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「死者と共に生きるとは?」フランスで今売れている、生と死のつながりを問う本

Bestsellers 世界の書店から
相場郁朗撮影

デルフィーヌ・オルヴィルール(46)は、医学生からジャーナリストに転身し、2008年にユダヤ教改革派の聖職者に叙階された数少ない女性ラビのひとり。ラビの重要な仕事のひとつに葬儀を執り行うことがある。本書『Vivre avec nos morts(死者と生きる)』で著者は、無名人から政治家シモーヌ・ヴェイユのような有名人まで11の死や葬儀を通じ、死者を葬ることの意味、死を超えて死者と共に生きてゆくことの意味を探る。

「ぼくの弟はどこにいるの? 空、それとも土の中? どこを見て探せばいいかわからない」。たとえばこんな子どもの問いに真摯に向き合って言葉を紡ぐオルヴィルールは、自分の仕事を、生者と死者をつなぐ「語り部」と定義する。ユダヤ教の教えを語り継ぐことで、人から人へ、世代から世代へ、死者から生者へバトンタッチされるものを見守る。ラビの存在は、生と死をつなぐ扉の門番的存在と言い換えてもいい。

ユダヤ教では臨終の後、通夜などなしにすみやかに故人を葬る。遺体は白い布に包まれるだけで、過剰な装飾や演出はいっさいない。ラビは遺族の前で故人の人生を語り、祈りを捧げる。ラビにとって、短時間で死者の全体像をつかみ、ひとりの人間の人生に光を当てる作業はそう簡単なことではない。

ある時、立ち会う人が息子だけというわびしい葬儀で、オルヴィルールはその女性の死をユダヤ人の歴史の中に位置づけながら語った。ホロコーストはもちろん、「ホロコースト後」を生き延びてきた「きつい母親」が重かったのか、息子は母親とすっかり疎遠になっていた。第三者であるラビが語る母親の生きた軌跡に耳を傾けた後、「なんという生涯だったのか!」と、息子は初めて涙した。「語り部」ラビの存在によって、死者が生者とつながった瞬間であった。

コロナ禍が続く中、毎日のように死者数が発表され、私たちの神経はすっかり鈍ってしまっているが、数字の向こうにひとつひとつの顔があり、人生がある。こんな時代だからこそいっそう、宗教の枠を超えて本書が多くの人の心に響くのだろう。超正統派のイメージが強くていかにも堅苦しそうなユダヤ教が、実際はどこまでも生を謳歌する、柔軟な側面を持つ宗教であることも本書は教えてくれる。

「事実は小説よりも奇なり」地でいくルポ

『L'inconnu de la poste(犯人不明の郵便局事件)』の著者フロランス・オブナは、世界を股にかけて活躍してきたジャーナリスト。2005年、イラクで人質になっていた経験を持つ。失業者を装って、清掃業者として暮らした中から見えた世界を描くなど、光の当たらない社会層に深く切り込んだ作品で知られる。

本書では、2008年にスイス国境に近いフランス東部の小さな町で起こった殺人事件を追う。

2008年12月、町の小さな郵便局で、住民から愛されていた職員の女性が何者かによって殺害された。28カ所もナイフで刺されて。開局直後わずか30分ほどの間の出来事だった。当時、その町に住み着いていた俳優のジェラルド・トマサンに容疑がかけられた。事件から5年後のことだった。

トマサンは16歳でジャック・ドワイヨン監督の目に留まり、『ピストルと少年』(1990年)の主人公に抜擢され、セザール新人男優賞を授与され世間の注目を浴びた。俳優として評価されても、アルコールや麻薬から抜け出せない放浪の異端児。不幸な子ども時代の傷を引きずり、存在そのものが役柄になるような俳優だった。静かな田舎町にそぐわないトマサンのプロフィルは、まさに犯人にふさわしいものだったといえる。

オブナの調査力と筆力が、名もない町で暮らす人々のため息や恐れや不安まで詳細に描き出す。さらに5年が経過した時、DNA鑑定が偶然符合し、別の容疑者が浮かび上がる。しかし、トマサンは無罪放免となる一歩手前で、煙にまかれたように姿を消す……。

