コロナ禍によって、私たちの生活が大きく変わりました。
病気や自然災害、テロ攻撃などで世の中はどんどん変わります。
先日会った香港都会大学の教授は「想定外の出来事はこれからもっと増えると思います」と言っていました。
「気候変動によって、自然災害がもっと頻繁に起きると思いますよ」
と真面目に話したあとに「地球以外から生物が来ることもあり得るし、楽観はできないね」ですって(笑い)。
同席していた教授の娘が「そんな不安定な未来に、どうやって子供を育てれば良いの?」と聞きました。
「良い質問です。それはアグネス博士に聞いてください」とボールが私に渡されました。
■予測不可能な未来に備える
予測不可能の未来に備えるために、子供たちは強くならないといけません。
体が強いだけでなく、精神的な強さも必要です。
何が起きても驚かない、臨機応変に対応ができる人間。
逆境に強い、打たれ強い、反発力があり、粘り強い、生命力に満ちている子供を育てないといけません。
どうすれば、そんな子供が育てられるのか?
まずは子供が求めることすべてやってあげないことです。
要求に応えるたびに、子供は問題を解決する方法を学ぶチャンスをなくしているのです。
例えば、手をつないで眠りたいと子供に言われたら、どうするか。
「分かった、分かった」と手をつないであげて、子供が眠ったら離すという親がいます。
しかし、手を離すたびに、子供は泣き出して、起きてしまいます。
これは大変残念なやり方です。
親が子供の要求を理由も聞かず、他の方法も考えさせないままで応じたからです。
本当は「どうすればママと手をつないで寝ることが可能になる?」と子供に考えてもらいます。
「パパとも相談しないと」「ママが寝られないと、元気がなくなってしまって明日お弁当が作れないよ」
「あなたが安心して寝れる方法は他にある?」「ぬいぐるみのクマさんも寂しいので、彼を抱いて寝るのはどう?」と子供の要求を満たす方法を考えます。
そうすると子供の「問題を解決する」能力が上がるのです。
自分の要求が正しいのかどうかも考えられるのです。
■勇気は「がんばれ!」では出てこない
次に、子供にチャレンジする勇気を与えることです。
勇気は「がんばれ!」の掛け声で出てくるものではないのです。十分なプランニングと想像する事で出てくるものです。
例えば、人の前で話すのが怖い子供にスピーチする勇気を与えるにはどうすればいいでしょうか。
子供と一緒にスピーチの練習をして、人の前で話していることを想像して、起きうる事を考えてみるのです。
急に内容がわからなくなった時はどうするのか。
誰かが笑ったらどうするのか。
カメラのフラッシュが目に入ったらどうするのか。
マイクが故障したらどうするのか。
咳をしたくなったらどうするのか。などなど。
いろいろ想定して、どんな事が起きても対応できる準備をしておけば、安心してスピーチができるのです。
チャレンジする勇気は知識と準備で得られると、子供に信じさせましょう。それを実行して、習慣にすれば、子供のチャレンジ精神が強くなります。
■リスクに備える
強い子を育てるために、子供に安全な環境だけでなく、リスクを与えるのも必要です。
例えば、怪我するのが心配な親は、
「ジャングルジムはよじ登ってはいけない」
「ブランコも危険」
「早く走ってはいけない」。
このように過保護になってしまうと、子供はリスクを嫌って、自分の居心地の良い環境でないと活動できなくなります。
つまり自分のコンフォートゾーン以外で慌ててしまったり、対応できなくなってしまうのです。
私の長男は、小さい時はちょっと臆病なところがありました。
公園に行っても「怖い」と言って、いろんな遊びを避けていたのです。
そんな長男を見て、私は彼を抱っこして滑り台を滑ったり、ブランコに乗ったりしました。
その楽しさを覚えたぐらいの時に、「自分で乗ってみる?」と勧めました。最初は「ママと一緒に」と言っていましたが、そのうちに一人でも、できるようになりました。
ジャングルジムにも登れるようになって、一番上に登った時の「ママ、見て見て!」と嬉しそうな息子の笑顔は、今もはっきり覚えています。
その後は結構、擦り傷を作ったり、怪我をしたりしました。
でも、本人は平気で、「痛くない」と言うのです。
リスクはあります。でも、すべてのリスクを無くした子育てでは、子供は強くなれないのです。
■失敗したときに「なぜ?」と聞かない
子供が落ち着いて災害の時に対応できるために、いろいろな具体的なスキルが必要です。
停電したときにはどうするのか。
地震が起きた時はどうするのか。
水害の時、山で迷った時、海で溺れそうになった時は。
交通事故に遭った時、車が動かなくなった時、携帯がつながらなくなった時は。
110番を始め、大事な電話番号は暗記してもらうなどなど、できるだけ具体的な行動を一緒になって練習するのが良いと思います。
救急の事態に対応する手順も話したり、やってみたりすることで、子供は自信が付きます。
私は都会でありそうな災害を想像して、子供たちに教えましたが、自然の中のサバイバルスキルを教えることはできませんでした。
でも幸い、子供たちが通っていた高校は毎年2回、10日間のサバイバルキャンプに行くのです。
山の奥で、荷物を背負って、毎日何十キロも歩き、野宿。トイレもお風呂もない生活を経験するのです。
川で魚を獲り、自分たちで火を起こして調理するなどの経験をして、息子たちは今、山で何週間も生活できる自信があるといいます。
心身ともたくましくなったと思います。
これらのスキルはすべて強さにつながると思います。
親が教えられるスキルはすべて教えて、そのほかは人の力を借りて、子供に教えてもらうのも一つの方法です。
