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バイデン政権が北朝鮮との合意に突き進む前に 日韓の意思疎通が今こそ必要な理由

北朝鮮インテリジェンス 更新日: 公開日:
2019年12月に行われた首脳会談冒頭、韓国の文在寅大統領(左)と握手を交わす安倍晋三首相(当時)=中国・成都、岩下毅撮影

バイデン氏が副大統領を務めていたオバマ政権時代の2012年2月、米国は北朝鮮との間で「リープデー・アグリーメント(うるう年の2月29日になされた合意)」をまとめた。そこには「北朝鮮はウラン濃縮活動、核実験、長距離ミサイルの発射を一時停止する」と書かれていた。
当時、日本外務省のなかで、この合意を巡って懸念の声が持ち上がった。日本を射程に収める中・短距離ミサイルの発射停止が明記されていなかったからだ。ただ、リープデー・アグリーメントは1カ月もたたない同年3月16日、北朝鮮が「人工衛星を搭載したロケット」発射を予告したことで吹き飛び、日米間の摩擦はうやむやになった。

さらに2016年11月の前回米大統領選。当時、勝利は間違いないとの声が強かったヒラリー・クリントン元国務長官の陣営で、新たな外交政策の立案が進んでいた。当時、弾道ミサイルの発射を繰り返していた北朝鮮問題も大きな課題の一つだった。

日米関係筋によれば、クリントン政権が発足した場合、北朝鮮政策の目玉は、「大陸間弾道弾(ICBM)の凍結」だった。米国が制裁の一部緩和に応じる代わりに、北朝鮮が米本土への脅威になるICBM開発を凍結するという内容だったという。

結局、クリントン政権は発足せず、この案は日の目を見ず、北朝鮮は17年7月、初めてのICBM「火星14」(射程5500キロ以上)を発射した。

移動発射台から直立する「火星14」=2017年7月、労働新聞HPから

公式化されなかったとはいえ、米民主党は過去、日本や韓国を射程に収める北朝鮮の中短距離ミサイルにほとんど関心を示してこなかったと言える。

過去、日韓両国はリープデー・アグリーメントの際や、クリントン政権時代の1994年に締結された米朝枠組み合意で、ことごとく交渉の現場から外された。枠組み合意では、米国は日韓に対し、北朝鮮に軽水炉を建設するための費用負担を求めたが、交渉過程に口を出すことを許さなかった。

では、米国は日韓に対し、核の傘を含む「拡大抑止」を十分提供してきたと言えるだろうか。

「拡大抑止」とは、日韓両国が他国から攻撃された場合、米国が必ずその国に報復することで、攻撃を抑止する仕組みのことだ。米国はオバマ政権時代の2010年、日韓両国と個別に拡大抑止を巡る定期協議をスタートさせた。北朝鮮が06年から核実験を始めたことで、日韓両国に北朝鮮による核攻撃への懸念が高まったためだ。

米国はネブラスカ州のオファット空軍基地やモンタナ州のマルムストローム空軍基地などを日韓両国の関係者に公開。極秘施設である、核攻撃目標を決める戦略軍司令部センターやICBMを格納する地下サイロ、戦略原潜の内部などを見せて、米国が「約束」を守る意思があることを強調してきた。

一方、米国は核兵器の具体的な使用基準や目標については、日韓両国に公開していない。韓国政府は2016年5月、米国との定例の防衛協議で米国が北大西洋条約機構(NATO)加盟国と行っている形式を念頭に、核兵器の共同管理に言及したが、米国は受け入れなかった。

米はドイツ、イタリア、ベルギー、オランダの4カ国に航空機搭載型の核爆弾を配備。4カ国は警備などに協力しているとされ、核兵器使用について意見を言えるが、最終決定権は米国にある。韓国側には当時、米軍が韓国内の基地などに核兵器を配備し、米韓共同で管理すれば、北朝鮮の脅威によって広がる韓国内の核武装論を抑えられるという計算があった。

だが、オバマ政権は東アジアで核が広がる「核ドミノ」を警戒し、NATOモデルを韓国に適用する考えを示さなかった。

そして、米国は昨年、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱した。米国は日本や韓国を含む東アジアに、中距離ミサイルを配備する構想を持っているとされる。中国も昨年、米国の新たな中距離ミサイルを配備しないよう日韓に警告している。

バイデン政権が北朝鮮との間で、結果的に日韓両国の安全保障を軽視した合意に突き進まないという保証はない。

一方、2022年5月に任期が終わる韓国の文在寅政権にとって、南北関係の改善が最重要課題だ。文政権としては、以前から宣伝してきた「朝鮮半島への平和の定着」を確認し、北朝鮮に対する経済協力を推進したいだろう。場合によっては、不完全だと知りながら、米朝間の核や弾道ミサイルを巡る部分的な合意を受け入れてしまう可能性がある。

そんなことが起きないためにも、日韓関係の改善と意思疎通の強化が求められる。