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「血で結ばれた関係」一時は険悪ムードだった中国と北朝鮮 再び接近の思惑

北朝鮮インテリジェンス
中朝国境を流れる川の中国側の河畔に掲げられた両国の国旗=2019年10月、遼寧省丹東、平井良和撮影

中朝関係は金正恩氏が権力を継承した2011年末から17年ごろまで、北朝鮮による相次ぐ軍事挑発が原因で険悪化していた。北朝鮮が18年、米朝外交に乗り出したことを契機に、中国との関係も改善した。金正恩氏は当時、習近平氏との会談で「米朝首脳会談がどのような結果になっても、中国は朝鮮を支援してほしい」と伝えていた。

北朝鮮メディアは11日、習近平中国国家主席と金正恩朝鮮労働党総書記が祝電を交換したと伝えた。金正恩氏は「血で結ばれた朝中友好」と説明。習氏も「両国人民が血で結んだ戦闘的友好」と表現した。中朝両国は従来、多数の犠牲者を出した朝鮮戦争を共に戦った過去を念頭にお互いの関係を「血盟」と呼んでいたが、2000年代に入って、ほとんど使われなくなっていた。両指導者の11日の祝電での表現は、強固な中朝関係を対外的にアピールする狙いがある。

韓国亜洲大学の金興圭米中政策研究所長は、両首脳の祝電交換について「経済と安全保障について、お互いに協力する意思を示しながら、相手に対する要求も伝えた」と語る。習氏は祝電で「中国は朝鮮が経済と人民生活を発展させていることを断固支持する」と伝えた。金所長は「食糧や新型コロナウイルスのワクチン支援の準備ができているという意味だろう」と話す。

韓国亜洲大学米中政策研究所の金興圭所長=本人提供

北朝鮮を巡る食糧事情は厳しい。正恩氏自身、6月15日の党中央委員会総会で「人民の食料状況が緊張している」と述べ、食料不足を認めた。国連食糧農業機関(FAO)が6月14日に発表した資料によれば、北朝鮮の穀物需要は595万トン。昨秋から今年6月までの生産量は489万トンになっている。20・5万トンは輸入で補うが、それでも86・5万トンが不足するとした。北朝鮮市民の2カ月分の食糧が不足する計算になる。

韓国の民間農業専門研究所、GS&Jインスティテュート北韓・東北アジア研究院の権泰進院長によれば、北朝鮮の公式統計では毎年、穀物が100万トン前後不足してきた。権院長は、北朝鮮で餓死者が出なかった理由について「統計に表れない数値が2つあったからだ」と語る。

権院長によれば、「2つの隠れた統計」のうち一つは、北朝鮮当局に届け出ていない傾斜地などを利用した農耕地での生産量だ。北朝鮮には、こうした「隠れ農耕地」が従来、50万から55万ヘクタールあったという。正恩氏は「隠れ農耕地」を取り締まっているが、依然20万から30万ヘクタールほどの「隠れ農耕地」があり、年間約30万トンの穀物を生産しているという。

そして、2つめの「隠れた統計」が中朝密貿易による穀物輸入だ。北朝鮮の中朝国境沿いの地域では、北朝鮮国内よりも中国東北三省との密貿易などか得る穀物が多く、少なくとも年間30万から40万トンに達していたという。

韓国GS&Jインスティテュート北韓・東北アジア研究院の権泰進院長=本人提供

しかし、昨年1月から続く中朝国境の閉鎖措置によって、中国からの輸入が全面的にストップしている。権院長は「このままでは、40万から50万トンが不足するのではないか。コロナで公平な分配も難しい」と語る。

北朝鮮は前年秋の収穫物が翌年5月ぐらいで枯渇する。その後は5月から6月にかけて収穫が始まる麦やジャガイモでしのぐ。権院長は「節約して食べても、8月末には食糧が底をつくだろう。9月にはトウモロコシ、10月にはコメの収穫が始まるが、すぐに食卓に届くわけではない」と予想する。

北朝鮮では1990年代半ば、「苦難の行軍」と呼ばれる大規模な食糧難が発生し、100万人とも200万人とも言われる餓死者を出した。権院長は「苦難の行軍ほどではないが、このままでは社会的弱者を中心に餓死者が出る。まだ公式の動きはないが、中国から支援を受けることになるのではないか」と語る。

中国と北朝鮮の往来の大動脈となってきた中朝友誼橋=2021年3月、中国・遼寧省丹東市から、平井良和撮影

権院長の説明通りであれば、北朝鮮は8月初めには中国から穀物を輸入する必要がある。韓国の情報機関、国家情報院が7月8日に国会情報委員会に行った説明によれば、北朝鮮は中朝国境近くの平安北道義州にある軍用飛行場を今春から検疫施設に転用するなど、中朝貿易再開の準備を進めている。食糧の枯渇を避けるため、8月までに国境を開く可能性がある。一部では、金正恩氏が訪中し、習近平氏との首脳会談で食糧支援を取り付けるとの観測も出ている。

これに対し、金興圭所長も北朝鮮の防疫体制さえ整えば、中国の支援が実施されるとの見方を示した。ただ、「金正恩氏は自力更生路線を掲げている。自ら習近平氏に食糧支援を乞うのは具合が悪いだろう」と語り、このタイミングでの正恩氏の訪中の可能性は低いとの見方を示した。

金所長は、中国が来年2月の北京冬季五輪開会式に注目する。「韓国の文在寅大統領が出席すれば、中国は何としてでも金正恩氏に出席を求めるだろう。そこで南北首脳会談や中国も加えた3者首脳会談を行うことで、中国は米国に代わり、朝鮮半島の主導権を握ろうとするのではないか」と語る。

韓国政府は現在、習近平氏の訪韓を要請しているが、新型コロナ問題のために実現が難航している。韓国政府も東京夏季五輪開会式での南北首脳会談の開催が不可能になったため、北京五輪での南北外交を期待する声が出始めている。

一方、金正恩氏は11日の祝電のなかで友好条約について「アジアと世界の平和と安定を保障するうえで、更に強い生命力を発揮している」と語った。金所長は「今年は中国共産党創立100周年であり、来年2月に北京五輪がある。いつにも増して朝鮮半島の平和と安定を強く求めている中国に配慮した発言だ」と語る。

そのうえで、金所長は北朝鮮が中国からの支援を得る代償として、今年下半期は核実験や大陸間弾道弾(ICBM)の発射などの軍事挑発を控える可能性が高いとの見方を示した。

北朝鮮の食糧事情が逼迫するなか、米国の北朝鮮専門メディア「NKニュース」は6月、日本海側の江原道元山沖で同月10日と13日に、ジェットスキーを楽しむモーターバイク10数台の姿を捉えた衛星写真を公開した。金正恩氏の所有とみられる豪華ヨットも写っており、正恩氏らが現地にいた可能性が高い。NKニュースによれば、元山沖では5月初めから、豪華ヨットの姿が確認されていたという。

正恩氏の最近の体重減も、マリンスポーツが原因だったのかもしれない。いずれにしても、北朝鮮社会が食糧難で苦しむなか、正恩氏のこうした行動は今後、市民の一層の反発を呼ぶ可能性が高い。