冤罪ものというより、フィクションと現実の境がつかないトマサンという特異なキャラクターゆえに、「事実は小説よりも奇なり」というありきたりの表現が、圧倒的な力で読者に迫ってくるルポルタージュである。

■コロナ禍があぶり出す社会の問題、フランスでも

哲学者バルバラ・スティグレールの『De la Démocratie en Pandémie(パンデミックの民主政治)』は50ページほどの小冊子だ。タイトルは経済学者トクヴィルの『アメリカの民主政治』にかけたもの。

新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)は民主主義を沈黙させてしまった。いつもは冗舌なフランスのインテリ層も口を閉ざした。 特に初期は科学諮問委員会が多大な影響力を持ち、最終的には大統領とごく数人の大臣の間の会合でコロナ対策が決定され、すべて緊急事態の名の下に、民主主義的な意見交換の場が消えてしまった。

この小冊子は、そんな緊急事態の異常さを再認識させてくれるとともに、フランスのコロナ対策への痛烈な一撃でもある。今年1月の発行なので、今春の3回目のロックダウンは視野に入っていないことを考慮に入れる必要はあるが、感染者数や死者数を毎日のように聞かされて批判精神が麻痺してしまっていた読者は、冷水で目を覚まされた思いをすることだろう。緊急事態において民主主義は足手まといだ、などという危険な発言まで飛び出す状況下にあって、本書は話し合いや地道な研究や議論といったものの価値を淡々と訴える。

権威ある英国の医学誌『The Lancet』でも指摘されたように、今回のコロナ禍は、ペストのようにだれでも感染したらほぼ死を逃れられない類いのものではない点を見据えた上で、具体的な政策を作ってゆくべきではなかったかと、著者は昨年のやみくもなロックダウンを批判する。さらには、医療現場も大学などの教育の現場もストックよりフローを優先するようになったがゆえの構造的な問題も指摘される。

病院では技術革新ばかりが優先され、基本的なケアに人手がまわらない。行動経済学の理論が社会のあらゆる面に当てはめられ、国民の思考や行動がソフトに「操作」されてゆく現状。また、コロナ禍によって社会のデジタル化にいっそう拍車がかかったが、そのことにより切り捨てられてゆくものがないか。などなど、検討すべき問題点は尽きない。

どんな緊急事態にあっても、考えることを停止してはいけないのだと、思考を活性化させてくれる、真の意味で政治的なパンフレットである。

フランスのベストセラー (エッセー部門)

5月6日付L'Express誌より

1 Le jour d'après

Philippe de Villiers フィリップ・ド・ヴィリエ

コロナ禍を利用して社会のコントロールを狙う者たちを糾弾。

2 Vivre avec nos morts

Delphine Horvilleur デルフィーヌ・オルヴィルール

女性ラビとして知られる著者が葬儀の経験から出発して死と生を語る。

3 Impressions et lignes claires

Edouard Philippe et Gilles Boyer エドゥアール・フィリップ、ジル・ボワイエ

仏前首相がマクロン大統領との約3年間を振り返り、分析する書。

4 De la laïcité en France

Patrick Weil パトリック・ヴェイル

信仰の自由を保証しつつ宗教と一線を画す仏独特の概念「ライシテ」を説く。

5 Odes

David Van Reybrouck ダヴィッド・ヴァン・レイブルック

ベルギーの作家による叙情詩のように美しくも斬新な視点のエッセー集。

6 L'inconnu de la poste

Florence Aubenas フロランス・オブナ

容疑者だった俳優は蒸発。残忍な殺人事件の真相に肉迫するルポルタージュ。

7 Décidément, ils n'ont toujours rien compris !

Christian Perronne クリスチャン・ペロンヌ

現政府および病院関係者のコロナ対策を医学会の反逆児が告発する。

8 De la démocratie en Pandémie

Barbara Stiegler バルバラ・スティグレール

コロナ禍のもとで民主主義がぐらついている現状に警告を発する。

9 Sauver la liberté d'expression

Monique Canto-Sperber モニック・カントスペルベール

表現の自由の歴史を俯瞰し、ネット社会の中での新しいあり方を探る。

10 Insoumission française

Sonia Mabrouk ソニア・マブルック

分野を問わず両極化し対話が難しくなっている仏社会に必要なものは。