 私たちのまわりで魅力を放つ「2」はそう教えてくれる。