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子どもの死因、1位が「銃」というアメリカの現実 変える策はあるのか

ホワイトハウスへ猛ダッシュ 更新日: 公開日:
「トラロン・センター」のヨガの授業中、窓から外を見つめるアラニちゃん(10歳)=2021年7月20日、ワシントン、ランハム裕子撮影

【前の記事を読む】育った街が一夜で「戦場」になる 銃社会アメリカ、生き残った子どもに何を教えれば

ワシントンを拠点に銃関連の事件や統計を研究する非営利組織「ガン・バイオレンス・アーカイブ」によると、2020年、米国で銃が原因で命を落とした人の数は過去20年で最高の43569人を記録した。この中には幼児を含む子供も含まれている。米疾病対策センター(CDC)によれば、2019年、3390人の子供たち(0歳から19歳)が銃弾により亡くなった。銃器による死は交通事故や癌を抜き、子供の死因の第1位となっている。銃による死は、まるで伝染病のように広がることから、専門家やメディアの間では「疫病」と呼ばれる。

今年7月16日に道路脇で撃たれ亡くなったニア・コートニーちゃん(6歳)を弔おうと、事件現場にはたくさんのぬいぐるみや風船が飾られた=2021年7月24日、ワシントン、ランハム裕子撮影

銃関連事件の増加は米首都ワシントンの南東区で顕著にみられる。昨年12月、父親が運転する車でベビーシートに座る生後15ヶ月の赤ちゃんが頭に銃弾を受け死亡した。今年7月には、走行中の車からの発砲により、歩道にいた6歳の女の子が命を失った。翌日、首都南東部の野球場周辺で銃撃事件が発生し、メジャーリーグの試合が中断された。

警察と連携し銃声をモニタリングする会社「ショット・スポッター」で、ワシントンで増加する銃関連事件について話すバウザー市長=2021年7月14日、ワシントン、ランハム裕子撮影

ワシントンのミュリエル・バウザー市長は銃関連事件が続く深刻な状況を受け、今年2月、「銃による暴力は『公衆衛生上の危機』」と宣言し、銃の暴力の予防に予算を割り当てたり、緊急対策本部を設立したりした。だが、自宅や路上で流れ弾を受け子供が亡くなる事件やティーンエイジャーが撃たれる事件は相次ぎ、犠牲者を弔う壁画や追悼碑が街中に増え続けている。

今年7月16日に道路脇で撃たれ亡くなったニア・コートニーちゃん(6歳)を追悼し、地元のアーティストによって現場付近の建物に描かれた壁画=2021年7月24日、ワシントン、ランハム裕子撮影

■首都にある2つの異なる世界

ワシントンは連邦議事堂を中心に北西区、北東区、南西区、南東区の4つに分割される。ホワイトハウスや国務省など、多くの政府機関がある北西から車で南東へわずか10分。首都を東西に分けるアナコスティアという川を越えると景色が一変する。高層ビルはなく、カラフルな壁画が施された古い煉瓦の建物や檻のような鉄柵が窓に取り付けられた家屋が並ぶ。辺りを見渡せば、歩いている人たちのほとんどは黒人だ。

キング牧師記念日のパレードを見に集まった南東区に住む人たち=2018年1月15日、ワシントン、ランハム裕子撮影

ワシントン政府によれば、2020年、ワシントンで銃による死傷者の合計は922人で、前年から33%の増加を記録した。このうちの95人は幼児を含む17歳以下の子供だ。これらの事件のほとんどがアナコスティア川の向こう側にある南東区で起きている。

銃規制を求める非営利団体「エブリタウン・フォー・ガン・セーフティー」の分析によると、黒人の子供やティーンエイジャーが銃で撃たれる可能性は、同年代の白人に比べ14倍高い。

「親友を銃で亡くしたことで、自分も銃に撃たれて死ぬかもと思うと怖い」と語るサマイア・コーツちゃん(13歳)。将来の夢はTikTokのスターになること。危険なワシントンからは出たいと話す=2021年7月20日、ワシントン、ランハム裕子撮影

■銃の暴力が子供に与える影響

「暴力への露出が増えれば増えるほど、心理的にも肉体的にも体に影響を与える」。メリーランド州立大学で黒人研究、銃の暴力の予防、トラウマセンターなどに従事するジョセフ・リチャードソン教授は説明する。「暴力を体験したり逆境で幼少期を過ごしたりする子供が適切な診断や治療を怠った場合、成人して危険な振る舞いをする可能性が高くなる」という。

