海南島を「第二の香港」に 中国が目指す改造計画

安い税金、免税店、砂浜。中国共産党は、人びとをヨットに乗せたいとすら思っている。
中国当局は、南シナ海に浮かぶ島の海南省を自由貿易港と国際的な商業の中心地にしたい考えだ。この島は面積が米国のメリーランド州ほどで950万人が住む避寒地だが、そこをグローバル企業や忙しく各地を飛び回る投資家、洗練された買い物客らを引き付ける場所に改造する新たな動きが生じている。
中国にはすでに、そうした場所がある。人口750万の香港だ。だが、この元イギリス植民地の将来には疑問が投げかけられている。2019年の民主派による抗議の後、中国政府は厳しい国家安全維持法と反対派の取り締まりで香港を追い詰めた。そのことが、長年にわたる経済的自由の砦(とりで)に恒久的なダメージを及ぼしたかどうかははっきりしない。
海南の改造は、中国に財政や企業活動上の次善策を与えるだろう。とはいえ、香港の複製をつくるのは容易ではない。香港の成功は、その多くがレッセフェール(訳注=経済上の自由放任主義)や独立した司法制度、境界を越えた束縛なしの資金移動、情報の自由な交換によるものだ。それらはすべて中国本土に欠けている自由である。
中国政府は、海南が香港並みになれるような方向に向けて統制を緩める動きはほとんど見せていない。また、海南は、香港にいるような高等教育を受け、世知にたけた労働者を欠いており、広東省の製造業地帯に近接した香港のような地理的特性もない。
それでも、ショッピングや企業のオフィス誘致といった分野では、海南は競い合うようになってきている。
「(海南への)ビザは不要で、行きやすいし、中国本土と香港の出入境が全面的に再開されるまでには新型コロナウイルス問題が解消する必要があり、まだ数カ月ないし数年先になる可能性がある」。香港バプテスト大学の政治学教授ジャンピエール・カベスタンはそう言い、「海南で進行している事態は、香港の地位の低下感を膨らませている」と指摘した。
中国当局は、(海南を)香港に取って代わる存在にするのではなく、香港の補完的な存在にしたいのだと言っている。ただし、いずれにしても海南を自由貿易の聖地にするのは簡単なことではない。ここ数年間で、少なくとも21カ所の自由貿易区を天津や上海、その他の地域に導入した。そのほとんどが、まだ軌道に乗っていない。
海南に特有な問題への取り組みも過去に挫折している。地元当局は、金融や買い物より不動産ブームとその破綻で有名だった海南省をもっと発展させる方策を何年間も模索してきた。ギャンブルの可能性を繰り返し探ったが、北京からは毎回、ノーを突きつけられてきた。
地元当局は、今回の取り組みはこれまでとは違うと言っている。輸出業者や輸入業者たちに迎合するのではなく、買い物客や富裕層、さらには美容整形の施術を求める人たちも引き付ける取り組みを明らかにした。
「海南の開放度は、本土の自由貿易区よりもずっと高い」。海南大学の教授で自由貿易地域を研究しているシア・フォンは、そう指摘する。
ショッピングは重要な部門だ。新しい規則で、本土から来る人なら誰でも中国の通常の輸入税や消費税、奢侈税を支払わずに海南で年間計約1万5千ドル相当の買い物ができる。これまでの制限は、年間わずか5千ドルだった。
一方、関税その他の税は、本土の輸入化粧品の価格の半分について引き上げる。
青島市から来たシュイ・ヤン(33)のような観光客は、ランコム、SK-Ⅱ、ラメール、ディオールといったブランド品の店をあさる。シュイが言うには、エスティローダーのリキッドメイクアップファンデーションは海南省都の海口にある免税店だと、青島の3分の2の値段で買える。
それには、買い物客の群れを呼び込む価値がある。2020年の7月1日に政策転換して以来、訪問客の数は前年に比べて3分の2近く増えた。
「ここは、すごい。長い行列ができる」とシュイは言う。
ティファニーやプラダなどのブランドは最近、海口に店舗をオープンした。感染症の発生で海外旅行に行けなくなった中国人の買い手を視野に入れている。
「海南でのショッピングの方が便利だ」。北京に住むメアリー・リウは、海口でコーチのハンドバッグを見て回りながら、そう話していた。(抄訳)
(Keith Bradsher)©2020 The New York Times
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