1. HOME
  2. Travel
  3. エジプトに残る「コプト教」とはどんな宗教? オールド・カイロの教会を訪ねた

エジプトに残る「コプト教」とはどんな宗教? オールド・カイロの教会を訪ねた

At the Scene 現場を旅する 更新日: 公開日:
コプト教のムアッラカ教会。聖家族(幼きイエスと聖母マリア、養父ヨセフ)のモザイクが鮮やかだ=エジプト・カイロ、北川学撮影

エジプトのムバラク独裁政権が「アラブの春」で崩壊したのは、2011年2月。その後も民意によって選ばれた大統領を軍が拘束するなど、混乱が続いた。イスラム過激派のテロも横行。キリスト教の一派、コプト正教会の信者も狙われた。イスラム教徒が主流のこの国で、独自の信仰を守ってきた少数派のコプト。その歴史に興味を持った私は、由緒ある教会が集まるカイロ南部のオールド・カイロに足を運んだ。

14世紀に全面改修された石造りの水道橋(①)を見上げながら、オールド・カイロに入る。訪れたのはコプト博物館(②)。コプト語で書かれた古い福音書や宗教画などが並ぶ。十字架に架けられたイエスを抱いて涙する聖母マリアの絵に、心を揺さぶられた。

エジプトでは紀元60年ごろ、福音記者の聖マルコが宣教を始めた。これがコプト教会の起源とされる。原始キリスト教の名残をとどめ、人として生まれたイエスの「神性」を強調する立場だ。キリスト教の教義が形成される過程で、「イエスは真(まこと)の神であり真の人」と定められた451年のカルケドン公会議で異端とされた。独自に発展したコプト教会の特徴は、断食期間の長さだ。年100日以上は食に関する制限がある。復活祭前の55日間は肉、魚、乳製品、卵を口にできない。クリスマスは1月7日に祝う。古代エジプトに起源を持つコプト暦を使っているためだ。

ナイルメーターの外観。現在は水位計としては使われていない=エジプト・カイロ、北川学撮影

博物館を出て、隣のムアッラカ教会(③)に立ち寄る。ローマ時代の要塞の上に2世紀に建てられたことから、「ハンギング・チャーチ」とも呼ばれる。床にはめられたガラス窓をのぞくと、古代の遺構が見えた。丸みを帯びた木組みの天井は、ノアの箱舟をかたどった。

近くの聖セルギウス教会(④)は、ぜひ見たいと思っていた。幼きイエスの命を狙ったユダヤのヘロデ王から逃れるため、両親とエジプトに渡ったイエスが、ここの地下洞窟で3カ月過ごしたと伝わる。教会は4~5世紀に洞窟の上に建てられたとされる。

ムアッラカ教会の内部。この日は子どもたちの見学者が多かった=2021年8月7日、カイロ、北川学撮影

聖書の世界の余韻に浸りつつ外に出る。500メートルほど北に、アフリカ大陸最古のイスラム礼拝所がある。642年に建てられたアムル・イブン・アース・モスク(⑤)。この地を征服したアラブ軍司令官の名を冠した。当時は泥れんがとヤシの木で造られたが、その後拡張された。訪れた時はちょうど昼の礼拝時間だった。集まってきた数百人が聖地メッカに向けて一斉に頭を下げ、祈りを捧げた。

エジプトの人口は約1億人で、9割はイスラム教徒。1割はキリスト教徒で、その大多数はコプトだ。信者のサルワット・ソブヒさん(32)は混乱の日々を振り返り、「過激派はテロで宗教対立をあおろうとしたができなかった。宗教こそ違えど、私たちは長く共生してきたのだから」。誇らしげにそう話した。

■エジプトのソウルフードを食べる

エジプト料理でお薦めしたいのが、ターメイヤだ。すり潰したソラマメに細かく刻んだ香草などをまぜ、丸く整えて油で揚げたもの。日本のコロッケとそっくりだ。

エジプトの名物料理「ターメイヤ」

揚げたてが食べられる、オールド・カイロ近くの専門店に立ち寄った。おなかがすいていたので、セット料理を注文した。ターメイヤのほかに、ソラマメのペースト、揚げナス、ピクルスなどが出てくる。これらを少量ずつ、薄い円形のパンにはさんで食べる。一口で色んな味が楽しめる。もちろん、ターメイヤ一品でも十分おいしい。

「朝食に買っていく人が多い。エジプトのソウルフードだよ」と店員のアフマド・アワドさん(45)。

ソウルフードと言えば、双璧をなすのがコシャリだろう。コメやマカロニなどの上にトマトソースと素揚げのタマネギを掛け、混ぜて食べる。でもアワドさんは、「コシャリは炭水化物の塊。ターメイヤはマメだから健康にいいんだ」と譲らなかった。

新たにできたエジプト文明博物館。コロナ禍でエジプトを訪れる外国人は減り、来場者は地元の人ばかりだった=2021年8月11日、エジプト・カイロ、北川学撮影

エジプト文明博物館

エジプト文明博物館(⑥)は、4月に全面開館した新しい国立の展示施設だ。最大の目玉は、古代エジプトのラムセス2世やハトシェプスト女王など22体のミイラ。これまでカイロ中心部のエジプト考古学博物館に展示されていたが、文明博物館の全面開館で4月に引っ越した。移送は1体ずつ載せた特殊な車両が「行進」し、話題となった。

ナイルメーターの外観。現在は水位計としては使われていない=エジプト・カイロ、北川学撮影

ナイロメーター

ナイル川の水位を測ったのが、ローダ島南端のナイロメーター(⑦)。建物の中に入ると、深さ約10メートルの立て坑がある。側面の穴から水が入るようになっていて、目盛りを刻んだ柱で測った。ウマイヤ朝(661~750)時代に造られ、861年に改修された。