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ドイツの子ども用ハーネスが奇抜な理由 「犬の散歩?」「安全のため」論争の先へ

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 更新日: 公開日:
ハーネスを付けられた子ども(イメージです)=gettyimages
ハーネスを付けられた子ども(イメージです)=gettyimages

何年か前にドイツの空港で乗継をした時のこと。待ち時間が長く、空港のロビーには大人のほかに子供も何人かいました。

そんななか、2、3歳ぐらいの白人の男の子があたりを元気に歩きまわり、男の子の2メートルぐらい後ろにはお母さんの姿が。

よく見るとお母さんはひもを持っていて、その先は子供の胸につながれていました。子供用ハーネスをしていたわけですが、その様子を見ていた日本人の男性が隣にいる恋人らしき女性にボソッと「……こういう子育ての仕方もあるんだな……」と言っていたのが印象に残っています。

声のトーンから呆れているというか、ハーネスを奇異なものとしてとらえていることがうかがえました。どこか冷笑的だったのです。

あれから数年がたち、日本でも子供用ハーネスを時々見かけるようになりました。

一方で「子供に紐をつけるなんて、犬の散歩みたいで子供がかわいそう」という声もよく聞きます。

筆者が出身のドイツの方が子供用ハーネスを付けている子供をよく見かけます。でもドイツでも賛成派の人ばかりではありません。「犬の散歩みたい」「ひもを付けられる子供の立場も考えるべき」「子供にとってハーネスは屈辱的ではないのか」という意見があります。

しかしそれ以上に子育てをする当事者や専門家からは「ハーネスは子供の安全のために大事」ということが繰り返し指摘されています。

2、3歳の子供は好奇心が旺盛で、危ないと思われる場所にも進んで突進していってしまいます。

例えば親が子供と一緒に外を歩いているとき、子供が危険なところへ走っていくのを防止するために「親が手をつないでいればいい」と考える人もいるかもしれません。

しかし子供はいきなり走り出したりしますから、「親が子供の手を握ったまま離さないこと」は難しいです。

そもそも親と子供ではかなりの身長差がありますから、「親が腰を曲げて長時間子供と手をつないで歩く」というのは現実的ではありません。

そうすると最終的には「親が子供を抱っこする」方法しかないわけですが、2、3歳の子供は重いので、長時間抱っこしているわけにもいきません。

好奇心が旺盛な子供を抱っこしたり、ベビーカーに乗せたりすることを強いるよりも色んな体験をさせてあげたいと思う親も多いのです。

そんな時に子供用ハーネスをしていれば、子供は自由に動き回れます。その後を、子供からは一定の距離を置いた形で親がひもを持って歩けば、いざという時に、ひもを引っ張り子供を危険から守ることができます。

ドイツで子供用ハーネスはKinderleineと言いますが、これが「犬用ハーネス」を意味するHundeleineという言葉と似ており誤解を招きやすいことから、ドイツでは一部の専門家が「子供用ハーネスの呼び方をLaufgurt (歩行ベルト)やSchutzgurt(安全ベルト)に変えるべき」と話しています。

このようにドイツでは「子供用ハーネスは、見た目は悪いけれど、自由に歩きまわるという子供の自立を大事にしながら安全も考慮すると、ハーネスを使うしかない」という意見が多いです。

ドイツのハーネスは奇抜で目立つ

ただハーネスを使う際に注意しなければいけないこともあります。親と子供の間、つまりひもの部分に気付かずに自転車やスクーターに乗っている人が突っ込んでくる可能性や、ひもが他の歩行者にからまることも考えなくてはいけません。

そのため最近ドイツで売られているハーネスは色が奇抜で目立つタイプのものが多いです。それでも「ひもが何かにからまり事故を招きかねない」ということは常に頭の片隅に入れておいたほうがよいでしょう。

子供自身もひもにからまって転倒する可能性があるため「ハーネスを付けているから」と安心せずに親が常に注意深く見守る必要があります。

それでも総合して「子供の安全」を考えると、筆者は「ハーネスに賛成」です。思えば、今は義務化されている車の「チャイルドシート」もスタート時はそれほど評判よくありませんでした。「親に抱っこしてもらえないなんてかわいそう」「子供を固定させてしまうなんてかわいそう」という声もありました。

それでも「車が事故に巻き込まれた場合のこと」を考えるとチャイルドシートは不可欠なわけです。

子供用ハーネスについても「見た目は悪いけれど、安全面を考えると必要」だと筆者は考えます。

実は筆者も子供の頃にハーネスをつけていました。実家のアルバムには「牛の群れの前でハーネスをつけて立っている自分」がいます。農家に遊びに行ったとき、牛に近づきすぎないために親がつけてくれたようです。