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中国から望遠レンズでとらえた北朝鮮の素顔 リアルな市民の暮らしが見える

北朝鮮インテリジェンス
北朝鮮の木炭車=姜東完教授提供

姜教授は10年ほど前から、中国をたびたび訪問。北朝鮮の研究者として、少しでも人々の生活の実態を知りたいと考え、望遠レンズを使って、中朝国境を流れる鴨緑江と豆満江越しに数キロ以上離れた北朝鮮の実情を撮影してきた。これまで計46回にわたり、ユーチューブ「平壌の外の北韓、中朝国境探査」を公開。昨年12月には写真集『平壌882・6キロ』を発表した。

姜東完教授が昨年12月に発表した写真集「平壌882.6キロ」=本人提供。扉の写真に題名と同じ標識が見える。常に平壌を意識するようこうした標識が使われるという

正恩氏の祖父、金日成主席はかつて、北朝鮮が目指す姿について「瓦屋根の家に住み、絹の服を着て、白米のご飯と肉のスープを食べる」と説明した。この目標は1948年の建国後、70年以上が経った現代でも達成されていない。

姜教授が撮影した写真から、まず浮き彫りになるのがボロボロになった社会基盤だ。中朝国境沿いの都市や村落の道路はほとんど、舗装されていない。ガラスがないのか、ビニールで窓を覆ったアパートや住宅もみえる。

中朝国境沿いにある北朝鮮の住宅。一軒に複数の世帯が住んでいる=姜東完教授提供

北朝鮮で「ハーモニカ住宅」と呼ばれる長屋も数多く存在する。外観は、横長の一軒家だが、入り口が3カ所も4カ所もある。異なる世帯が壁一つ隔てて暮らしている。姜教授は「トイレは屋外の共用施設を使う。風呂もない」と語る。

中朝国境沿いの北朝鮮の村落=姜東完教授提供

水道もほとんど整備されていない。ほとんどの村落には、いくつかの小さな共同井戸が設置されている。軍人や子ども、女性などが次々に訪れ、バケツに水をくんで持ち帰っていた。姜教授は「川を風呂代わりに使い、野菜などを洗うこともある。衛生状態は劣悪で、伝染病がたびたび発生する原因のひとつになっている」と語る。

中朝国境を流れる鴨緑江沿いにある北朝鮮の村。様々な人が共同の井戸(中央)を利用していた=2019年7月、姜東完教授提供

そして、北朝鮮の人々を悩ませているのが、慢性的なエネルギー不足だ。村落では現代でも、牛車が重要な運搬手段として使われている。北朝鮮では牛は貴重な労働力でもあり、許可なく殺処分にすると罰せられるという。乗用車の姿はあまり見えず、木炭車も使われている。

鴨緑江近くの村落では、足を使う杵で、穀物を一生懸命ひいている女性たちの姿があった。北朝鮮の農作物の収穫量が上がらない原因のひとつに、自動化が遅れ、今でも人力に頼った農作業が挙げられている。

中朝国境を流れる鴨緑江沿いの北朝鮮の農村。女性たちが足を使う杵で穀物をついていた=姜東完教授提供

北朝鮮の電力難は深刻だ。主力の水力発電が冬季になると凍結によって発電量が落ちるほか、施設の老朽化が著しい。金正恩氏は2月の党中央委員会総会で、電力をさらに増産するよう指示したが、めどは立っていない。

中朝国境を流れる鴨緑江沿いにある北朝鮮の村。様々な人が共同の井戸(中央)を利用していた=2019年4月、姜東完教授提供

冬季になると、あちこちの住宅からもうもうと白い煙が立ち上る。北朝鮮では電気やガスの整備が遅れているため、炊事も暖房も、ほとんどが石炭を粉にして練り上げた練炭を使っているからだ。

冬を迎えた、中朝国境にある北朝鮮両岸道恵山市の風景=姜東完教授提供

姜教授は「水も電気、ガスもなく、人々が生きていく最低限の暮らしをしている。韓国の1950~1960年代の生活だ」と指摘する。教授のユーチューブを閲覧した脱北者が、自分たちが北朝鮮にいた10年前よりも状況は悪くなっているとコメントを書き込んだこともあるという。

姜東完・韓国東亜大教授=本人提供

また、水や電気が不足するなか、零下30度を下回る日もある厳寒期でも、人々は鴨緑江の川岸に出かけ、洗濯をする。頭に洗濯物を入れたバケツを載せて運び、川面に張った氷の上を注意深く進む。川岸で、ビニール手袋をはめた姿でしゃがみ込み、衣服を一枚ずつ川に浸した後、手製の木づちでたたいて洗濯する。厳寒のなかで洗濯をするのは女性ばかりだった。

真冬の鴨緑江の川縁で洗濯する北朝鮮女性=姜東完教授提供

北朝鮮は3月8日、「国際女性デー」を大々的に祝った。社会主義の北朝鮮では男女同権が宣伝され、この日は「国際婦女節」と呼ばれて、女性に花束を贈る習慣があるなどと説明されている。姜教授は「男性が洗濯をしている姿はほとんど見たことがない。男尊女卑の風土が強く残る社会だ」と語る。撮影した女性たちの顔はいずれも浅黒く、化粧もせず、粗末な服を着た人たちばかりだった。

中朝国境沿い、北朝鮮両岸道恵山市の市場=姜東完教授提供

朝鮮労働党の金正恩総書記は最近、「人民生活中心主義」「以民為天(金日成主席や金正日総書記の座右の銘で、人民を天のごとくみなし、限りなく敬うという意味)」を繰り返し、強調している。姜教授は「平壌に暮らしている人々だけに向けられたスローガンに過ぎない。電気もなく、地方の人々はテレビのニュースも見られない」と指摘した。