■熱量アツアツの学生
――IITの学生と接していて、感じられることは。
IITの学生たちは、何と言ってもモチベーションがすごいです。家族の生活が自分にかかっているから、勉強しまくる。共通テストで高得点をとった子どもの顔写真やその点数が、大きく街中に張り出されていますね。熱量アツアツの人が大学に集まっています。
授業をしていても、日本の学生はあまり手を挙げませんが、インドではほぼ全員が手を挙げます。大した意見でない時もありますが、「私を見て!」という気持ちが強いんでしょうね。
IITには夜がありません。みなキャンパス内の寮に暮らしていて、24時間誰かが勉強している。キャンパスの所在地はジャングルの中だったり、どんでもない僻地だったりして、勉強以外にやることがないんです。超難関の試験を突破した後も、ライバルたちとの厳しい競争が続いています。
■徹底した家族ファースト
――エネルギーの源は何でしょうか。
インド人は個人としても強いですが、彼らの強さの秘密は家族の力だと思います。徹底してファミリーファースト。インド人には物事を肯定的にとらえる遺伝子がある気がしていますが、子育てでも「お前はできる」とほめまくる。
闘う時に家族は自分を守ってくれる、という安心感ができるのでしょう。世界中に成功した家族が住んでいることもあり、外に出て行くことを恐れない。ただ、それがプレッシャーになって、厳しい競争の中で学生による自殺が社会問題にもなっています。
家族の結びつきが強いと言えば、中国でも同様の文化があります。私は日本の大学で中国の留学生にも講義をしていました。インドの人と話していると、最先端の研究をしている科学者でさえ、必ずといっていいほど出てくるのが神様です。中国人はお金。アジアの両大国は、神と紙(お金)なんです。
■神は「伴走者」
――たしかにインドの人は信心深いですね。
インドの神は一つではありません。日本は八百万(やおよろず)の神と言いますが、ヒンドゥー教の神は3億3千万とも。欧米の一神教が白と黒の文化で、一つを選ばなければならない厳しさがあるとすれば、インドは「あなたも私も、石ころも神」という世界。決めなくてもいいという「ゆるし」がある気がしています。
これは、人は自分の力で生きているのではなく、目に見えない大きな力で生かされていると思う人生観でもあります。インド人は「カルマ」と言いますが、私は日本の「ご縁」だと思っています。神が自分の伴走者として、常にそばにいてくれる。だから「ノープロブレム」、何とかなると信じて疑わない。これは強いですよね。
――インドの人たちと付き合うにあたって、考えるべきことはありますか。
インドの人たちは、自分の国にものすごい誇りを持っています。すばらしい国だと信じて疑わない。神も歴史もそうですが、自分たちのルーツをとても大切にする人たちです。ですから、日本人で日本を大事にしない人は尊敬されないのではないかと思いますし、自分が生まれ立っている場について、自分の言葉で説明することが求められると思います。もちろん、インドの人たちのルーツも理解し、大切にしたいですね。