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コロナでテレワーク「生産性高い」の罠 パニック障害、不眠症…ドイツで一転、深刻に

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 
テレワーク疲れに悩む人が増えているという(写真はイメージです)=gettyimages
テレワーク疲れに悩む人が増えているという(写真はイメージです)=gettyimages

ドイツでは昨年春、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、厳しい外出制限が設けられました。その影響で、多くの企業がテレワークを導入しました。

州によっては保育園や幼稚園が閉鎖され、感染防止の観点から祖父母やベビーシッターの助けを借りられないなか「家の中で幼い子供の面倒を見ながらテレワークをしなければいけない人」も多くいました。

それでも当初、「この状況は永遠に続くものではないから」とストレスを感じながらも事態を楽観的にとらえている人もいました。「ロックダウン中のホームオフィス」は、誤解を恐れずにいうと「一種のアドベンチャーのよう」だとポジティブにとらえる人もいたのです。

アイスランドやスウエーデンと比べると、コロナ禍になる前のドイツではテレワークの比率こそ低かったものの、テレワークは「革新的でポジティブなもの」として捉えられてきました。

会社に通勤する必要がないことから柔軟に働くことができ、かつ家で子供の面倒も見ることができる――。ホームオフィスは「仕事とプライベートの境目を良い意味で曖昧にし、仕事の効率を上げる」ものとして絶賛されてきました。

実際にドイツ一般健康保険DAKの幹部であるAndreas Storm氏は昨年7月に「ホームオフィスで働く従業員のほうが仕事の効率が高く、ストレスが低いことが分かりました。ホームオフィスは『コロナとの闘い』の面だけではなく、『従業員の精神的なバランス』のためにも有効です」と語っています。

ところが最近、ホームオフィスの問題点も見えてきました。マイクロソフト社がフルタイムで働く3万1千人にアンケートを取ったところ、特にヨーロッパの人がホームオフィスで強いストレスを感じていることが明らかになりました。

ドイツではテレワークをしている人の42%が「毎日、正常ではない疲れを感じる」と回答、37%が「会社の要求が多過ぎて、従業員への配慮が見られない」と答えています。

聞き捨てならないのは「コロナ禍になりテレワークが増えてから、6人に1人が同僚の前で泣いたことがある」と回答している点です。コロナ禍に伴うテレワークで多くの人が精神的に追い詰められていることが明らかになったのです。

家事育児、すべて女性に降りかかることも

シュピーゲル誌(14号)では、子供の通う幼稚園が休園となり、ベビーシッターや祖父母の助けも借りられないなか、家で仕事もしなければならないため、子供が眠った夜から明け方にかけてテレワークをしていた人が慢性的な睡眠不足になり精神的に病んでしまったことが紹介されています。

また夫婦のうち夫だけが出社を求められたため、それまで夫婦で分担していた家事育児が全て女性に降りかかり「家でテレワークをしながらワンオペをする」という状況が続き、倒れてしまった女性もいます。

当事者にとってもどかしいのは、精神的な不調の原因が「家で子供の面倒を見ながら仕事も同時にしなければいけないこと」だと分かっていても、保育園や幼稚園が閉鎖されている場合、解決の糸口が見えないことです。

ドイツではここへきて、今まで絶賛されていたテレワークの根本的な問題点も浮き彫りになっています。

フランスにあるINSEAD(欧州経営大学院)で教鞭をとる精神科医Gainpiero Petriglieri氏はシュピーゲル誌のインタビューで「実際に相手と会って話す時と違い、Zoomなど『画面越しの会話』では、自分が相手に話しかけてから、相手がリアクションするまでに1、2秒のタイムラグがあります。しかし人間の脳はこれに慣れていないためストレスにつながっています」と話します。

テレワークでは、労働時間が長くなりがちという問題も浮き彫りになってきた(写真はイメージです)=gettyimages
テレワークでは、労働時間が長くなりがちという問題も浮き彫りになってきた(写真はイメージです)=gettyimages

実際に人と会う場合、相手の体の動き、周りの環境やにおいなども含めて人間の脳は状況を把握しますが、Zoomなどの「画面越しの会話」ではこれがままならないため、人間はストレスを抱えることになり、Petriglieri氏は「人間の脳が『Zoomの論理』に適応できるまでには、かなりの時間がかかるでしょう」と話しています。

コロナ禍において多くの国はワクチン接種の手配に力を入れても、「コロナ禍による人間の精神的な疲労」にスポットを当てることはあまりありません。

コロナ禍とそれに伴うテレワークによりドイツでは「存在不安」「パニック障害」「不眠症」の人が増え、精神的な問題を抱える人が増えました。

精神身体医学の専門医でシュヴァルツヴァルトの病院Max Grundig Klinikの医長であるChristian Graz氏はシュピーゲル誌のインタビューに「コロナ禍が終わってから何年か経っても、ドイツでは『精神的な不安という名の悪疫』が続くでしょう」と予測しています。

先ほど「ホームオフィスで働く従業員のほうが仕事の効率が高い」と書きました。会社にいる時とは異なり来客や電話の対応等が減るため集中力が高まる、というポジティブな理由です。

その一方で、イギリスのInstitute for Social Economic Researchの調査によると「会社や上司にサボっているのではないかと思われることを恐れ、ホームオフィスの従業員は会社にいる時よりも仕事を頑張り過ぎる傾向がある」ということが分かっています。

「生産性が高い」、実は…

日本でもよく議論されていることですが、一部の会社は「家で仕事をすると社員がサボるのではないか」と懸念しています。その懸念を払拭しようと、従業員が必要以上の残業をするなど仕事を頑張り過ぎた結果、家の中で疲労してしまいますが、これが一見すると「生産性が高い」ように見えてしまのです。

長い期間にわたりそういったプレッシャーを抱えながら過剰に頑張り過ぎる社員がいることは、当事者にとっても会社にとっても決して良いことだとは言えません。

しかし前述のイギリスのInstitute for Social Economic Researchによると、「会社に出勤している時と同じペースで働き、ホームオフィスで過剰に頑張らない人」は「常にある種の罪悪感」を感じており、これもまたストレスにつながっているとのことです。

昨年の春にテレワークが始まった時、ドイツで多くの企業が「従業員の家庭事情などにも配慮し仕事量を調整する」としていたものの、一年以上が経った今、企業が社員の仕事量を考慮するということは起きておらず、むしろテレワークによって仕事は増えています。

コロナ以前のドイツ社会では「ワークライフバランス」が大事にされてきました。ところが、コロナ禍に伴いホームオフィスになってから、社員のストレスや精神的な不調を真剣に解決しようとしている企業は少ないのが現状です。

そんな中、社員のストレスを和らげるために対策に乗り出している企業もあります。ドイツのソフトウエア会社 SAP はメンタルヘルスのプロジェクトを発起し、「リラックスと充電」のため全従業員に1日の休暇をプレゼントしています。またドイツ・ユニリーバの社長Peter Dekkers氏は従業員に対して「昼休みの時間帯はテレワークであっても仕事の携帯のスイッチを切るように」と繰り返しアナウンスしています。

ただコロナ禍およびそれに伴う従業員のテレワークの疲労は、そういったものだけで改善されるはずもなく、企業のもっと抜本的な対策が待たれます。