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捨てられる消防ホース、バッグに生まれ変わるまで 「アップサイクル ラボ」の舞台裏

World Now
「アップサイクル ラボ」の小島忠将さん=畑中徹撮影

廃棄されるはずだった消防ホースが、おしゃれなトートバッグに変身――。

「アップサイクルラボ」(奈良市)は、アップサイクルビジネスの先駆けともいえる会社だ。代表を務める小島忠将さん(43)が2010年に設立した。

小島さんが建築作業員をしていたころ、家屋解体現場で未使用の消防ホースが、大量に捨てられるのを何度も目にした。法律の決まりで、ホースはまったく使われていなくても一定期間が過ぎたら捨てられる。「これはもったいない。何かつくれるはずだ」と考え、自らバッグづくりに挑戦することにした。

材料となるホースを手に入れるため、消防署に電話をかけ「譲ってもらえませんか」と片っ端から頼んだが、「あやしまれて全部断られました」と小島さん。仕方なく、最初はネットオークションで中古ホースを見つけて購入したという。

廃棄される予定の消防ホース=「アップサイクル ラボ」提供

小島さんはミシンに触ったことすらなかった。電話帳をめくっては縫製業者を探して、「消防ホースを使ってバッグをつくりたいのですが、やってもらえませんか?」と加工をあちこちに打診したが、「そんな特殊素材は扱えない」とつれない返事ばかりだった。

粘った末にようやく業者を見つけ、バッグづくりがスタートした。デザインに関する知識もないので、商品のイメージを新聞紙でかたどって縫製業者に見せ、その通りにつくってもらった。

半年ほど経って、試作品第1号ができあがった。しだいに加工を請け負ってくれる業者も増えてきて、トートバッグやショルダーバッグなど商品のラインアップも増えた。
試しにインターネットで販売したところ、3カ月で40個ほどが売れた。「ブランドもないのに、お客さんがついてくれた。これはいけるかも」と、本格的にビジネスとして乗り出した。

消防ホースからつくったバッグ=畑中徹撮影

小島さんは、奈良市内のふつうのマンションの一室を拠点に1人で切り盛りしている。いまは、無理に事業を大きくするつもりはなく、「自分ができる範囲内」で製造と販売を続けている。

看板商品のトートバッグは、一つにつき約2万2000円。1カ月に50~100個は売れるといい、「黒字は確保しています」と小島さん。

いま、バッグの材料はホースメーカーなどから廃棄する予定のものを譲ってもらう。入手したホースは、洗浄してきれいにして縫製業者に持ちこんでいる。

業者の一つは、大阪市中央区の「福永」(代表・福永佳久さん)。会社を訪れて、縫製作業を見学させてもらった。

消防ホースの加工作業=畑中徹撮影

代表を務める福永さんは慣れた手つきで、分厚いホースの素材を特製ミシンで縫いあげていく。約20メートルのホースを「らせん状」に縫っていき、それを「輪切り」にしてバッグのかたちに仕上げていく。らせん状に縫うので、バッグのサイド部分に縦の縫い目がないのが特徴だ。

福永さんは「簡単そうに見えるかもしれませんが、商品として売れる仕上がりにたどり着くまでは試行錯誤の連続で、1年以上かかりました」と話す。

消防ホースを加工する作業=畑中徹撮影

消防ホースはメーカーごとに素材や編み方が異なり、巻かれたまま何年も保管されているので、一つひとつの状態が全然違う。それだけ加工には手間がかかるのだが、「この状態の違いが、製品のまたとない個性になっている」と福永さん。ほかにない味わいがあり、ファンをつかんでいる。

消防ホースの加工を手がける福永佳久さん=畑中徹撮影

創業当時、小島さんは「アップサイクル」という言葉を、社名や商品に使いたいと考えた。だが、周囲の人たちから、「アップサイクルなんて、だれも知らない」「これでは関心をもってもらえない」と言われ、仕方なく「経年変化」を意味する「パティーナ」という言葉を使ったブランド名で始めた。

そして19年12月、ブランド名を「アップサイクル ラボ」に変更した。「世の中でアップサイクルという考え方がようやく知られてきましたね。私にとってはブランド名を変えたのではなく、『元に戻した』という感覚です。アップサイクルがごくふつうのことになればよいですね」