さらに子供たちが失敗したり、望ましくない行動にでた時に、「なぜ?」と聞くのより、「どうすれば良い?」と聞いたほうが強い子が育ちます。
Why?ではなく、How?です。
「なぜ部屋を片付けてくれないの?」と聞くよりも、
「どうすれば片付ける気になれるのかな?」と聞いたほうがいいです。
「ママも家事が面倒臭いと思う時があるよ」と一緒になって考えてみる方が問題を解決できる子に育てられるのです。
朝なかなか起きてくれない子供に、「なぜ起きてくれないの?」と言うより、「眠いのに、暖かいベッドから起きたくないよね。起きられる方法はあるかな?」と聞いてみたほうがいいのです。
その時に、親がすぐに答えを出してはいけません。
子供に考えさせて、出した答えを一緒に話し合うのが大切です。
批判的ではなく、答えを探す楽しさを教えるのです。
想定外の大きな問題に立ち向かった時に子供たちが悲観的にならないために、親は子供を慰めるのではなく、本音で話すことが大切です。
「あの学校に受からなかったらどうしょう?」と子供が悩んでいたら、
「大丈夫よ。きっと受かるよ」といった子供の心配を無視している言い方や、
「毎年、希望校に入れない人はたくさんいるの。それでもいい人生を送る人が多いのよ」と慰める言い方より、その心配を受け止めます。
「そうだね、心配よね。いくら勉強しても、絶対に受かる保証はないよね」
と心配の理由を理解していることを示した上で、
「どうしましょう?もっとたくさんの学校を受けましょうか?」
「留学もあり?」
「一年浪人も考える?」と心配を解決する方法を提案してあげる方がいいと思います。
困難があった時、心配するのは当然と教えます。解決は可能、方法はたくさんあると子供の思考を前向きに導いていくのです。
■失敗体験を持つ子の強さ
多くの親は子供が失敗しないように、気を配っています。
子供が歩く道の小石を全部拾って、子供がスムーズに歩けるようにするのです。
でも、失敗を経験していない子供は自分の能力を過大に思い、本当に失敗した時には打撃に耐えられなくなります。
小さい時から失敗体験を持っている子供は立ち直ることができます。
そして、失敗は終わりではなく、目標達成の一歩だと分かるのです。
打たれ強い子、反発力のある子を育てたいなら、失敗体験をさせるのは大切です。
子供の代わりになんでもやってあげる親もいます。
そんな子育ては子供を弱くします。
家事、宿題、友達作り、送り迎えなどなど、親がすべてやってあげてしまうと、子供は親がいないと何もできなくなってしまいます。
自立できる子供こそ強く生きていける、人を助けることもできるのです。
基本な家事、料理、人間関係の構築を小さい時から積極的に子供にやらせるのはとても重要です。
できた時は褒めて、褒めて、励まして、自分でやる喜びを覚えさせるのも大切です。
■自分と話して、答えを見つける
強い人間になるために、心理学者が良くお勧めするのは自分との対話です。
何か問題が起きた時、声を出してもいいし、心のささやきでもいいので、自分と話す事で問題解決を探すのです。
ちょっと気恥ずかしい方法ですが、とても効果のある方法です。
実は自分の中に答えを持っている場合が多いのです。
でも混乱したり、悲しくなったりすると、理性に考えることができなくなります。
小さい時から、周りに誰もいなくても、自分と落ち着いて会話して、問題を解決する習慣を子供に覚えてもらえれば、災害の時、緊急の時でも、冷静に物事を考えることができます。
褒める時も、「よくやったね」「すごいね」と簡単な言葉ではなく、なぜ良かったのか、なぜすごいのか説明もつけて褒めた方がもっと効果的です。
「クッキーすごく美味しかったです。時間のない中に、新しいレシピを考えて、すごいね」と理由を明確に話すのです。
そうすると、もっと子供はなぜこれはいい結果なのかがよく分かるのです。
結果を褒めるのではなく、できれば、プロセスを褒めるのがより子供の自信につながります。
■共感が心を強くする
子供たちの思考や行動力を強くしても、心が弱いと困難を乗り越えられません。
だから、子供の気持ちをよく理解して、共感することで心にたくさんの糧を与えることが必要です。
悲しい時は一緒に悲しむ、そして、その悲しみを和らげる方法を一緒に探す。
悔しい時は一緒に悔しがる、解決できなくても、一人ではないと実感させるのです。
子供が自分にがっかりした時も、その気持ちを汲み取って、どうやって、自分が立ち直れるのかを一緒に考えるのです。
怒っている時も、理解してあげて、怒りがおさまる方法を考える。
「人間は感情があるからこそ素敵、どんな感情も自然なもの、でも、感情に溺れてしまうのでは人生がもったいない」と常に話してあげることも大切です。
「前向きな感情も、後ろ向きの感情も、コントロールできれば、より素敵な時間がその先に絶対にあるよ」と希望を与えてあげるのも親の役目です。
そして、一番重要なのは、親が自分で強くなって、子供たちにその背中を見せることです。
簡単なことではないし、常にできることでもありません。
でも、立ち直っていく親の姿が、実は一番子供たちを励ますのです。
「ママが乳がんから立ち直って、本当にすごい」とよく息子たちに言われます。
「息子のために、強く生きていく」と私はいつも自分に言い聞かせています。
今は、たまに弱音を吐くママを息子たちが励ましてくれるほど、息子たちの方が強くなったような気がします。
私が口癖のように息子たちに言っているのは、
「強くなるのは自分のためではない、人を助けるため。一番強い人は優しい」
ということです。
未知の未来に向かって、よりたくましい、そして優しい子供たちを育てましょう。
それによって、我が子だけでなく、多くの人を救う事ができるかもしれません。