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「日本と中国は、それぞれの『分身』」 大胆な切り口で歴史を描いたベストセラー

Bestsellers 世界の書店から
相場郁朗撮影

中国は近代以降の日本をどう描くか。日本留学10年の経歴を持つ李永晶は二つの大胆な切り口でこの難題に挑んだ。一つは、日本は中国の、中国は日本の「分身」という設定、もう一つは戦前と戦後をひと連なりの精神史として描く歴史心理学の手法である。

西洋列強の干渉に対して、日中は東アジアの伝統的王権思想に基づき、尊王攘夷(じょうい)で対処した。日本は明治維新により西洋文明を教師に中華世界から離脱し、攘夷の矛先が転じて征韓論・日清戦争につながった。敗戦を契機に中国の志士たちは、倭寇(わこう)の小国・日本を師事の対象へと転向した。

帝国主義の時代、日本はアジアを舞台に植民地の獲得をめぐって西洋列強と争い、中国を侵略した。日本の第2次大戦敗戦は、植民地帝国という「旧世界」の没落であるにもかかわらず、政治学者の丸山眞男らは西洋中心の近代文明の移植を図り、戦後民主主義が開花した。一方で、王権としての天皇は象徴として存続し、日米安保体制のもとで国際社会に復帰した。中国では、革命により帝国主義の圧迫を克服し、中華人民共和国という国民国家が成立した。

冷戦後、西洋中心の普遍世界が過ぎ去ったあと、李は人類文明への影響力を持つ場所として再び東アジアを歴史の舞台に引き上げる。いま、主役としての急速な経済成長を経て大国へと変容しつつある中国は、いかなるビジョンで世界の思潮を牽引(けんいん)しようというのか。そこで李が挙げるのが、意外にも日本国憲法だ。国連中心主義とともに、近代日本の国民精神の精華が結実しているからだという。

この異質とも見える二つの「分身」を合体させるべく、李は歴史の亡霊を呼び覚ます。それは日中の対立がもっとも激化した1940年代、欧米文化の克服を論じた日本の「近代の超克」論であり、京都学派の「世界史の哲学」である。

ジキルとハイドが合わせ鏡になった日本像は、本書のように傷痕うずく日中の深層関係からしか描けまい。しかし、李の戦後日本の精神史には、保守思想と草の根の民衆思想の系譜が考慮されていない欠落がある。戦後保守思想に反共主義が根強くあったことや、中国語の翻訳成果が乏しいためと思われる。

■中華民族5000年を描き通した38万字

中国には歴代王朝の歴史を、その一代後の王朝の史家が正史として編纂(へんさん)する伝統がある。その最初が司馬遷による『史記』で、清代に編まれた『明史』までを含め「二十四史」と総称される。その二十四史のエッセンスを集めることで、中国五千年の歴史を濃縮したのが本書『中国通史』である。濃縮と言っても総字数38万字に及ぶ大著である。

著者の呂思勉(1884-1957)は江蘇省常州出身で、中学・大学の教員のあと、中国の老舗出版社「中華書局」や「商務印書館」で編集を務め、新中国建国後は華東師範大学で教壇に立った。陳垣(ちんえん)、陳寅恪(ちんいんかく)、銭穆(せんぼく)と並んで「現代史学四大家」と称される。本書は1930年に大学生の必修科目の教科書として上海で書かれた。それがいま、中国国務院の教育部により大学生の必読書目に推され、こうしてベストセラーとなっているのである。

中国の史書の形式には編年体と紀伝体の大別があり、二十四史は『史記』で採用された紀伝体を踏襲している。紀伝体とは、本紀・年表などの年代記、著名人の伝記の列伝、表・書などの制度・文化史からなる総合史である。『中国通史』は表・書に相当する「中国文化史」を第1部に、編年史に相当する「中国政治史」を第2部に配する。分量的には「文化史」が5分の3を占め、婚姻・族制・政体から教育・言語・宗教まで18の部門に分かち、法令や経済や文化などの制度史を扱う。「政治史」は神話時代の民族の起源から、執筆当時の中華民国の創始までの治乱興亡を35の時代区分を設けて描く。第1部がいわば変わらぬ静的史実とすれば、第2部が変わりゆく動的史実である。

