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『パラサイト』イ・ジョンウン、出演者として見る韓国映画のパワー

World Now 更新日: 公開日:
イ・ジョンウンさん=2021年1月28日、ソウル、神谷毅撮影

アカデミー賞4冠を達成した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」に出演し、ドラマでも活躍中の俳優イ・ジョンウンさん(51)が朝日新聞のインタビューに応じました。一度はまると抜け出せない韓流の魅力を出演者が自ら語ります。

――ドラマ「椿の花咲く頃」はネットフリックスで配信され、日本でも人気でした。

私は作品の中で、幼い頃に娘を孤児院に預け、罪の意識に苦しむ母親を演じました。大人になった彼女と再会し、悩みながら関係を修復していく姿は、韓国でこれまで描かれてきた伝統的(典型的)な母親像とはちょっと違います。一度壊れた家族の形はどうやったら元に戻るのか、そこに興味があり出演を決めました。

――母親を演じる際に考えたことは?

実際に子どもを巡る悲痛な事件は絶えません。子どもを育てる際に、家族以外の隣人や周辺にいる人たちがどのようにかかわるべきか、私自身、関心を持ち続けていました。私には未婚のまま、もしくはシングルマザーとして子どもを育てている友人がいます。彼女たちとの交流が役作りの上で自然と助けになりました。

――共演者もみな魅力的ですね?

主人公で私の娘役だったコン・ヒョジンさんは視聴者の立場として、いちファンでした。ドラマでは母娘の関係ですが、実際の年齢は10歳ほどしか離れていません。彼女は水が流れるような、余分な力のない演技をするので、シナジーを得ることができました。彼女の息子を演じた子も、私が普段から本当に親しくしている子と年が同じでケミ(相乗効果)がありました。

――このドラマには恋愛、コメディーだけでなく、ホラーの要素まで詰まっていますね。

ご覧いただいた方は、ドラマに登場する殺人犯が誰か、最後まで分からなかったのではないですか? そのはずです。だって、出演している私たちですら誰が犯人か分からないまま撮影していたんですから。

米国でも同じ手法があるようですが、ネタバレを避け、視聴者の予想を裏切るために監督が「秘密の約束」をつくるのです。だから放送の途中で友だちから電話がかかってきて「一体、誰が犯人なの? あなたなの?」と聞かれても「そうかもしれないけど、私も分からないのよ」としか言えなくて。

イ・ジョンウンさん=2021年1月28日、ソウル、神谷毅撮影

――ネタバレ禁止という意味では映画「パラサイト」(原題「寄生虫」)も、鑑賞した人が内容をばらしてしまわないよう、ポン・ジュノ監督自ら呼びかけていました。

私は裕福な社長宅で働く家政婦を演じました。名前は「ムングァン」。彼女が作品の中でどんな意味を持たされていたのか、想像した方もいたと思います。ポン・ジュノ監督はこの名前に月(英語の「ムーン」)の光(韓国語で「グァン」)で狂ってしまう人、という含みをもたせたようです。ただ、撮影中、それ以上の説明は一切ありませんでした。その代わり、「この場面、彼女だったらどうするだろう」といった話を何度も何度も繰り返しました。

例えば、作中で彼女がいきなり、北朝鮮のアナウンサーのまねをするシーンがありますね。もし、本当に地下壕のような場所で暮らしていたら、どんな「遊び」をするだろうかと監督と話しました。私たちのように南北に分かれた国にいたら、分断さえも遊びの要素になることがあるのでは、と。別に政治的な意味はないですよ。一方にとって純粋な遊びが、他者にとっては異常なものに映る。そういうことがあるのではないかと。実際に北韓(北朝鮮)のニュースによく出てくるアナウンサーの女性を半年ほど研究しました(笑)。

映画「パラサイト 半地下の家族」に出演したイ・ジョンウンさん=CJ ENM提供

――映画の中で「におい」も大きなテーマでした。

場面ごとの解釈は観客にゆだねますが、見ていてぎくっとした人はたくさんいたと思いますよ。実際、ソウルの地下鉄では、映画の影響からか、自分がにおっていないか、しきりに気にする人たちがいたようです。

