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南西諸島に次々と部隊配備 MITの安保専門家が語る「台湾、中国、沖縄」

揺れる世界 日本の針路 更新日: 公開日:
与那国島に配備された陸上自衛隊の沿岸監視隊=2016年3月28日、沖縄県与那国町、磯部佳孝撮影

ヘギンボサム氏はまず、分析の前提として「外交的な手段が全て失敗して紛争に至る状況は予想していない。私がシナリオに言及する場合、確率が低くても現実的に抑止を計画する必要があるからだ」とした。

同氏は、過去の例として挙げたのが、冷戦時代に注目が集まったドイツの「フルダ・ギャップ」だ。

フルダは冷戦中、東西ドイツの国境にあり、北大西洋条約機構(NATO)の軍事戦略上、重要な都市の一つに数えられた。この地域の渓谷は「フルダ・ギャップ」と呼ばれ、フランクフルトを目指すソ連軍の進撃路になると予想されていた。しかし「実際には、ここでは発砲もなく、紛争に至る展望すらなかった」。

「同じことはかつての北海道にも言える。今後、南西諸島や台湾についても同様になるよう願う」と述べた。以下は、ヘギンボサム氏との一問一答。

■中国から見ると「最前線」

――南西諸島への自衛隊配備をどう評価しますか。

中国を巻き込んだ紛争では、南西諸島は最前線の地域になる。台湾本島を除き、武力衝突は航空と海上で起きる。従って、島々に配備すべき最も重要な装備は、航空機、対空・対艦ミサイル、そして情報、監視、偵察(ISR)システムだろう。島々の防衛線は、後方で活動する海軍艦艇と、九州や他の場所から給油機の支援を受けて来援する航空機によって強化される。

現代のミサイルの射程と精度は戦闘空間を劇的に変えた。ただ、射程3千キロより、はるかに安価な射程1千キロのミサイルが依然多数を占めている。

異なった位置に存在する複数の基地を、地理的な帯という視点から考える必要がある。南西諸島が中国に最も近い第1のベルトなら、九州と西日本にある基地は第2のベルト、北日本の三沢と千歳、グアムなどの基地は予備的な第3のベルトだ。

戦域にある全ての兵力には回復力を持たせる必要がある。装備の種類に応じて、分散や移動能力の強化、航空機を攻撃から守る掩体の設置、敵の攻撃を欺く措置、航空機やミサイルによる防御のうちの1つ、可能なら複数の手段を持つべきだ。

南西諸島のような中国に近い場所に、空中給油機のように重要な装備を、分散や保護の措置を取らずに配備すると、深刻な脆弱性に見舞われる。逆に戦域からはるか遠くの場所に配備すれば、その価値が低くなってしまう。

沖縄の兵力には大きな価値があるが、損失を織り込むべきだ。南西諸島の防衛で最も重要なことは、損失を最小限に抑え、損失が発生した場合には迅速に代替できるように、民間・軍事インフラを備えておくことだ。例えば、港湾および空港のインフラ、滑走路の修理機能などだ。
那覇に駐屯する航空自衛隊は航空機の数が比較的少ない。那覇のパイロットは平時、より多くのスクランブル(対領空侵犯措置)対応が必要で、緊張を強いられる。でも、ミサイルの脅威を考えると、多数の航空機を配備すべきではない。

平時の配備が、そのまま有事の配備になるわけではない。一方、平時の配備は、有事の展開の基礎になる。例えば、(有事に)航空機の避難所を即座に建設できない。有事の際の配備を考えて準備しておくべきだ。

下地島空港=2012年、朝日新聞社機から

■起きうることと、必要な備え

――宮古島や石垣島、与那国島には港や2千メートル級の滑走路があります。台湾有事の際、避難民がこうした島々にやってくる可能性はあるでしょうか。

私の専門分野外だが、台湾の防衛が崩壊し、中国軍が台湾を占領しているように見えない限り、大規模なボートピープルの動きは起きないだろう。

宮古島から西方にある先島諸島は、台湾有事の際、非常に貴重な要塞になるが、軍事目的で使用するかどうかは、日本政府の方針にかかっている。仮にHIMARS(米国の高機動ロケット砲システム)を与那国島に配備すれば、台湾の北半分の範囲で、中国軍の上陸地点を攻撃することができる。

先島諸島周辺の空域を防衛することは、中国空軍の戦闘機が台湾の東側でパトロールする能力を制限する。日米の対艦ミサイルは、中国艦隊をより脆弱な存在にする。島々に配備したレーダーは中国軍の活動を監視できる。

全体的にみて、台湾から民間人の難民が東に向かって流れるという動きよりも、先島諸島に配備した多くの軍事的要素が西にある台湾に向かう流れが強くなると思う。

台湾や尖閣諸島を巡る戦争が起きれば、戦闘は巨大な範囲に及び、「琉球弧(九州南端から台湾に至るまでの島々)」を大きく越えて広がるだろう。台湾での主な戦いは地上戦になるが、自衛隊と米軍に関する限り、戦いは圧倒的に海空で行われることになる。

