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拘束された中国籍の元北海道教育大教授、2年ぶり消息判明 弁護士が初の接見

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袁克勤さん(左)と妻(中央)、成驥さん=2017年7月、成驥さん提供
袁克勤さん(左)と妻(中央)、成驥さん=2017年7月、成驥さん提供

袁さんは中国吉林省にある吉林大学を卒業後、一橋大大学院の博士課程を修了。その後は北海道教育大札幌校で教鞭を執りながら東アジアの国際政治史を研究してきた。日本には約30年住み、永住権も持っている。長年、日中の学術交流に熱心に取り組んできた。

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袁さんの長男、成驥(せいき)さん(29)=札幌市=によると、袁さんは2019年5月25日、母の葬儀に出席するため、妻と中国東北部の長春を訪問。葬儀の翌日、長春の国家安全局職員に拘束され、目隠しされたまま連行されたという。

妻だけ3日後に解放され、札幌にある自宅に戻ったが、国家安全局の指示で袁さんのノートパソコンやデスクトップパソコンのハードディスクなどを持って再び中国に向かった。

妻は袁さんの拘束について当局から口止めされていたとみられ、大学には当初、「高血圧の治療で帰国できない」と説明した。ただ、7月になって妻が袁さんの妹に打ち明けたことから事態が発覚した。

9月、国家安全局は妻に対し、袁さんをスパイ行為に関わった容疑で逮捕したと告げたが、中国がそれを公の場で認めたのは昨年3月に入ってからだった。

中国外務省の副報道局長が昨年3月下旬、定例会見で「(袁教授は)犯罪事実を自供している」と発言。今年4月には報道官が袁さんを「起訴した」と述べた。

だが、袁さんの健康状態や具体的な罪状などについての説明は一切なかった。親族や弁護士も面会を許されなかったことから、家族や友人らは安否を心配していた。

この間、袁さんの同僚教員や知人の研究者たちが有志で「袁克勤教授を救う会」を結成した。袁さんを支援しようと大学側や国会議員などに働きかけを続けてきた。

これに対し、大学や国の動きは鈍かった。成驥さんらが大学に対応を尋ねたところ、「事の性質上、お答えすることはできない。大学として何もしていないわけではないが、お知らせすることはできないので理解して欲しい」などと言われたという。

大学は当初、袁さんを無断欠勤扱いとし、給与を払っていなかったが、2月になって見直し、未払い分を袁さんの銀行口座に全額振り込んだという。袁さんは3月末で定年退職となった。

成驥さんはこう不満を述べる。

「正直、私の目からしたら何もしていないとしか思えない。『大学が動くことでかえって父の状況を悪化させることが危惧される』と説明されたが、正直、面倒ごとに巻き込まれたくないという言い訳のようで、不信感しかなかった」

一方、政府も野党議員の質問主意書に「関心を持って注視しているところであるが、事柄の性質上、お答えすることは差し控えたい」などとする答弁にとどめている。

袁さんが中国籍であることから外交的な手段は限られ、対応に苦慮しているとみられる。

それでも成驥さんはこう訴える。「ただ、父も30年近く日本に住み、在留資格も持っている。理由もわからないまま拘束をされていることに対し、人道的な見地から力を貸して欲しい」

大学院時代、袁さんと指導教官が同じで「救う会」のメンバーでもある佐々木卓也・立教大教授(アメリカ外交史)も「袁さんは日本の教育、日中の学術文化交流に貢献しており、日本政府も人道問題としてこの件を大事にして欲しい。袁さんと同じように日本で教えている中国の方はたくさんおり、彼らも怖がっている」と訴える。

佐々木卓也さん=本人提供
佐々木卓也さん=本人提供

そんな中、中国にいる弁護士から今月9日、成驥さんに「袁さんと接見できた」と連絡が入った。

弁護士によると、袁さんの健康に問題はないとみられる。弁護士は起訴内容を把握したが、当局の目を気にしてか、成驥さんにも明かさなかったという。ただ、袁さんは否認し、裁判でも争う意向だという。

成驥さんはこう話す。

「まずは健康だと確認できてよかった。父は真面目でまっすぐな人。スパイのようなことをするわけがない。自分の信念は絶対に曲げない性格だから、身に覚えのないことには絶対に屈することはない。それがかえって拘束を長引かせているのかもしれない。ただ、父のそういうところを私も尊敬しているので、そういう決断をしているのであれば全面的に支持したい」

拘束、原因は著書?

袁さんがなぜ拘束されたのか、いまだに謎だ。中国政府はスパイ罪としているが、起訴内容など、具体的な罪状については明かしていない。

佐々木氏は「袁さんは大学院留学中に天安門事件をめぐる中国当局の弾圧に抵抗し、東京都内でデモを主導したことはあるが、このあとは公の場で中国の批判をしたことはないし、ましてスパイと言われるような行為をしているとも思えない。なぜ今回、拘束されたのかまったくわからない」という。

ただ、天安門事件の関わり以外で一つ気になったのは、袁さんの著書だという。「アメリカと日華講和」(2001年)というタイトルで、戦後日本と中華民国(台湾)による講和、それに対するアメリカの役割などをテーマにした内容だ。

中国は台湾と対立関係にあり、その意味で著書の何らかの記述が中国当局の反発を招いた可能性があるのではないか、と佐々木氏はみる。

佐々木氏は「袁さんの拘束は、ほかの日本にいる中国人の学者に大変なショックを与えている。『自分も拘束されるのではないか』と恐怖を感じていると思う」と明かす。