「トラロン・センター」の授業でコミュニケーションの授業を終え、先生とハイファイブをするアマリちゃん(11歳)=2021年7月27日、ワシントン、ランハム裕子撮影

リチャードソン教授によれば、銃の暴力を経験した子供たちに見られるトラウマの主な症状は、過度の警戒心や不安、抑えきれない怒り、不眠症、鬱病など多岐にわたる。これらによりリラックスできない緊張状態が続くと体にとって毒性を持つストレスホルモンが分泌され、慢性疾患を引き起こしたり、子供の脳の成長に影響を及ぼすという。

さらにリチャードソン教授は、「暴力を体験した子供が見せるトラウマの症状は、ベトナム、イラク、アフガニスタンなどで戦争を経験した兵士に見られる症状と似ている」と指摘する。

「トラロン・センター」の授業の合間にふざけてダンスをするブリアナちゃん(8歳)=2021年7月27日、ワシントン、ランハム裕子撮影

親が子供に、道端で立ち尽くすな、特に交差点では気をつけろ、身を隠せるところまで走って逃げろなど、「銃弾から身を守る術」を教えることが習慣となっていると、小さな子供を持つ南東区の母親たちは口を揃えて言う。小学校に通う3人の子供を持つシャニクエニークさん(31歳)は憤りを隠せない。「子供たちは学校へ歩いて行くことすら怖がっている。母親としてどうすればいいのかわからない。自分の身に起こらない限り誰もこの辛さを理解してくれない」。

■銃犯罪の構造に目をとめる

同じワシントンの中で、銃撃事件発生率や犠牲者の割合が東西で著しく異なるのはなぜか。リチャードソン教授は、銃の暴力だけではなく他のあらゆる要素を考慮すべきだと指摘する。

「トラロン・センター」の授業の合間にダンスをするアラニちゃん(10歳)=2021年7月27日、ワシントン、ランハム裕子撮影

ワシントン政府の保健機関の研究によると、市内で白人が多い地域の平均寿命は89.4歳である一方、黒人が多い地域の寿命は68.4歳だった。富においても黒人と白人の格差は極めて大きい。ワシントンを拠点に社会問題や経済問題を研究する「アーバン・インスティテュート」の2016年の報告書によれば、白人の世帯は、株式や家屋などの資産から負債を差し引いた「純資産」ベースで、黒人世帯に比べ81倍の富を持つ。警察とのやり取りで不当な扱いを受けているのも黒人だ。例えばワシントンで警察に止められ職務質問を受けるのは86%が黒人だ。さらに、公衆衛生、医療機関、雇用、教育レベルにおいても黒人にとって不利な環境が常にある。

ヨガの授業中にふざけてカメラにポーズするジェイソン君(6歳)=2021年7月20日、ワシントン、ランハム裕子撮影

このような状況は「Concentrated disadvantage(不利の集中)」と呼ばれ、高犯罪率に繋がる根本的要因の一つとされる。「これらは全てアナコスティア川の東で起きている。アナコスティア川を渡れば、寿命が21歳も短くなる」とリチャードソン教授は声を大にして言う。

リチャードソン教授は、差別的な扱いや大量収監により、警察に不信感を抱く市民が多いことも銃の所持率に影響していると説明する。「揉め事があった際に警察を呼ぶことで誰かが警官に撃たれてしまうこともある。その可能性を考えれば、警察に助けを求めることをためらうだろう。それでも銃による暴力がはびこる環境にいれば、自分の身は自分で守ろうと武器を入手する。幼少期から暴力のある環境で育ったトラウマに基づく自然な反応でもある。誰かを意図的に撃つために銃を手にする若者は少ない」。

「トラロン・センター」のヨガの授業でマットに寝転ぶクロエちゃん(4歳)=2021年7月20日、ワシントン、ランハム裕子撮影

どうすればこの連鎖に歯止めをかけることができるのだろう。リチャードソン教授によれば、「銃の暴力に関わる人だけを責めても意味がない。暴力というものは誰かが誰かを殴るようなことに限らない。適切な資源を投資すれば防ぐことができた問題を放置することによって人が命を失う状況を作り出してしまう『構造的暴力』がある」。リチャードソン教授は、「『構造的暴力』を含む『構造的な人種差別』を取り壊すことが必要だ」と訴える。