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「ゲームの達人」がプロレーサーに 「eスポーツ」に自動車メーカーが熱い視線

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2019年10月に開かれたeモータースポーツの大会。画面左下には、宮園拓真選手の顔も見える。コロナ前は、一つの会場に集まって競っていた=中川仁樹撮影

「限界までのドライブ感覚は本物のレーシングカーとほぼ同じ。僕の運転技術の土台はここでつくった」。そう語るのは、英国人レーサーのヤン・マーデンボロー選手(29)だ。

プレステの達人からプロレーサーになった、英国人のヤン・マーデンボロー選手とスカイラインの「シルエットフォーミュラ」=中川仁樹撮影

マーデンボロー氏は、ゲームの達人からプロレーサーへの道を駆け上がったユニークな経歴を持つ。子どもの頃、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのゲーム機プレイステーションの人気ゲーム「グランツーリスモ」シリーズに夢中になり、レーサーにあこがれた。だが、グランツーリスモなら手軽に遊べても、実際のレースに出場するには大金が必要。「英国の中流家庭で育ち、13歳ごろには夢はかなわないと分かった」

ヤン・マーデンボロー選手が昨年、スーパーGTでドライブした日産自動車の「GT-R」=ツインリンクもてぎ、中川仁樹撮影

転機は2011年に訪れた。グランツーリスモのトップ選手に本物のレーサーになれる機会を与える日産自動車などのプログラム「GTアカデミー」(08〜16年)に合格。16年からは日本で最も人気があるレースのスーパーGTを日産のGT-Rで走った。「プロレーサーになれなくても、グランツーリスモは、モータースポーツを見るきっかけにもなる。だって、世界では多くの人が車を愛しているんだから」

レースに特化した「グランツーリスモSPORT」やパソコン用のiRacing(アイ・レーシング)などレースのソフトの魅力は、極めてリアルに近いこと。本物の車の性能やサーキットの状態を反映してプログラムされ、ハンドルやペダルを買えば操作も実車とほぼ同じ。ハンドルなどから車体や路面の状況を感じることも可能で、シミュレーターとも呼ばれる。

2019年の東京モーターショーに合わせて開催されたeモータースポーツの大会=東京・お台場、中川仁樹撮影

本格的なシミュレーターは、F1チームのテストや、トップレーサーのトレーニングにも活用されている。スーパーフォーミュラやスーパーGTで活躍する若手ホープの大湯都史樹選手(22)は、練習をきっかけにeスポーツの大会に出場するようになった、いわば「二刀流」。「eスポーツは、少しのミスでタイムが変わりやすい。1周をまとめきる能力が鍛えられた」と、リアルのレースにも経験を生かしている。

F1を統括する国際自動車連盟(FIA)が公認するグランツーリスモSPORTを使った選手権も18年に始まった。20年の決勝は、オンラインで欧州やアジアなど5地域の代表が個人とメーカーの2部門で激突。大学生の宮園拓真選手(21)が2冠に輝いた。「オンラインで国内外の選手と練習した成果が出た」

国際自動車連盟(FIA)公認の選手権で、2020年のチャンピオンに輝いた宮園拓真選手=中川仁樹撮影

eスポーツのもう一つの特徴が、オンラインで世界中の選手と気軽にプレーできることだ。4歳でグランツーリスモシリーズを始めた宮園さんは一人で遊ぶことが多かったが、有力選手と練習することで、レース中の競り合いに強くなった。ほかの選手の操作を再現し、何回も見て研究することもできる。

ただ、「あんまり優勝の実感がわかなかった」ともポツリ。コロナ前の大会は選手が同じ会場に集まって競った。昨年2月のシドニー大会では、初優勝を決めた宮園さんを、各国の選手が囲んで祝福した。今回は自宅から一人で参加。ゴール後は物足りなさを感じた。「やはりリアルで会うのがすごく大事だと思った」と言う。

宮園拓真選手が国際自動車連盟(FIA)の公認選手権などで獲得したトロフィー=中川仁樹撮影

世界のeスポーツの市場規模は全体で約1000億円に成長したとみられ、自動車メーカーが、実際には販売していない夢の車を投入するなど、「未来のユーザー」にPRする場にもなっている。トヨタはスポーツカー「スープラ」に、車の挙動やブレーキ操作などを記録するシステムを開発。リアルタイムで送信し、eレースのマシンと競わせるアイデアも出ている。若者のレース離れが叫ばれる中、eスポーツへの期待が膨らんでいる。

宮園さんも夢を語る。「バーチャルとリアルのレース界は交流が進んできたが、まだ別の世界から来る人は少ない。eスポーツを通じ、普通にレースは面白いと思ってもらえるようにしたい」