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中国とロシアの艦艇、津軽海峡を同時に通過 接近する両国、日本の取るべき道は

揺れる世界 日本の針路
ロシア海軍のウダロイⅠ級駆逐艦(上)と、中国海軍のレンハイ級ミサイル駆逐艦(下)=防衛省統合幕僚監部提供

■協力を前面に出した対ロ戦略

岸田文雄首相は8日、所信表明演説で国家安全保障戦略を見直す考えを表明した。日本の国家安全保障戦略は2013年末に策定されたが、緊迫の度合いを深める国際情勢から取り残された内容になっている。典型が、協力ばかりをうたった対ロシア戦略だ。

たとえば「ロシアとの間では安全保障及びエネルギー分野を始めとするあらゆる分野で協力を進め、日ロ関係を全体として高める」としている。兵頭氏はこの記述について「日本の安全保障にとってロシアと中国は別の存在だという認識のもと、中ロの離間を目指す戦略だった」と語る。

日本は2013年当時、今後は中国が最大の脅威になると想定していた。兵頭氏は「近年の日本の対ロシア戦略は、対中国戦略に従属する形で決められた」とも指摘する。「中国とロシアに対して二正面作戦を実施する力は日本にはない。日ロ間には領土問題があるので、対立するわけにはいかないという事情もあった」。

こうした事情から、国家安保戦略にはロシアとの友好関係を強調する内容が盛り込まれ、当時の安倍晋三政権は、外務省の一部にあった慎重な対応を求める声を振り切り、一気呵成に北方領土問題の解決を目指した。

だが、通算27回に及ぶ安倍元首相との日ロ首脳会談で、ロシア側は北方領土を返還する動きを見せなかった。日本が国家安保戦略で「ロシアと仲良くしなければいけない」とうたったことが、ロシアから足もとを見られる結果を招いた。

北方四島の最高峰、国後島の爺爺岳(ちゃちゃだけ・中央)。左後方に択捉島がある=2019年1月30日、朝日新聞社機から、山本裕之撮影

そればかりか、ロシアと中国は近年、安全保障面で接近を続けている。その典型が合同軍事演習だ。

■関係深める中ロの軍

中ロ両国は2005年、上海協力機構の枠組みを利用して初めて合同軍事演習を実施した。12年からは中ロ合同海軍演習を両国の近海などで始めた。19年には共同飛行訓練を始め、竹島周辺などを共同パトロールした。地上での合同演習も始まり、18年にはロシアが極東地域での演習に中国軍を招待。今年8月には中国が西部戦区での演習にロシア軍を招待した。

兵頭氏は中ロ両国の軍事的な接近の背景について「中ロ両国と米国との関係が主な原因になっている。米ロ、中ロの関係がそれぞれ悪化すると、中ロが相互に接近するという構図だ」と指摘する。

兵頭慎治氏(本人提供)

中国は1996年の台湾海峡危機の際、米海軍の介入を受けた。中国は軍事力の近代化を決意し、ロシア製の戦闘機や潜水艦などを購入した。中国軍の脅威が高まったことで、米国のオバマ政権(当時)は、米軍兵力を欧州からアジアに回す「アジア・ピボット」政策を取り、米軍の脅威に対する負担が軽くなったロシアが恩恵を受けるという構図が生まれた。

バイデン政権は今年3月に発表した国家安全保障戦略の暫定的な指針で、最大の脅威を中国、2番目の脅威をロシアと、それぞれ定めた。同政権は、中国とロシアによる軍事協力を警戒し、懸念を表明している。

兵頭氏は現在の中ロ関係について「現時点では、中国が積極的にロシアの軍事協力を引きだそうとしているように見える」と語る。バイデン政権は中国の抑止に躍起になっており、アフガニスタンからの撤兵も実現したからだ。同氏は「中国は、インド太平洋地域に兵力を集中させようとしている米国の動きを警戒している」と語る。

ロシアと中国は2000年、善隣友好協力条約を結んだ。来年2月に条約が満了する予定だったが、両国は6月にオンライン形式で行われた首脳会談で5年間の延長を決めた。条約には軍事同盟の核心的な要素である自動参戦条項はなく、一方が侵略などを受けた際、双方が早急な協議を約束するにとどまっている。

首脳会談後の署名式で握手を交わすロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=2018年6月8日、北京の人民大会堂、延与光貞撮影

プーチン大統領は最近、中国と直ちに軍事同盟を結ぶ考えはないとしながらも、将来締結する可能性も否定していない。兵頭氏は「ロシアは米国との間で、ポスト新START(新戦略兵器削減条約)の交渉を進めようとしている。ロシアには、これ以上中国に傾斜すると、7月に始まったばかりの米ロ間の戦略的安定対話が壊れてしまうという危機感もあるだろう。対米交渉力を上げるため、あえて中国に接近している側面がある」と語る。

