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「人は移動するほど幸せを感じる」という研究成果 「遠出するとスカッ」は本能かも

World Now

ニューヨークとマイアミで132人の動きをGPSで3、4カ月追跡調査した。ランダムに心理状態を問うアンケートにも答えてもらい、被験者の一部の脳をMRIなどで分析した。これまでもGPSを使った追跡調査と日常生活の感情評価を組み合わせた研究はあったというが、期間は2週間程度で、「3、4カ月という長期にわたる追跡と脳画像分析を結びつけた研究はなかった」という。

調査の結果、「日々の身体的な位置の変動が人間のポジティブな感情の増加と関連することを発見した」と論文は指摘。ヘラー氏は、「人は行ったことがない場所に行くなど探索の度合いが高い日には、より幸せを感じる、というデータが示された。さらに脳の画像からは、新しい場所により多く行くなどして幸せを感じた人は、脳の中の記憶と意欲などに関わる領域が強く結びついて働いていることもわかった」と話す。

ここから言えるのは「人間には環境を探求する欲求があるということ」だという。動物は歴史上の様々な時点で、同じ場所にとどまってそこにあるだけの食べ物を得るか、もっと良い食べ物があるかもしれない別の場所を探しに外に行くか、「探索と利用のジレンマ」と言われる決断を迫られてきた。これまでの研究とあわせて考えると、「多くの哺乳類は、今あるよりも優れたものが存在するかどうかを確認したい欲求があるようだと示唆している」とヘラー氏は話す。

さらにヘラー氏は「私は人類学者ではないので推測だが」としたうえで、人類が長い年月をかけて世界を移動してきた理由に、この探求したい欲求があったのでは、と考える。

米マイアミ大のアーロン・ヘラー准教授=本人提供

これまでの研究から、新しい場所に行って探索することで得られる多様な研究は脳に良い影響をもたらすと考えられている。「筋肉が鍛えれば大きくなるように、新しい場所に行くと脳が鍛えられ、ストレスへの耐性が高まり、健康が改善される」。ヘラー氏は、こうした特徴を「人間の核心部分」の一つではないか、と指摘する。

移動については、「どれだけ遠くへ、ではなく、どれだけ多様な新しい場所に行くかが重要だ」と言う。また移動手段では、体を動かすことは不可欠ではなく、電車や車でも、「見たり、聞いたり、触ったり、においをかいだり、五感を通して新しいことを経験することが、ポジティブな感情を高める」。

VR(仮想現実)で移動したような体験をした場合、幸福感は得られるのか。

ヘラー氏は「まだ100%の答えはない」としたうえで、「シンプルなコンピューターゲームでも脳は変化するというデータはいくつかある」と指摘。「VRは、新しい場所を歩き回ることや、多様で異なる経験をすることで得られるのと同じ効果を、すべてではないにしても再現できるのではないか」とみる。