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オバマはバイデンをどう見ていたか 話題の回顧録『約束の地』

Bestsellers 世界の書店から
相場郁朗撮影

A Promised Land(約束の地)』は、オバマ元大統領の全2巻となる回顧録の第1巻。生い立ちから1期目に起きた2011年5月のオサマ・ビンラディン殺害までの出来事と当時の思いが、700ページ以上にわたって時系列にそって記されている。09年1月の政権人事、金融危機への対応、ロシアとの核軍縮交渉、医療保険制度改革、移民、環境、アフガニスタン戦略、ウォール街改革など、直面した主要な問題にどのような経緯で判断を下してきたかを読むことができる。

最初の2年間の政治判断に後悔はなかったと語るが、自己評価は厳しい。10年の中間選挙での民主党の大敗など当時の状況を振り返り、至らなかった点については謙虚に反省する。

読みどころは多いが、新政権が発足した現在、最も興味深いのは、本書の全般に登場する当時のバイデン副大統領に関する記述だろう。副大統領に選んだのは、「偏った見方」がなく、「頭に浮かんだことは何でも喜んで共有してくれる」人間だったからだと言う。外交政策においては時折、意見の相違もあったが、政治的に正反対の判断をする人物だったことが、最終判断の要因ともいう。

19歳年上で、オバマ氏が上院選に出馬していた時、上院の要人だった。「私に何かあった時には、ジョーが大統領を務める準備ができているという事実も気に入っていた」「しかし、最も重要なのは、私の直感が語っていたこと、つまりジョーはまともで、正直で、忠実な人だということだった」と振り返る。ビンラディン襲撃計画について、バイデン氏が懐疑的な見方を示していたことも記されている。バイデン氏は、失敗による莫大(ばくだい)な影響を考慮し、より正確な情報が得られるまで延期を検討することを示唆したという。

トランプ前大統領のことは、オバマ氏に向けられた国籍陰謀論以外にはあまり触れられていない。本書の評価は、読者の支持政党によって大きく異なるだろう。ニューヨーク・タイムズ紙の20年のベストブック10冊のひとつにも選ばれ、発売1カ月で300万部以上を売り上げた。現在もベストセラーを続けるミシェル夫人の回想録の売り上げ部数をこの先超えるかどうかにも、注目が集まる。

■アメリカの「わるいやつら」

Evil Geniuses(悪の天才たち)』は、2017年にベストセラーとなった前作『ファンタジーランド』で、植民地時代からの500年にわたる米国史を独自の視点で解説したカート・アンダーセンが20年8月に発表した新作。本書では、特に1960年代から20年までの米国の経済と政治の変化を、文化的側面も交えつつ検証している。著者は、数々の新聞や雑誌に活発に評論やコラムを寄稿している作家だ。

表題の『Evil Geniuses』とは、右派の大企業や投資家と、彼らのプロパガンダに利用され、加担した左派たちを指す。彼らによって数十年にわたって続けられた米国の資本主義への自由放任主義的なアプローチが、いかに現在の極端な経済的不平等をもたらしたか。著者は過去にさかのぼり、順序立てて論じていく。

60年代までの米国では、労働組合、企業を監視する規制機関や独占禁止法など、企業の公正さを保つシステムが機能していた。これにより成長する中間層のための強固な基盤ができ、彼らの消費がより高い経済成長を促し、大部分の市民が安定した生活を送っていた。多くの人々が政府を信頼し、新しいものを受け入れ、成長し続けるという、建国以来の米国の基礎となる価値観が経済的にも社会的にも機能していた時代だ。

だが、60年代からの労働紛争やベトナム戦争の継続などによって左派の政府への不信感が広がり、一方で税金と規制の増加が、右派の政府への抵抗を強めた。70年代後半にはインフレ、金利の高騰、失業率の上昇など経済が悪化。生活不安とカウンターカルチャーによる急激な変化は、社会全体に感情的な反発をもたらした。著者によれば、この頃から人々の心は「新しさ」よりも、より居心地の良い、理想化された過去への「ノスタルジー」に向かい始めたという。

81年のレーガン政権誕生が大きな分岐点だったという。レーガンは大統領就任演説で「現在の危機においては、政府は解決策をもたらすのではなく、むしろ政府こそが問題となっている」と語り、大規模な減税策を実施。金融規制緩和によって複雑なデリバティブなど、ウォール街に新たに莫大(ばくだい)な収入源が生まれた。伝統的な企業年金制度が無くなり、福祉も削減され、労働者の権利が縮小。政治経済は、多かれ少なかれウィンウィンのゲームから実質的にゼロサムのゲームへ変化したと著者は分析する。続く父ブッシュ政権、クリントン政権下でも、経済最優先の政策が続けられた。

現在、米国は富裕国の中で最も不平等な国だと著者は指摘する。巨大な資金力のある者たちが政治的影響力を買い、さらに不平等が拡大するという悪循環に陥っている。これは数十年にわたって着々と進められてきた右派の計画によるものだと著者は強く主張する。右派の投資家や大企業は70年代から大学、メディア、政治、法曹界で様々な保守派のシンクタンクや団体を設立し、そこに長期的な投資を行った。やがてこれらの組織が政府に影響力を持つようになり、大企業が利益のみを優先するシステムが構築された。右派の政治団体を通じた大企業からの寄付は、共和党候補者の莫大な選挙資金源となっている。

現在のコロナ禍とその余波、そして世界的な気候変動に直面するなか、米国が生き残り、繁栄するためには、より民主的で持続可能な資本主義の形態に移行することが重要だと著者は訴える。

