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教会→モスク→博物館→モスク 歴史に翻弄、トルコの「アヤソフィア」とは  

At the Scene 現場を旅する
アヤソフィアで礼拝する人たち。ドームの聖母子像はカーテンで隠された

ボスポラス海峡を挟んで欧州とアジアにまたがるトルコのイスタンブール。最近、イスラムの復興を目指してオスマン帝国時代を再評価する、エルドアン大統領のもとで街が変わろうとしている。

その象徴的な出来事が7月に起きた。博物館だった世界遺産アヤソフィアについて、エルドアン大統領は「メフメト2世の意思だ」としてイスラム教礼拝所(モスク)に戻すと発表した。オスマン帝国の21歳のスルタン(皇帝)メフメト2世は1453年、1000年以上続いたビザンツ(東ローマ)帝国を滅ぼし、この街を手に入れた。街には「征服王」メフメト2世の足跡が至る所に残る。

ガラタ塔(1)から金角湾の向こう側に一望できるのが、ビザンツ帝国時代にコンスタンチノープルと呼ばれていたイスタンブールの旧市街だ。メフメト2世は難攻不落の街を、海から攻めようとした。金角湾への進入を試みたがビザンツ側が湾口にわたした鉄鎖に阻まれ、メフメト2世は奇策に出る。ボスポラス海峡側から金角湾まで艦隊を船ともども「山越え」させたのだ。

虚を突かれ、動揺したビザンツ帝国。だが、数々の敵をはね返してきたマルマラ海から金角湾まで長さ6キロにわたる「テオドシウスの城壁」があった。オスマン軍はハンガリー人の技術者が開発した新兵器の巨砲で城壁を攻めた。激しい攻防が繰り広げられたというトプカプ門(2)で写真を撮っていると、乗り合いバスの運転手の男性が「この壁のこと知ってるか? 俺たちはメフメト2世の子孫だから何でも聞いてくれ」と話しかけてきた。「パノラマ1453歴史博物館」(3)では、オスマン軍が城壁を攻める様子が再現されている。

包囲から50日あまりがたった5月29日、オスマン軍は壁を抜き、市街地に突入。エディルネ門(4)をくぐったメフメト2世が向かったのがアヤソフィア(5)だった。537年に建設され、コンスタンチノープルで発展したキリスト教のギリシャ正教の総本山は、モスクに変えられた。その後世俗主義を徹底した近代トルコ共和国のもとで1934年に無宗教の博物館への変更が決まったが、この7月にモスクに戻った。

モスクとなったアヤソフィアを訪れた。入り口は男女別となり、イスラム教に従って女性が髪や肌を隠すスカーフの貸出所が設置されていた。偶像崇拝を禁じるため、キリスト教の聖母子像や天使のモザイク画はカーテンで覆われ、堂内では多くの礼拝者が聖地メッカに向かって祈っていた。ウクライナから訪れたというクリスチャンの若い女性は「最悪だ」というと絶句。そばにいたムスリムのトルコ人家族の父親は、「今までは西洋人や半裸みたいな格好の女性ばかりでたまらなかったが、モスクに戻って安心した」と話した。

■帝国の栄華伝える宮殿

博物館からモスクに戻ったアヤソフィア

メフメト2世が1460年代に着工したトプカプ宮殿(6)は、19世紀半ばまで歴代のスルタンが暮らし、政治の舞台の中心だった。帝国の政策が議論された部屋や絢爛豪華な宝物や武具、厨房などを見ることができる。宮廷の女性たちが暮らしたハレムの見学は別料金。マルマラ海、ボスポラス海峡、金角湾をのぞむ絶景を楽しめる。

■オリエント急行の終着駅

シルケジ駅

アガサ・クリスティの代表作の舞台となった豪華列車「オリエント急行」は、仏パリなどとイスタンブール旧市街にあるシルケジ駅(7)を結んでいた。オスマン帝国末期の1890年に開業した駅には、2013年にボスポラス海峡を横断する海底鉄道トンネル「マルマライ」の地下ホームができた。

■スルタンも愛した伝統の味

「伝統的なトルコ料理を食べるならここ」と地元の人に薦められたのが、1950年創業の「ヒュンキャル」(8)。店の一番人気の料理をと注文すると、「やっぱりこれかな」と3代目のフェリドゥン・ウギュムさん(65)が「スルタンのお気に入り」(約1000円)を出してくれた。

人気料理「スルタンのお気に入り」

焼きなすに牛乳、バターを加えたクリームに、煮込んだ羊肉を合わせて食べる。まろやかな食感で、フォークを運ぶ手が止まらない。牛肉と羊肉のひき肉と米、タマネギなどでつくったミートボール「貴婦人の太もも」や、ブドウの葉でお米を巻いた「サルマ」も試してみたい。

いろいろ挑戦したい人には7品コース(約3500円)もある。「味はもちろん、『これは食べたい』と思わせる見栄えも大事」とウギュムさん。常連客も多く、子どもの頃に祖父に連れられて来た人が、今は孫と一緒に訪れるという。伝統料理は都市部では失われつつあるが、地方では子どもの誕生や結婚式をみんなで祝うために出されることが多い。(其山史晃)