いずれにしても、「中国とロシアを離間できる」という日本の国家安全保障戦略の前提は崩れ去ったように見える。今後、国家安保戦略の改定作業が進む際は、ロシアを巡る記述の変更が課題の一つになることは間違いない。

■ミサイルをめぐる気になる動き

ロシア海軍のステレグシチー級フリゲート=防衛省統合幕僚監部提供

兵頭氏は「今の日本と米国とでは、ロシアに対する安全保障上の認識に大きな違いがある。米国の方がロシアに与える影響がはるかに大きい以上、もっと日本が米国に近づく努力をすべきだ。日本の対ロ政策は米ロ、中ロ関係を無視しては作れない」と指摘。新しい国家安保戦略では、ロシアについて「敵ではないが、十分警戒すべき相手だ」などの記述に変更すべきだとの考えを示した。

懸念する材料はまだある。米国とロシアが、射程500~5500キロの地上発射型の弾道・巡航ミサイルの廃棄を定めた中距離核戦力全廃(INF)条約が2019年に失効した。これにより、ロシアは中距離ミサイルの開発・生産を急いでいる。

兵頭氏によれば、ロシア軍は中ロ国境に射程500キロ以下の戦術核を扱う部隊を配置している。日本はその射程に入っていないため、日本もミサイル防衛の対象にロシアを含めてこなかった。「もし、ロシアが極東地域に射程2千~3千キロのミサイルを配備するなら、日本もロシアのミサイルの脅威に対応する必要が出てくる」

INF条約失効後、米国がグアムなどへ中距離ミサイルを配備する動きを示すたびに、中国とロシアが一緒になって強く反発してきた。兵頭氏は「軍拡競争を行う体力のないロシアは実際、米国との中距離核の配備合戦はしたくないのが本音だろう。ただ、日本の安全保障におけるロシア要因は良い方向に進んでいない。中ロの軍事関係の深化や米ロの中距離ミサイル競争は、将来的に日ロ関係を緊張させる可能性がある」と語る。

中国海軍のジャンカイⅡ級フリゲート=防衛省統合幕僚監部提供

ロシアも中国もすでに、従来のミサイル防衛では対応できないとされる極超音速滑空弾の実戦配備を終えているとされる。岸田首相は10月8日の所信表明演説で「更なる効果的措置を含むミサイル防衛能力など防衛力の強化」をうたった。今後は、ミサイル防衛の強化にとどまらず、相手に攻撃を思いとどまらせるための、敵基地攻撃能力を含む反撃力の構築なども検討する必要があるだろう。

岸田首相は10月7日、プーチン大統領と初めての電話会談を行った。岸田氏は会談で「平和条約締結問題を含め、日ロ関係全体を互恵的に発展させていきたい」という考えを示した。岸田氏は会談後、記者団に「4島の帰属の問題を明らかにして平和条約を締結する。こうした方針は従来と変わりはない」と語った。

■北方領土で日本を刺激する理由

だが、安倍政権下での交渉から明らかになったのは、北方領土を返す考えがないロシアの立場だった。兵頭氏によれば、プーチン政権を支える国内基盤は弱体化しており、対外姿勢で強硬にならざるを得ない傾向が強まっている。同氏は「プーチン政権は9月の下院選で勝利はしたが、地方に予算をばらまき、反対派を弾圧するなど、なりふり構わない姿勢が目立った」と語る。

ロシアのミシュスチン首相が7月、択捉島を訪問。10月15日には、グリゴレンコ副首相兼官房長官とフスヌリン副首相も同島を訪れた。ロシア海軍は10月5日、日本海でミサイル迎撃演習を実施したと発表した。兵頭氏は「現在では、北方領土問題解決の機運がしぼみ、日本のロシアに対する関心がなくなったからだ」と語る。プーチン大統領も、極東開発に日本の経済協力が必要だと考えており、最近の日本を刺激する行動は「日本のロシアに対する関心を高めるための観測気球」だという。

1956年の日ソ共同宣言署名から19日で65周年を迎えた。日本は今後、日ロ関係を巡り、北方領土問題だけに関心を集中させず、安全保障分野で楽観論に傾かない冷静な対応が求められることになる。


ひょうどう・しんじ 外務省在ロシア日本大使館政務担当専門調査員、内閣官房副長官補付内閣参事官補佐、内閣官房国家安全保障局(NSS)顧問などを歴任。共著に「希望の日米同盟―アジア太平洋の海洋安全保障―」(中央公論新社、2016年4月)、「現代日本の地政学」(中央公論新社、2017年8月)など。