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市民よりひどい待遇、北朝鮮軍人残酷物語 根本は「兵士多すぎ」問題

北朝鮮インテリジェンス
自転車を押しながら歩く北朝鮮軍人ら=北朝鮮関係筋提供

調査は2019年7月から20年6月まで、北朝鮮を逃れた軍服務経験者30人(男23人、女7人)から聞き取る形式で行われた。1980年代から現在に至るまでの間に軍に所属した経験があり、陸軍に所属した人が一番多くて19人だった。

調査対象者の9割が「軍服務期間中に死亡事故を目撃した」と証言した。目撃した事故は、のべ計52件にのぼった。内訳は「作業中の事故」が16件、「訓練中の事故」が8件、「殴打などによる死亡」が8件などだった。

最近では数が減る傾向にあるものの、8人が「公開処刑を目撃した」と答えた。主に乱れている軍紀の維持や士気向上などが目的とみられるが、正式な軍事裁判もなく、上官の一方的な判断で処刑されるケースが目立つという。

処刑にまで至らずとも、暴力は常態化している。軍隊内で殴打された経験がある人は30人のなかで29人にものぼった。「殴打が日常的に起きている」と答えた人も24人いた。

隊列を組んで歩く北朝鮮軍人ら=北朝鮮関係筋提供

こうした深刻な人権侵害を引き起こしているのが、劣悪な勤務環境だ。北朝鮮では高級中学(高校)を卒業後、原則として男性は10年、女性は7年の兵役を科される。米政府系放送局、ラジオ・フリー・アジア(RFA)は4月20日、市民の不満を受けて、従来10~13年だった男性の兵役義務が最近、7年に短縮されたことに伴い、原則として志願制だった女性の兵役も義務化の動きが出ていると伝えた。RFAは、女性の兵役期間は5年だとしている。

いずれにしても、北朝鮮の兵役期間は、陸軍で18カ月という韓国よりもはるかに長い。今回調査した30人の服務期間も「6年から10年」とした人が最も多い20人だった。軍に所属する間はほとんど休暇もない。今回の調査でも29人が「定期休暇はない」と答えた。

李氏は「異常に長い期間。人生の15%を部隊で送ることになる。他の徴兵制がある国と比べても、イスラエルの男性30カ月、女性24カ月、エジプト男性の最大36カ月などと比べられないほどの異常な長さだ」と語る。

荷車を押す北朝鮮軍人=北朝鮮関係筋提供

長いだけではない。軍に所属している間、ILO条約が禁じる強制労働が日常的に起きている。李氏は「全ての軍事基地や関連施設を建設するほか、農村支援や一般建設作業などにも駆り出される」と語る。韓国の北朝鮮研究者によれば、北朝鮮では冬季などの農閑期に軍事演習を集中的に行い、農繁期になれば田植えや農作物の収穫作業に駆り出される。最近では、金正恩朝鮮労働党総書記が主導する、元山葛麻海岸観光地区のホテル群や平壌総合病院などの建設、昨年相次いだ風水害の復興作業などにも投入されている。死亡事故の原因で「作業中の事故」が一番多いのもこのためだ。

食糧不足も慢性的に発生している。調査結果によれば、主食は白米かトウモロコシだが、毎年、秋の収穫期前の7~9月になると、主食をトウモロコシや麦に頼るケースが増える。

さらに、副食では安定供給されているのは大根だけだという。李氏によれば、長期間、北朝鮮軍に勤務した兵士たちの合言葉は「塩漬け大根を食べたか」だという。栄養失調が原因で病気にかかる事例が相次ぎ、ひどい場合は死んでしまうケースもある。兵士たちは飢餓から逃れるため、実家から仕送りしてもらう場合もあるが、民家への窃盗事件も頻発している。

また、仕送りなどを求めるため、手紙は自由に書けるというが、いつ届くかはわからない。回答者らの話を総合すると、早くて1~2カ月、普通で3カ月、長いと1年もかかり、紛失するケースもある。

トラックの荷台に乗る北朝鮮軍人ら=北朝鮮関係筋提供

不足しているのは食糧だけではない。北朝鮮軍の軍服と軍靴は夏季用と冬季用がそれぞれあるが、一番恵まれている部隊でも、1種類あたり年2回程度の支給にとどまっている。女性の生理用品の不足も深刻だという。備品不足を補うため、部隊内での窃盗も相次いでいる。月給は兵士がタバコ1箱程度、将校でも米1キロに満たない程度しか支給されず、誰も関心を示さないほどだという。

別の北朝鮮軍服務経験者によれば、不足する備品や食糧を補うため、軍需物資の横流しも頻発している。燃料を買い取る専門業者も存在する。検閲を逃れるため、普段は燃料タンクに水を入れて量を偽装することまでするという。

こうした劣悪な環境から、自然と軍紀は緩み、殴打など軍隊内の暴力が頻発するという悪循環に陥っている。誰もが、少しでも良い環境の部隊への配属を求め、「事業」と呼ばれる賄賂と人脈を使った裏工作を行う。上官たちは、強い立場を利用して私腹を肥やすほか、男性将校による女性兵士への性暴力が多発している。妊娠や堕胎などで問題が発覚するという。

そんななか、兵士たちへの最大の恩恵が、朝鮮労働党への入党だった。党員になれば、除隊後に待遇の良い職場に配属される可能性が高まるからだ。だが、李氏は「最近では入党条件が厳しくなり、不満が増えている。入党するために、賄賂や性上納も発生している」と語る。

金正恩朝鮮労働党総書記の立場でみれば、軍ばかりを優遇できないということだろうが、過酷な条件にさらされているだけ、軍内部の不満が増えることになる。

李氏は「北朝鮮軍は128万人もいる。米軍の134万人と比べても異常に多い数字だ。非合理的で無理な部隊運営が、こうした深刻な人権侵害を生んでいる」と説明する。同時に「北朝鮮軍は北朝鮮体制の核心だ。北朝鮮軍の人権問題を提起すれば、北朝鮮は体制への脅威だと受け止める可能性が高い」とする。

一方、李氏は「女性や子どもなどの社会的弱者への支援に比べ、国際社会が軍の人権問題に対し、介入や支援に乗り出すことはほとんど不可能だ。それだけ、問題が深刻だと言える」とも指摘した。