1. HOME
  2. World Now
  3. 中国包囲に動くアメリカ アジア太平洋への関心はどこまで本物か

中国包囲に動くアメリカ アジア太平洋への関心はどこまで本物か

ミリタリーリポート@アメリカ 更新日: 公開日:
日米外務・防衛担当閣僚会合(2+2)で発言する茂木敏充外相(右端)。右から2人目は岸信夫防衛相、左から2人目はブリンケン米国務長官、同3人目はオースティン米国防長官=2021年3月16日、東京都港区の飯倉公館、代表撮影

日米外務・防衛担当閣僚会合(以下、日米2+2)は3月16日に発表した共同声明において、中国を名指しして安全保障環境に対する懸念を表明した。日本の姿勢は、日米2+2に引き続いて実施された米韓2+2や、これらの会合に前後して実施された日米豪印首4カ国首脳協議(オンライン)ならびに米印防衛相会合において、インドと韓国が軍事面で中国を批判する姿勢を示すことを避けたのとは好対照をなしている。

一連の会合は、バイデン政権による中国包囲網構築のための第一歩と見られている。中国からは日本に対して「自ら進んで米国の顔色をうかがい、戦略的属国になっている」との罵倒の言葉も聞こえているが、米海軍やシンクタンクなどの東アジア専門家たち(その多くが対中強硬派であり、かつバイデン政権の対中政策には疑念を抱いているのだが)からも、「アメリカ軍事戦略にとって『安全牌(ぱい)』の日本以外の同盟友好国を引き込んで、軍事的な中国包囲網を形成することは、バイデン政権にとっては荷が重いようだ」との批判的な声が上がっている。

日米共同声明には、歴代アメリカ政権がお題目のように繰り返している「日米安全保障条約第5条の下での尖閣諸島を含む日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメント」という言葉が、あたかもコピペをしたかのように、書き込まれている。

尖閣諸島の(手前から)南小島、北小島、魚釣島=2013年、沖縄県石垣市、朝日新聞社機から

しかしながら、本コラムでも繰り返して指摘しているが、いくら日米の外務・防衛閣僚や日米両首脳が「日米安保条約第5条の下での尖閣諸島を含む日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメント」を繰り返し表明しても、尖閣や日本に外敵が軍事攻撃を加えた際にアメリカ政府が「同盟国日本にどのような軍事的支援を実施すべきか」について国内法令に基づく手続きを開始することと、その結果として日本を救援するために本格的な軍事支援を実施するかどうかは、日米安保条約の存在とは別問題である。対中国戦略を専門としている米海軍や海兵隊関係者たちは、「日本側はその事実を認識しているのか」ということを常に危惧している。アメリカ政府や米経済界が、場合によっては核戦争にすら発展しかねない米中戦争を前提とした日本への軍事支援を発動するとは、想定できないからだ。

さらに今年2月、こうした米軍関係者たちがバイデン政権の「対中強硬姿勢」を疑問視する出来事があった。それは、2月23日のアメリカ国防長官補佐官(広報担当)の要職である国防総省報道官の記者会見での発言をめぐる騒動だ。ジョン・カービー報道官(退役海軍少将)は、「アメリカは尖閣諸島の主権に関して日本を支持しており……」と、発言したのだ。

この発言は、バイデン政権が尖閣問題に関して、対中強硬姿勢を打ち出していたトランプ政権よりも更に数歩日本側を支援する姿勢に転じたと思わせた。というのは、これまで歴代のアメリカ政権は「尖閣諸島には日本の施政権が及んでいる」ことは認識しているとの立場を明確にする一方で、領有権ないしは主権に関しては一切触れようとはしなかったからだ。これは、アメリカの伝統的外交鉄則の一つである、第三国間の領土問題には原則として介入しない、という立場を維持するためであった。ところが、カービー報道官は「尖閣諸島の主権は日本にある」と明言したのであるから、バイデン政権が、尖閣問題に関して大幅な政策転換をなしたかに見えたのだ。

しかしながら、カービー報道官は3日後の2月26日の会見で、「先日の尖閣諸島に対する発言は誤りであり、尖閣諸島の主権に関するアメリカ政府の立場に変更はない」と述べた上で、混乱を生ぜしめたミスを謝罪した。そして、「アメリカはこれまでどおりの立場を継続する」と述べたのである。

アジア太平洋方面の戦略環境に精通している太平洋艦隊や海軍情報局関係者たちは、バイデン政権の対東アジア・対中国政策が「アマチュア」であることをさらけ出したとして、「カービー報道官たちはクビにしろ」と怒っている。彼らは、現在のバイデン政権や国防総省の首脳陣の多くが、尖閣諸島といったアメリカ人のほとんど誰もが知らない「岩」を巡る日中対立に対する知見も関心も持ち合わせていなかったことを中国側にさらけ出してしまった失態と考えているのだ。

実際に、退役海軍少将であるカービー報道官は、広報士官(PAO)畑を歩んで階級を上げていったが、その間の海外勤務地は専らヨーロッパ方面であった。米ヨーロッパ軍海軍司令部、統合参謀本部などの広報官を歴任した後、2012年に海軍少将(下級少将、他軍種の准将に相当)に昇任してアメリカ海軍の広報部門を統括するポストに就いた。この職は海軍の主席広報官を兼ねる。

翌13年、オバマ政権はカービー少将を国防総省報道官に任命し、引き続いて海軍少将(上級少将)に昇任させた。15年に海軍を退役すると、オバマ政権はカービー退役少将を国務省報道官に任命。トランプ政権が発足した17年1月、カービー報道官は国務省を去った。そして、バイデン政権発足とともに、国防総省報道官として返り咲いた。

またバイデン政権が任命した"目玉"閣僚の一人で初の黒人の国防長官であるロイド・オースティン退役陸軍大将は、ヨーロッパやアフガニスタンでの勤務経験は豊富であるが、カービー報道官と同じくアジア太平洋方面の経験はほとんどない。

米国のオースティン国防長官(右)とインドのシン国防相=インド政府提供

そのため、アジア太平洋方面の戦略環境に精通している海軍や海兵隊関係者たちによると、新国防長官が採用する国防総省幹部の多くが、ヨーロッパ方面やNATO関係に造詣の深い人々で、アジア太平洋地域に対する国防総省の関心が減少すると危惧していた。

このような経緯を勘案するならば、今回の日米2+2での「尖閣は第5条の適用範囲内」「日本防衛へのコミットメント」というのは、オバマ政権時代にスカボロー礁に関してアメリカが同盟国フィリピンに対して上記と同じ「確約」をしていたにもかかわらず、結果的にフィリピンが中国にスカボロー礁を奪取された「スカボロー礁の失態」と何ら変わらない政策を繰り返しかねないことの確認にすぎないと認識しておかねばならない。