陸上自衛隊宮古島駐屯地=2021年4月30日、沖縄県宮古島市、朝日新聞社機から、堀英治撮影

――米軍と自衛隊に必要な「flexibility(柔軟性)」と「resiliency(強靱性)」について、もう少し詳しく教えてください。

例えば、有事の際の民間インフラの使用が挙げられる。中国軍は通常兵器の弾道・巡航ミサイルで基地を攻撃し、日米の質的な空対空の優位性を変えようとする可能性が高い。日米が装備をより多くの施設に分散し、可能なら航空機を隠すことで、生存性と有効性を大幅に増やせる。

日本の市民と政府は、民間インフラの軍事利用を可能にする法改正を行うかどうか決める必要がある。改正すれば、有事の際に日米の助けになるし、中国が戦争を進めることへの抑止に役立つ。

私は、日本政府と沖縄県との間で合意や妥協が可能だと考えてきた。例えば、民間空港の軍事利用などと引き換えに、在沖縄米海兵隊の人数をさらに減らすといった妥協だ。ただ、妥協が不可能な場合、法改正が浮上するかもしれない。

――現在の自衛隊の配備について課題があるでしょうか。

自衛隊の能力は非常に高いが、すべての軍隊と同様に問題を抱えている。自衛隊の場合、2つの問題がある。

第1に、陸海空の統合運用措置が足りないように見える。第2に、予算と影響力の両方で、陸自の役割を超えている。2つの問題は互いに密接に関連している。

おそらく、現在の予算配分は陸が1.5、海が1、空が1という状況だろう。ただ、台湾有事に関連するシナリオは圧倒的に海と空が占める。その比率はおそらく陸1、海と空が各1.5という状況に近い。陸自は現在、海空防衛で新たな役割を担っているが、これらの役割は海自と空自の方が、より合理的かつ安価に担うことができる。

図上演習の結果は、紛争の勝敗が、本質的に空と海で決まることを示している。陸自が海空自衛隊から支援されていた冷戦時代の状況とは異なり、現在は陸自が海空自衛隊を支援するために警備と防空を行うべきだ。米軍も同じような改革が必要だと思う。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)国際研究センターのエリック・ヘギンボサム主席研究員=本人提供

――南西諸島に住む人々は、中国が台湾に侵攻するために、まず尖閣諸島を占領すると考えています。

尖閣の占領は全くないとは言えないが、台湾に対する行動の一環としての占領はありそうもない。政治・軍事の両方の理由から、可能性の低いシナリオだと思う。政治的には、尖閣を占領すれば、台湾に対する行動を容易にするどころか、日本を正面から敵陣営に追い込み、事態を複雑にしてしまう。日本と米国に対する本格的な戦争という危機にさらすことになる。

尖閣を占領しても海空をコントロールできない限り、占領を維持できない。もし、中国軍が上陸すれば、日米は中国が保有する最新型の地対空ミサイルの射程外から、攻撃することも可能だ。

むしろ、中国は台湾本島の南西沖に位置する澎湖諸島など、台湾への軍事作戦と関連性が高い島々を占領する可能性が高いと思う。

日本政府が尖閣諸島を国有化した後、日本の領海内を航行する中国の海洋監視船(右)と、ぴったり並走する海上保安庁の巡視船=2012年9月24日、沖縄県石垣市、朝日新聞社機から、山本裕之撮影

――尖閣諸島を巡る問題で、日本はどう対応すれば良いでしょうか。

これは非常に困難な問題であり、中国周辺の多くの国が直面している問題だ。日本は、ある程度のコストを支払い、パトロールを精力的に続けることで現在の領域を維持できる。中国が今のやり方を続ければ、より多くの国がこれに反発するかもしれない。

既にある程度、この現象は起きている。日米豪印は安全保障対話(QUAD)を制度化する措置を講じた。米英豪の新しい安全保障の枠組み(AUKUS)は明確なシグナルを送った。インドネシアや他の東南アジア諸国の声も更に大きくなっている。楽観的な見方かもしれないが、長期的にみて、北京の指導者は、領土問題を巡る強引な行動が中国自身の利益を損なっている現実を見ることになると思う。

――南西諸島では、有事の際の住民の退避訓練を十分行っていません。

台湾有事の場合、沖縄からの広範囲にわたるNEO(非戦闘員退避活動)は、おそらく役に立たないだろうし、逆に危険を招くかもしれない。

台湾で紛争が起きた場合、沖縄は侵略の標的にはならないが、主にミサイル攻撃と爆撃の危険にさらされる。攻撃の対象は価値の高い軍事目標だ。ミサイルの精度向上で、第2次世界大戦のような大勢の民間犠牲者は出ないかもしれない。それでも、主に海空軍基地や、おそらく主要インフラ(例えば発電所)の周辺で、ミサイルや爆弾の誤爆による危険がある。