呂が紀伝体にならって2部構成をとったのは、それまでの歴史教科書や通史があまりに政治史偏重であるために叙述が皇帝の家譜さながらに無味乾燥で、個性に欠けるうらみがあっただけでなく、史学者としての国史に対する信念があったからだ。それは過去の事実を探り、解釈を加え、今の社会を解明し、未来を推測して進むべき道を示すというもので、「理は事によって現れ、事をおいて理を求めると見誤る」と端的に表現している。つまり中国の表層を彩る政治史の背後、あるいは裏面で歴史を突き動かす社会に注目し、中国社会を貫く民族的一体性の構成原理を見極めようとする姿勢である。

たとえば文化史の第1章「婚姻」の章を見てみよう。家庭の起源―わが国古代の婚姻制度―婚姻外の現象―近代女性の権利の勃興、という構成で、鳥獣―原始人―狩猟―牧畜―農業と、人類の進化と文明の進歩によって、男女関係がどう変化し、父系家族制度のもとで夫婦関係、貞操観念、蓄妾・姦淫(かんいん)・売淫などの風習がどのように生まれたかを説明している。典拠として生物学や社会学の知見とともに、『礼記』『春秋左伝』『春秋公羊伝』『儀礼』『爾雅』などの中国古典がふんだんに引用されている。人類の生物学的進化と中華文明の発展の説明が地続きになっている。

本書を通して感じられる文化的一体感は、歴史の荒波にもまれて精錬された中華民族の凝集力の証しである。それはまた満洲事変前夜だった当時の、「外侮」を一致団結してふせぐナショナリズムの源泉でもある。だが、そこにはある種の偏狭の痕もまた認められる。たとえば政治史35章のうち、モンゴル帝国はわずか1章を割くのみ、しかも冒頭に「モンゴルは、野蛮な侵略民族が建てた最大の帝国で、幸運に恵まれ成功した」の一文を刻む。また最後に近い「清朝の滅亡」の章では辛亥革命の偉業を「268年間淪落(りんらく)した中華はここに光復した」とし、清朝を外国人による王朝として中華王朝のらち外に置いている。

■兵器がもたらした人類の進歩と狂気

本書のタイトル『兵者不祥』とは『老子』に出てくる言葉「兵は不祥の器にして君子の器にあらず」から取られている。ここでの「兵」は武器を指し、「そもそも武器は不吉な道具であり、君子の道具ではない」という意味だ。サブタイトルに「武器をテーマにした戦争文化史」とあり、古今東西の16の戦闘秘話を集めている。

舞台は主にヨーロッパ、西域・モンゴルを中心とする中国、そして日本である。取り上げられた戦争はその大半が近代以前の戦闘・戦役であり、したがって兵器は鉄砲・大砲など火薬を用いた火器よりは、刀剣・弓矢など「冷兵器」が中心である。

著者の劉鶴は「幻想狂劉先生」のペンネームを持ち、軍人の家庭に育ち、軍事は博覧強記。そればかりか、欧州古武術をたしなみ、国際テコンドーの黒帯有段者の格闘実践家でもある。本書には、その軍事知識のうんちくが披歴(ひれき)され、関連図版が満載で、アカデミズムに鎮座する専門家というよりは、軍事オタクあるいは兵器フェチの境地に近い。

16話はどれも読み切りで前後の脈絡はない。そのうちの4話が日本の事例であり、同時代の中国の戦争や兵器との関連もあって、興味深い。

第5話「殺人の刀から活人の剣へ」。古代日本では中国から騎馬文化とともに「環首の大刀」が移入され、蝦夷(えみし)征伐の殺傷具として用いられた。と同時に中国の「兵は不祥」観念を受けいれ、刀は神道祭祀(さいし)・駆魔辟邪(へきじゃ)の神器としての剣となった。

戦国武士の時代、戦場での主な兵器は弓矢と長やりで、刀は専ら護身用と首狩り用で、戦場での死傷者のうち刀による者は1割にしか満たなかった。武士は修養のために剣術を究め、剣豪を生み、「念流」「神道流」「陰流」「中条流」などの流派を生んだ。いっぽう刀は武士にとって支配と名誉の象徴となり、「辻斬り」「切り捨てご免」の風習を生んだ。この点では西欧の騎士による一種の社交儀礼としての一対一の白刃決闘の文化に近い。

