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ステンドグラスを思わせるアクセサリー、材料は大量発生したある昆虫

ニューヨークタイムズ 世界の話題
A provided image shows earrings made from the wings of dead cicadas. At first, Reynolds kept her cicada earrings simple: just the wing, coated in resin. Then she started adding semiprecious stones and Swarovski crystals.  (Susan Reynolds via The New York Times)-- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY JEWELRY-CICADAS BY DEBBIE MOOSE FOR JUNE 2, 2021. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
セミの羽でつくったイヤリング=Susan Reynolds via The New York Times/©2021 The New York Times

時として、インスピレーションが働き、ピンとくることがある。それが、ジュエリーメーカーのスーザン・レイノルズに起きたのだ。

「ある日、愛犬を散歩させていた時、セミが飛び回って私の頭にぶつかり、足元に落ちた」とレイノルズは振り返る。

セミはひとたび地上に出ると、たった数週間の命しかない。あのセミは、飛んでいる最中に死んでしまったらしい。レイノルズは、それをつまみあげ、持ち帰って作業机の上に置いてみて、羽の形や複雑な模様にとり付かれた。

約20年前のことだが、それが彼女が初めてセミの羽でイヤリングをつくったいきさつだ。米国のかなり多くの地域で「ブルードX」(訳注=米国で、17年周期で大量発生する「周期ゼミ」のことで、「素数ゼミ」とも呼ばれる)が今年の春に出現するはるか以前のことである。レイノルズは現在、17年ゼミの記念にしたいという非常に大勢の顧客の注文に対応しているところだと言っている。

最初のころ、彼女はセミのイヤリングをシンプルなつくりにしていた。羽を樹脂でコーティングしただけ。その後、半貴石とスワロフスキーのクリスタルを付け加えるようになった。

今年、62歳のレイノルズは年代物のポストカードから切り取った花や葉、鳥をデザインに取り入れた。そうしたら、まるで小さく繊細なステンドグラスのパネルのようになった。

「妖精が年配女性の部屋に舞い降り、化粧台からあれこれつかみ上げては化粧を始めたかのようなジュエリーをつくりたい」とレイノルズは言う。

原材料を手に入れるには、少し手間がかかる。ブルードXは米国の北東部、中部大西洋岸、中西部で大量発生したが、レイノルズが暮らすノースカロライナ州ではそれほど多くなかった。

ここノースカロライナ州のローリー地域では、ほかのセミが通常7月上旬に発生するが、それまではブルードXの大量発生地から送ってもらうセミの死骸を使ってきた。レイノルズの隣人の大方は彼女が「シケイダ・レディー(セミを扱う女性)」だということを知っており――彼女は近所のリストサーブ(訳注=コンピューター管理のメーリングリスト)で発信していた――彼女の家の玄関口に死んだセミを入れた箱を置いていってくれる。

当初、レイノルズは思案した。「誰が昆虫の死骸を郵送してくれるだろう? そもそも郵便局がそれを認めてくれるのか?」と。

彼女の顧客が供給してくれることがわかった。地元のジュエリー販売店「Galatea Boutique(ガラテア・ブティック)」の店主シェリル・フレイザーは、人びとがセミの死骸を店に置いていくようになったのだと言う(ある顧客は、セミが首都に侵入した記念としてワシントンDCにいる娘にイヤリングを送った)。

「急によく売れ出した」とフレイザー。10年以上前からレイノルズのジュエリーを扱っており、「セミには感謝している」と言う。

A provided image shows earrings made from the wings of dead cicadas. At first, Reynolds kept her cicada earrings simple: just the wing, coated in resin. Then she started adding semiprecious stones and Swarovski crystals.  (Susan Reynolds via The New York Times)-- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY JEWELRY-CICADAS BY DEBBIE MOOSE FOR JUNE 2, 2021. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
レイノルズのイヤリングは当初、シンプルなつくりだったが、その後、半貴石やスワロフスキーのクリスタルを付け加えるようになった=Susan Reynolds via The New York Times/©2021 The New York Times

レイノルズは、仕事に取り組む準備ができるまで、死んだセミをバッグに入れて凍らせておく。セミは凍っていても臭い。羽を一束取り外す用意ができたら、マスクをして、香りのいいロウソクに火をともし、超微細なハサミで羽を胴体から切り離すのだ。

基本的には、羽をきれいにする必要はないが、何かが付着していれば、温めたせっけん水にその羽を浸す。セミの羽は薄くて優美な外観をしているが、実はかなり頑丈だ。

羽以外の部分は処分する。「まさかと思うかもしれないけど、鳥やリスがそれらを好んで食べる」とレイノルズは言う。

その後のプロセスには、年代物のポストカードのコレクションから適当な意匠を選び、樹脂の層を抜き出すことがある。レイノルズが、一組のイヤリングやネックレスを完成させるのに5、6日かかる。

その作業は、ちょっとした昆虫学的な光景だ。

昨年の夏、レイノルズの冷蔵庫にはシーズンの終わりまでに480匹のセミが入っていた(時たま、傷がついた羽もあるし、ペンダント用に片方だけを使う羽もあり、480匹のセミはイヤリング800組に相当する)。現在、それらは、ここローリー地域にある10カ所のギャラリーや博物館の売店で売られている。値段はイヤリングが50ドルから85ドルで、ネックレスが54ドルから125ドルだ。

(新型コロナウイルスの)パンデミックがピークだった時、顧客はEtsy(訳注=主に手作りの雑貨を扱うネット通販)の「Bijou Savvy」という彼女の店を通じて買っていた。「これほど人気が出るなんて、実は思っていなかった」とレイノルズはほほ笑む。

ローリーの中心地部にあるノースカロライナ自然科学博物館(NCMNS)の小売業務マネジャー、ヘザー・ヒースによると、博物館は何年も前から売店でそのイヤリングを販売してきた。

この博物館で、昆虫は大したモノなのだ。毎年1週間にわたって開かれる恒例のバグフェスト(昆虫祭り)には、パンデミックが起きる前は約3万5千人が訪れ、昆虫について学び、それを食べることもした。ヒースが言うには、レイノルズのジュエリーは、セミが「美しく」て、ただの騒々しく不快なセックスマシンではないことを見せてくれという意味で別格だ。

「多くの人が気味悪く思うものを取り上げ、美しくなり得るということを知ってもらえるのは本当にいいことだ」。そうヒースは話していた。(抄訳)

(Debbie Moose)©2021 The New York Times

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