最も効果的な民間防衛措置は、島内ではあるが、軍事施設周辺地域から遠く離れた町などにある既存の施設に直ちに避難させることだろう。

紛争が起きている最中の大規模なNEOは、物理的に困難だし、潜在的に非常に危険だ。海空の紛争では、長距離ミサイルが使われるだろう。遠く離れた標的の情報は不完全な可能性がある。NEOで使われる海空のアセットが誤って標的にされる可能性がある。

紛争直前でのNEOは考えられるかもしれないが、個人的には可能性が低いと思う。2017年、朝鮮半島で戦争が起きる可能性が生まれた際、米国と同盟国は、パニックを引き起こしたり、平壌に対する攻撃が計画されているという不確実な情報を送ったりすることのないよう、軍や政府の家族の避難を控えたことがあった。

――中距離核戦力(INF)全廃条約の失効に伴い、米軍はどのような準備を進めていますか。

米国はHIMARSから発射できるATACMS(地対地ミサイル)など既存のシステムの射程を拡大している。陸海軍は陸海軍はC-HGB(共通極超音速滑空体)と呼ばれるブーストグライドシステムも開発している。

しかし、INFは空中発射システムには適用されないため、米海空軍の航空機は(敵の対空ミサイルの射程外から攻撃する)長距離スタンドオフミサイルを多数運用していることを念頭に置いて置く必要がある。

米国は射程約1千キロの空対地ミサイルJASSM-ERを1万発近く購入する。ミサイルを発射する前に、航空機が中国に接近するため、有効射程がさらに長くなる。これに対し、中国は、地上発射型弾道ミサイル約1千300発に加え、おそらく500発の長距離巡航ミサイルしか保有していない。

11月11日、与那国島にある日本最西端の碑の前に立つ山崎幸二統合幕僚長(右)と米インド太平洋軍のアキリーノ司令官=米インド太平洋軍司令部のフェイスブックから

――中国が尖閣諸島を攻撃した場合、日米はどう対処すべきですか。

まず、日本自身が島を守るために戦うかどうかが問題になる。アルゼンチンがフォークランド諸島を占領したとき、英国が反撃した根拠は、単に領土そのものよりも、島に住む英国市民を守るためだった。尖閣諸島に日本人が住むことなしに、日本政府にそのような根拠は得られないだろう。

同盟国が条約の義務を順守するという絶対的な保証は決して存在しない。米国も例外ではない。例えば、もし、中国が尖閣諸島を占領しても、特に砲撃戦が実際に始まっていない場合、米国が紛争を拡大させないようにするシナリオが想像できる。

しかし、自衛隊と中国軍が交戦すれば、米国が日本の支援にやって来ると確信する。それは、尖閣諸島が日米にとって大きな価値を持っているからではなく、この紛争が、米国の同盟体制と中国の間における強さを試し、今後の世界におけるパワー・バランスと米国の役割に影響を与えるからだ。

■バイデン政権の台湾政策

――バイデン大統領は、中国が台湾を攻撃したとき、米国は台湾を守る義務があると語りました。米国は本当に台湾を防衛する考えがあるのでしょうか。

台湾問題は主に軍事的というよりも政治的な問題だ。現在の「戦争パニック」が米国に対し、抑止ではなく、紛争の可能性を高める措置を講じるよう導いているのではないかと懸念している。

米国が介入し、日本もそれに加わるか、在日米軍基地の使用を許可すると仮定した場合、中国による侵略が成功する見通しは非常に小さい。他の選択肢がない限り、中国の指導者がこの冒険を追求することはないだろう。

バイデン大統領自身も相反する発言をしているが、彼の公式発言をみると、米国による戦略的あいまい政策によって、「台湾が法的な独立を宣言するなら戦わない」と、「中国がいわれのない攻撃を始めた場合は戦う」という二つの警告を示唆してバランスを取っているように見える。

台湾が攻撃された場合、米国が実際に戦うかどうかについては、多くの見方がある。私は個人的には、台湾が自ら現状を変え、攻撃を引き起こしているように見える劇的な動きを起こさない限り、米国は戦うと思う。中国が台湾本島に侵入したり、海上封鎖を行ったりするよりも、小さな沖合の島に侵入した場合のようないくつかの例外はありうる。このような場合、対応は主に軍事ではなく政治や経済的な対応になるだろう。

Eric Heginbotham MITで政治学の博士号を取得。外交問題評議会(CFR)では、アジア研究のシニアフェローを務めた。その後、米ランド研究所の上級政治研究員として、中国や日本、アジア地域の安全保障問題に関する研究プロジェクトを指揮し、軍や情報、政治分野の指導者に定期的な説明を行った。主な共著に「China Steps Out」「The U.S.ーChina Military Scorecard: Forces, Geography, and the Evolving Balance of Power」などがある。