右派のイデオロギーを促進した鍵となる人物や書籍についても詳しく記されている。前作同様、著者の主張のすべてをうのみにするわけにはいかないが、米国の現代史を振り返り、今後を考える上で非常に参考になる本だ。

■黒人差別、ユーモアに包んで語る

You’ll Never Believe What Happened to Lacey』は、異なる土地に暮らす黒人姉妹が、これまでに経験した人種差別について語った本。昨年はニューヨーク・タイムズでも多くの人種関連の本がベストセラーの上位入りをしたが、この本の内容は、例えばイブラム・X・ケンディの『反人種差別主義者になる方法』やロビン・ディアンジェロの『白人の脆弱(ぜいじゃく)さ』など、学者が論じている本とは趣が大きく異なる。本書では、黒人差別という気がめいるような内容が、ユーモアを交えて軽快に語られている。

表題は、「レイシーに何が起きたのか、信じられないでしょう」という意味。著者のひとりでレイシーの妹であるアンバー・ラフィンはニューヨーク在住。黒人女性初の人気トークショーのライターだ。ストリーミングサービスで、自身の名前を冠したショーも持っている。レイシーは25年以上にわたり医療と福祉の分野で働き、人種差別主義が色濃く残るネブラスカ州オマハで暮らしている。自分以外のほとんどが白人という環境のなかで受ける日常的な差別や差別的発言に対して、常に声をあげて闘ってきた女性だ。

物語はアンバーが進行役となり、レイシーの経験を中心に、姉妹の会話形式で進められていく。例えば、ドーナツ屋で黒人だという理由で商品がないと言われたこと、見知らぬ白人女性からアフロヘアに手を突っ込まれたこと、ドレスアップをしてでかけたら警官から売春婦に間違えられたこと、大型店舗で万引きを疑われ警備員に追いかけ回されたこと、白人にとって黒人の顔は見分けがつかないので、女優のウーピー・ゴールドバーグに間違われたことなど、私が住むニューヨークでは信じられないような出来事が次々と紹介されていく。

オマハでは、デパートで白人の店員に品物の値段を聞いた際、開口一番に「これは高いです」と言われることが多々あるという。自分が唯一の黒人スタッフである職場では、同僚から「黒人はサラダを食べないのよね」と言われ、白人女性の行方不明事件の話題が出た際には、「黒人女性は誘拐されたりしないから、あなたは安全ね」と言われた。さらには上司の差別発言について会社の人事部に相談をしたところ、なんとレイシー自身が解雇されてしまったという。これらは昔話ではない。そのほとんどが、オバマ政権後のことであり、このような不条理な出来事が米国の黒人たちにとっては日常茶飯事であることを、姉妹のおしゃべりを通じて、読者は思い知らされる。

著者たちは、白人の読者に対して、「本書を読んで、悲しい気持ちになり、少し考えて、人種問題の奥深さをより理解し、21世紀にアメリカで黒人でいることについて違った視点を持つようになってくれたら」と呼びかける。黒人の読者に対しては、「白人たちに、彼らが言っていることがなぜ間違っているのかを理解してもらうのは、決して黒人の仕事ではない」と語る。レイシーは人種差別的なことが起きた時、「黙っていることはもはや必要なことではない」と声を上げることの大切さについて訴える。

エピソードに沿ったレイシーの写真も多数収められている。オーディオ版では、姉妹による実際の語りによって、彼女たちのジョークの面白さや細かいニュアンスがストレートに伝わってくる。笑いは多くのことを人に伝える力をもっている。黒人の経験についてより良い理解を得たいと思っている人にとっての入門書としてお薦めの本だ。

米国のベストセラー(eブックを含むノンフィクション部門)

1月31日付The New York Times紙より

『』内の書名は邦題(出版社)

1 A Promised Land

Barack Obama バラク・オバマ

『約束の地 大統領回顧録1 上下』(集英社)

オバマ元大統領の回顧録第1弾。生い立ちから1期目途中までを振り返る。

2 Caste

Isabel Wilkerson イザベル・ウィルカーソン

ピュリツァー賞受賞ジャーナリストが論じる今日の米国における階級制度。

3 Greenlights

Matthew McConaughey マシュー・マコノヒー

アカデミー賞受賞俳優が35年間にわたってつづった日記。

4 On Tyranny

Timothy Snyder ティモシー・スナイダー

『暴政:20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン』(慶応義塾大学出版会)

20世紀の独裁政治から学ぶ20の教訓。

5 Untamed

Glennon Doyle グレノン・ドイル

米元女子サッカー代表の伴侶が、自身の内なる声に耳を傾ける。

6 A Swim in a Pond in the Rain

George Saunders ジョージ・ソーンダーズ

ブッカー賞受賞作家が小説作品の機能と重要性を検証。

7 Evil Geniuses

Kurt Andersen カート・アンダーセン

米中産階級の弱体化の原因を経済的、文化的、政治的側面から検証。

8 The Body Keeps the Score

『身体はトラウマを記録する』(紀伊国屋書店)

Bessel van der Kolk ベッセル・ヴァン・デア・コーク

トラウマが身体と心に与える影響と革新的な治療法について。

9 You’ll Never Believe What Happened to Lacey

Amber Ruffin and Lacey Lamar アンバー・ラフィン&レイシー・ラマー

異なる土地に住む姉妹がそれぞれの視点で語り合う人種差別の不条理や日常。

10 Becoming

『マイ・ストーリー』(集英社)

Michelle Obama ミシェル・オバマ

元ファーストレディーは、仕事と家族、夫の政治的な出世のバランスをどうとったか。