夜のニュースの顔だった孫石熙(ソンソッキ)の姿を見なくなって、1年ほどになる。『場面』では孫が、報道最前線での苦悩や決断を回顧しつつ、ジャーナリズム論を展開する。
現職大統領の弾劾を招いた崔順実(チェスンシル)のタブレットPCの入手や解析の過程。#MeToo報道の裏話。不発に終わったが、平壌に支局を置いて生放送を行う試みなど、激動の日々を知った。
1984年のMBC放送局入社早々、ラジオでニュースを読んだ。大統領の消息に3分のうち2分を充てるのが定番のところ、30秒に縮めて、別の話題を長く読んだ。現場から罵声を浴び、「ジャーナリズムはどう歪曲されるのか、放送初日から体で悟った」。
軍事政権時代の「報道指針」のような圧力は、その後も存在した。孫がテーマやパネラーの選定まで行っていた番組に李明博(イミョンバク)、朴槿恵(パククネ)政権が異議を唱え、局のオーナーが受け入れた。それが30年間身を置いた古巣を離れた理由だ。
地上波のMBCから、新生のケーブルテレビJTBCへ。出演から編集、人事や予算まで担う「報道担当社長」を任された。夜8時台に約100分間の「ニュースルーム」を開設してメーンキャスターを務め、「ドラマよりも面白い」と評判になった。地上波をおさえ、報道では異例の10%台の視聴率をとった。まず取り組んだのは、財閥企業三星(サムスン)の「無労組戦略」への批判。実はJTBCは、三星が出資した中央日報が母体だ。
孫の不敵さは2017年、大統領選挙直前のインタビューでも発揮された。言葉尻をとらえて喰らいつき、与野党を問わず、候補者たちは冷や汗を流した。
JTBCはセウォル号の惨事で、500日以上も現場からリポートを続けた。公益のために持続的報道を行う「アジェンダキーピング」こそ、ジャーナリズムの未来的価値を守ると孫は言う。
政治権力に脆弱だった既存のマスメディアは、デジタル化による「ポストトゥルース」の問題に直面している。個人の主張をたれ流すユーチューバ―の存在は、孫にとっても脅威だ。
突然のキャスター降板後、JTBCの代表理事に就任。その後「巡回特派員」として現場に復帰した。敵も多いが、本格的再登場を待ち望む声も大きい。
■ミネラルウォーター禁止の時代があった
『ただ、やるな』。英語のタイトルはDon’t Just Do It! 思いつきで行動せずに、情報を活用して肯定的な未来へ進めという提案だ。
ソン・キルヨンはネット上の単語を集めてビッグデータを構築し、そこから近未来を予測する作業を行っている。
今の世の中に「あって当然」と思われているものが、何年か前には思いもよらないものだったというケースが多い。例えばミネラルウォーターは、1995年以前は販売禁止品目だったという。「空気と同様の水を特別に管理して売る行為は、階層間の違和感を助長する」という理由で。
韓国で犬が愛玩動物と広く認知されるようになって、まだ20年もたたない。「食用」の認識はすでに消え、今や「伴侶動物」と呼ばれて家族同然の扱いだ。車に犬用シートベルトが装着される日も、遠くはないはずだ。
世の中のすべての現象は、「起こるべくして起こっている」とソンが言うのは、20年近く収集し分析したデータの蓄積があるからだ。そして今の社会現象から判断できることは、近い未来に現実化する。「あえて言うなら、私たちは未来を見ている」
リモートワークはコロナ禍以前からも目についた単語だったが、パンデミックで一気に広まった。非対面の勉強や仕事、それに孤食の普及など、一人社会への急速な移行が進んでいる。上司との会食がなくなって喜ぶ者がいる半面、ホームパーティーのような「選択的対面」への関心は高まっている。
「部下が仕事をしない」という上司の不満は以前からあったが、最近では「上司が無能」というキーワードが急増した。デジタル機器に対応できなかったり、そもそも職場でいばっていただけだったりという上司の姿が浮き彫りになった。能力に応じた年俸制や経験重視など、雇用形態も急速に変化している。
デジタル機器やツールの発展で、誰もが自由に自己表現を行う時代だ。そのすべてが、データとして記録される。「終わりよければすべてよし」は過去の話。どんな過程でも、正しくあることが良しとされる世の中だ。ネットワーク上で誰のフォロワーになっているのかも、その人の政治的な嗜好や関心分野を示す指標となる。