16世紀の明の時代、海域を荒らしまわり南京まで攻め込んだ倭寇(わこう)の恐怖は、明軍改革の契機ともなった。時の将軍、戚継光(せきけいこう)は1561年の台州の戦いで指揮を執り、倭寇数千人をせん滅させた。そのとき明軍が倭寇の死体の上に『陰流目録』という剣譜を見つけ、その剣術を参考にして『辛酉刀法』が編まれた。中国と比べて日本の剣術は技術的に卓越していただけでなく、抜群の切れ味を誇る「倭国刀」の鍛造と熱処理技術もまた秀逸だった。

第8話「堺事件始末」。維新前夜、攘夷(じょうい)に駆られフランス軍官水兵11名を殺傷した土佐藩兵20名は公開処刑となり、堺の妙国寺でフランス官兵立ち会いのもと、切腹をする。自死によって潔白を証明する武士ににらみつけられたフランス兵は、惨烈を極めた光景に堪えられず、12人目の切腹のとき、その場を立ち去り、11名の自裁で残りは流罪となった。

第15話「仮面の武士」。天下泰平の江戸時代になり、儒教・仏教の理論を摂取して「武士道」が体系化された。最後の武士は西南戦争で自刃した西郷隆盛である。明治政府は国民皆兵の原則に基づき平民を国軍に組織し、「軍人勅諭」を発布し、ここに「武士道」は「新武士道」へと変質した。一見、武士精神を継承しているようだが、旧武士階級による農民徴集のための好餌(こうじ)にしかすぎず、実際は4銭の軍用切手で農民の子どもたちが「皇軍」の兵士に仕立てられていった。

第9話「怨恨(えんこん)の刃」。凶器であり神器でもある日本刀のイメージは現代にも生きている。2017年、富岡八幡宮(東京都江東区)の宮司らを実弟が日本刀で殺傷した。三島由紀夫の『奔馬』さながらの猟奇事件である。

近代以降、戦争は剣術の技能を競う一対一の格闘ではなくなり、軍隊は組織化され、作戦は科学的な知略により立てられ、兵器はより高度化し殺傷力を激増させた。古代からの兵器は西洋のフェンシングや日本の剣道などにおいて、その格闘精神や技能の一部が継承されている。とはいえ、兵器の織りなす残忍な戦争史の伝承もまた、途絶えさせてはならない。つまるところ「兵は不祥の器」であり、人々の狂気を具現し、増幅する凶器なのだから。

中国のベストセラー(社会科学部門)

アマゾン中国キンドル電子書籍10月18日ベストセラーリストより

『 』内の書名は邦題(出版社)

1 烏合之衆

『群集心理』(講談社学術文庫)

ギュスターヴ・ル・ボン

1895年に出された古典。群衆の心理と行動を社会心理学的に分析。

2 兵者不祥

劉鶴

希代の軍事オタクによる古今東西16の戦闘秘話。日本の事例が豊富。

3 波斯公主選駙馬

パウエル・モーティル

ペルシャのお姫様はお婿さんを100人の候補からどう選ぶか。判断力のための16の法則。

4 分身

李永晶

日本は中国の分身という設定の下で近代以降の日本史を書き換えた問題作。

5 中国通史

呂思勉

中国5000年史を38万字にまとめた古典。文化史と政治史の2部構成。

6 空之境界

奈須きのこ

日本の小説家による長編新伝奇小説『空の境界』の中国語版。全4冊。

7 郷土中国

『郷土中国』(風響社)

費孝通

1948年に出された農村社会学の古典。中国農村の社会構造モデルを提示。

8 徳国史系列

ウィリアム・アーバンほか

7名の欧米の歴史家による中世から現代までのドイツ史。全6冊シリーズ。

9 7と同一書(版元が異なる)

10 舎勒作品集

マックス・シェーラー

ハイデガーの称賛をうけたドイツの哲学者の作品集。全7冊。