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メルケル時代、ついに来年終幕へ 次を狙う4人の名前

Behind the News ニュースの深層
ラシェット氏の伝記の出版発表会に招かれ、質問に答えるゼーダー氏。ともに有力なメルケル氏後継者だ=2020年9月30日、ベルリン、野島淳撮影

ドイツの首都ベルリンで9月30日、ある政治家の伝記の出版発表会があった。彼の名は、アルミン・ラシェット氏(59)。ドイツで最も人口が多い西部ノルトラインウェストファーレン州首相を務める人物だ。

ラシェット氏は所属する与党・キリスト教民主同盟(CDU)の党首選に名乗りを上げている。党首選は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で4月、12月と2回延期された後、2021年1月中旬にも見込まれる。メルケル氏はすでに2年前に党首を退き、来秋の総選挙には出ない意向を表明。ラシェットは党首選を勝ち抜き、首相候補として総選挙に臨むことをもくろむ。

ノルトラインウェストファーレン州首相アルミン・ラシェット氏=2020年2月25日、ベルリン、野島淳撮影

だがこの日、イタリア出張中だったラシェット氏本人に代わってゲストに招かれたのは著者2人と、南部バイエルン州首相のマルクス・ゼーダー氏(53)だった。

「異なる立場の人たちをまとめようとし、実際にうまくやっている」。腕組みしたラシェット氏のポスターの前で、ゼーダー氏は司会者の質問に答え、ラシェット氏を持ち上げた。柔和でいつもにこやか、気さくなお父さんの風体のラシェット氏だが、ゼーダー氏は「最大州の首相を務め、市民の支持を得ていることを決して軽んじてはいけない」とも述べ、力強さも兼ね備えた存在だとラシェット氏を褒めた。

バイエルン州首相のマルクス・ゼーダー氏=2019年5月24日、ミュンヘン、野島淳撮影

2人の関係は複雑だ。ラシェット氏は、保守政党のCDUの中で、リベラル路線を敷いてきたメルケル氏の後継を自認するが、最有力とは言い切れない。世論調査では、いまだに首相候補に名乗りを上げてさえいないゼーダー氏の後塵を拝しているからだ。

ゼーダー氏は新型コロナウイルスの感染拡大防止策で、制限強化や検査拡大など国内の議論をリード。指導力を印象づけ、首相候補の一角に浮上するようになった。ゼーダー氏は、バイエルン州を地盤とする地域政党・キリスト教社会同盟(CSU)の党首でもある。CDUとCSUは連邦議会で同じ会派を組む姉妹政党。これまで両党が話し合いのうえで首相候補を決めて総選挙に臨んできたが、「姉貴分」のCDU党首が首相候補になる方が多かった。だが、ゼーダー氏はCDU党首選の結果やその後の世論の風向きを見極めながら、自らが立ち上がる機会をじっくりと狙っているようだ。いつ首相に意欲を示すのか。この日も「私の場所はバイエルンにある」と述べ、司会者の質問をけむに巻いた。

■メルケル頼みではもたず

そもそもCDUの党首選が行われることになったのは、メルケル氏が後継戦略に失敗したからだ。メルケル氏の後を継いで2018年12月に党首になったのは、現在国防相も務めるアンネグレート・クランプカレンバウアー氏(58)だった。だが今年2月、首相候補として来秋の総選挙を戦うことを断念した。党の支持率を上げられなかったうえ、党内から指導力不足を問われ続け、自ら辞退したのだった。

これを受けて党首選に立候補したのが、メルケル氏の元政敵で会派の元議員団長のフリードリヒ・メルツ氏(64)、連邦議会の外交委員長で元環境相のノルベルト・レットゲン氏(55)、そしてラシェット氏だった。

連邦議会CDU・CSU会派の元議員団長のフリードリヒ・メルツ氏=2020年2月25日、ベルリン、野島淳撮影
ドイツ連邦議会外交委員長のノルベルト・レットゲン氏=2020年2月、ベルリン、野島淳撮影

党首選は各州の党員を代表する計1001人の代議員が投票する。世論調査ではメルツ氏にも及ばないラシェット氏だが、最大州の代議員の支持を得て有利だとの見方がある。ただ、ラシェット氏が仮に選ばれても、首相候補になれるかどうかは、支持率の動向も左右しそうだ。

20%台後半に低迷していたCDU・CSUの支持率は、新型コロナウイルスの感染拡大後、30%台半ばまで持ち直した。ひとえに、メルケル政権のコロナ対策がこれまでのところ成功したからだ。感染による死者数や経済の落ち込みを周囲の国よりも抑えた。

現時点で選挙をすれば、CDU・CSUが第1党となり、首相を出して他政党と連立政権を組める。だが、あるCDU関係者は言う。「いまの支持率は確実にメルケル人気による上乗せだ。選挙が近づき、メルケル氏が選挙の顔にならない以上、このまま行けるとは思えない」

昨年、環境意識の高まりから一時的にCDU・CSUの支持率を上回った緑の党がまた、勢いを増す可能性もある。本来なら首相候補にはならないはずのゼーダー氏の目が消えないのは、こうした事情がある。

■後任も「メルケル手法」期待?

首相のメルケル氏(右)と跡を継いでキリスト教民主同盟(CDU)の党首になったクランプカレンバウアー氏(左)=2019年5月24日、ミュンヘン、野島淳撮影

誰がなるにしても、メルケル氏の後は荷が重い。メルケル氏はコロナ危機でも、科学的根拠に基づいて淡々と状況を説明し、結束を訴えた。いたずらに危機をあおることもなく、対策を緩めないようにと言い続け、姿勢はぶれなかった。この安定感は、改めて「頼れる国母」の姿を市民に印象づけることになった。

国内問題だけでなく、国際舞台での役割も重要だ。米国のトランプ政権が自国第一主義を貫き、ロシアや中国など権威主義的な傾向を強める国は多い。ドイツは自由で民主的で、多国間協調による国際秩序を守る、要の国の一つだ。EU内のもめ事の仲裁もリードしなければならない。

「カリスマ性がないのがメルケル氏のカリスマだ」と、マインツ大学教授(政治学)のユルゲン・ファルター氏(76)は言う。「議論と妥協を重ねるという点で、メルケル氏は世界の他のリーダーの中でも優れた成果を残してきた。世界の中でのドイツの経済力や地政学的な立場を考えれば、今後も求められるのはメルケル氏と同じような政治手法だ」

だれが後継者になっても、最初は同じようには立ち回れず、成果を残せないかもしれない。だが、メルケル氏も就任当初は「頼りない」と言われながら、実績を重ねてここまできた。最終的にドイツ国民は誰を選ぶのか。残り時間は1年を切った。