学生時代の友人のSNSから、いじめの前歴がばれて非難を浴びることもある。逆に善行が話題になり、報われることもある。どう生きているかが問われ、検証される社会なのだ。だから社会全体が真面目になり、他人を傷つける行動は減ってきていると、ソンは指摘する。
以前は、今を見ることができなかったから、「過去に学べ」と言った。今は、現在を見ることができる。そして未来は今、作られている。今日を見、今より先の未来を見ることで、私たちはもっと賢くなれるはずだとソンは言う。長引くコロナパンデミックの中、進むべき道を模索する人に、一条の光となりそうな書だ。
■20世紀の事件を追い、いまの自分を知る
ユ・シミンの『逆読み世界史』は元々、1988年に刊行された著作だ。1995年の改訂版が長く売れ続けたが、デジタル化が進んで情報量も増えたことで、今回さらに全面的な書き替えを行ったという。
ドレフュス事件、サラエボ事件、ロシア革命、大恐慌、毛沢東の大長征、ヒトラー、パレスチナ問題、ベトナム戦争、マルコムX、核兵器、東西ドイツの統一とソ連崩壊。歴史の転換点となった20世紀の事件を検証することで、今の自分たちの立ち位置が見えてくる。
著者は62歳。ソウル大学在学中に学生運動に身を投じ、その後、国会議員となった。故盧武鉉(ノムヒョン)政権時代には、保健福祉部長官を務めた。現在は作家、政治評論家として、メディアにもよく登場する。
初版の原稿を書いたのは1987年だった。「独裁者が国定教科書と新聞放送を動員して国民に注入する歴史解釈と戦うつもりで、この本を書いた」
ドレフュス事件が長く記憶されるのは、民主主義時代の到来を知らせる事件だからだと言う。
「20世紀は戦争と社会革命の時代だった。世界大戦が2回あり、社会主義革命の波がヨーロッパとアジアを包んだ。しかし今日の視点から言えば、20世紀は民主主義を文明の大勢とした100年だった。1945年以降は1度も世界大戦は行われず、ソ連や東欧の社会主義は21世紀を待たずに消えた」
過ぎた100年の間に「帝国」は消え、「帝国主義」もなくなった。こんな未来を、20世紀の始まりに誰が想像しただろうか。20世紀で最も大きな「政治的事件」はボルシェビキ革命であり、最も重大な「技術的革命」は核爆弾の開発だったとユは解説し、ドイツの歴史家レオポルト・フォン・ランケの言葉を引いた。「科学技術は発展するが、人間精神は進歩しない」
始まって20年余りが過ぎた21世紀は、革命家や政治家ではなく、科学者やエンジニア、企業家が主役として評価される時代になるのではないかと、ユは想像する。ただしそれは、核戦争や気候温暖化などの危機を解決できていれば、という前提付きだ。
韓国のベストセラー(総合)
2021年11月第3週 インターネット書店「アラジン」より
『 』内の書名は邦題(出版社)
1 거꾸로 읽는 세계사 逆読み世界史
유시민 ユ・シミン
1988年に刊行された原著を全面改訂。激動の世界近代史を読み解く教養書。
2 장면들 場面
손석희 ソン・ソッキ
著名なニュースキャスターは報道の最前線で、なにを考え、どう伝えたか。
3 그냥 하지 말라 ただ、やるな
송길영 ソン・キルヨン
ネット上にあふれる単語を集めたビッグデータから、近未来を読み解く。
4 트렌드 코리아 2022 トレンドコリア2022
김남도 외 キム・ナンドほか
ソウル大学消費トレンド分析センターが予測する2022年の韓国は、虎か猫か。
5 웰씽킹 ウェルシンキング
켈리 최 ケーリー・チェ
富を生み出す思考とは。貧困を脱してグローバル企業の会長となるまで。
6 365일 명화 일력 365日名画日めくりカレンダー
김영숙 キム・ヨンスク
美術史の専門家が選んだ世界の名画を眺めながら、一日を始める幸せ。
7 NFT 레볼루션 NFTレボリューション
성소라, 룰프 회퍼, 스콧 맥러플린 ソン・ソラ、ロルフ・フーファー、スコット・マクラフリン
あらゆる財産の取引履歴をデータ化し、産業と結びつける経済の新理論。
8 주식투자 절대원칙 株式投資絶対原則
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