――海外の映画祭でも高く評価されました。

「寄生虫」は韓国映画に対する世界の認識を一変させたかもしれませんね。カンヌ映画祭に行ったとき、見ている人たちが、自分たちが今どんな時代に生きているかを考えている様子が見てとれたんです。その時、この映画は大変なことになると感じました。この作品を撮るまで、監督は10年ほど海外で活動していました。外にでて帰ってきてみたら、最も韓国的で、最も個人的なことが、何よりも大事だった。監督はそう思い、映画を撮ったのかもしれません。

映画「パラサイト 半地下の家族」に出演したイ・ジョンウンさん=CJ ENM提供

――同じくポン・ジュノ監督の「オクジャ」では巨大な動物の役を声優として担いました。

初めて監督の映画「マザー」(邦題『母なる証明』)に出たときは「声がいいですね」と言われたんです。小さい頃、母親にその声で俳優は難しいと言われるぐらいだったのに。私が望んでいるのは俳優のような俳優ではなくて、人のような俳優だ。そんなことを言うものだから、本当に衝撃的でした。その時、すでに40歳を過ぎていましたが、私も映画に挑戦できると自信を得ました。ちなみに、動物の声を演じる上でも農場や動物園に半年ほど通いました。

――オクジャはネットフリックスのオリジナル映画という意味でも新鮮でした。

私より10歳、20歳若い俳優たちは、世の中の流れにも敏感で、ネットフリックスなどの動画配信に露出することが本当に好きみたいです。映画館の存在に慣れている世代との間では二極化も起きています。私は元々、舞台の出身ですし、(オフラインとオンラインの)両者の橋渡し役を果たせたらいいなと思います。

それと、動画配信サービスが広がることはよいことですが、独占的にならずにたくさんの会社が生まれてくれたらと思います。資本が偏らずに、共生できる方法を考えなければいけません。

――高度経済成長期の在日コリアン一家を描いた日本の映画「焼肉ドラゴン」(鄭義信監督)にも出演されました。

在日の人たちが日本の社会にどう向き合っていったのかに関心がありました。日本にもたくさんの国・地域の人たちが暮らしています。それは私が常に関心を持っている家族とは何かという問題につながっていきます。そういう意味で共演した真木よう子さんも好きですし、家族をテーマに撮影を続ける是枝裕一監督も好きです。樹木希林さんは著書を含めたくさん見ました。お目にかかることはかないませんでしたが、私にとってのメンター(助言者)です。

――これまで、格差の問題や立場の弱い人への偏見を描いた作品に出演してきました。何か意識されていることは?

出演を決める段階で、そこまで深いことは考えません。まずは台本が面白く感じられるかどうかが大切です。韓国の作品が海外で脚光を浴びるのは、素材の多様さや画面からはみ出すほどのダイナミックな表現があるからでは。ただ、その次に私自身、周りのことに関心を持ち続け、何かを分け与えることができる人間として存在できれば、とも思います。

――韓国のドラマや映画の力の源泉は何なのでしょうか?

韓国の人たちは、お酒を飲みながら話をするのが好きなんです。自分の話でも、世の中の話でも、思ったことを伝えることが好きで好きでたまらないんです。韓国はサンドイッチのような国です。あっちこっちから影響を受けてきました。いろいろなものに耐えるための力、それが話をすることなんじゃないか。そう思えるほど話が絶えません。俳優や監督たちも話し始めると目をきらきらさせてとまらない。それが創作熱につながって、どんどん別の形に広がっていって……。たぶん、そういったことが今の韓国のドラマや映画の力の源になっているのではないでしょうか。

プロフィール 1970年生まれ。ポン・ジュノ監督の映画には「母なる証明」から出演。韓国の映画賞も多数受賞。多彩な演技力が高く評価されている。