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南シナ海で「オクトーバーサプライズ」は起きるのか

揺れる世界 日本の針路
海上自衛隊の護衛艦「かが」「いかづち」などが参加して9月7日から10月17日まで行われているインド太平洋方面派遣訓練=海上自衛隊ホームページから

――王氏は、米国が今年上半期だけで延べ3千機近い軍用機と空母を含む60隻余りの軍艦を南シナ海に派遣したと主張しました。

11月の米大統領選を控え、米国の動きは激しさを増しているようだ。中国軍が8月26日に南シナ海に向けて中距離弾道ミサイルを発射したことも、米国の動きに反発したからだろう。

中国は過去、弾道ミサイル発射実験を砂漠など中国国土内で実施していたが、昨年から対艦弾道ミサイルの発射実験を南シナ海に向け実施し始めている。今回の発射で、さらに南シナ海を占有する意識を強く示したものとも言える。

池田徳宏元海将

――米軍の「航行の自由作戦」とは、どういうものなのでしょうか。

ポンペオ長官は7月、「南シナ海の大半の地域にまたがる中国の海洋権益に関する主張は完全に違法だ」と批判した。これは中国が南シナ海に建造した施設は違法で、領土として認めないという意味だ。

従って、米国は、中国の施設から12カイリ(約22キロ)の海域も中国の領海ではない公海だとして航行している可能性が高い。

――トランプ大統領が大統領選での支持をねらって国際社会を驚かせる行動「オクトーバー・サプライズ」を起こすという指摘も出ています。南シナ海で米中が衝突する恐れはないのでしょうか。

米国は中国の建造物を爆撃や砲撃で破壊することまでは考えていないだろう。米国の狙いは、国際秩序の現状を力で変更しようとする中国の動きを止めることにあるからだ。

中国も建国100年にあたる2049年までに、社会主義近代国家を建設するという国家戦略目標がある。急ぐ必要はないので、米国に不必要に軍事挑発することはないだろう。

――中国はトランプ氏が落選すれば、米中関係が改善すると考えているのでしょうか。

オバマ政権は当初、中国への関与政策を実施したが、政権末期には厳しい対決姿勢を取った。トランプ政権の対中政策はそれを継承しているものと考えている。バイデン元副大統領が当選しても、米国の中国に対する姿勢は変化しないだろう。

――海上自衛隊は南シナ海でどんな行動を取っているのでしょうか。

護衛艦「いずも」などが17年から南シナ海で毎年長期間展開している。17年は、各地域で行われる二国間・多国間訓練に連続して参加する結果としての長期展開だったが、18年からは「インド太平洋方面派遣訓練」と明示するようになった。日本が主張する「自由で開かれたインド太平洋」の実現に貢献する狙いがある。

海上自衛隊の護衛艦「かが」「いかづち」などが参加して9月7日から10月17日まで行われているインド太平洋方面派遣訓練=海上自衛隊ホームページから

――米国の「航行の自由作戦」には参加しないのですか。

全面的に参加すれば、中国を刺激しすぎるという日本政府の判断があるのだろう。「いずも」など海上自衛隊の護衛艦が南シナ海で活動している際、中国海軍の軍艦等がたびたび接近し、行動を牽制しているようだ。

ただ、米海軍の艦艇と南シナ海においてたまたま同じ海域で遭遇する場合、共同訓練を行うことはある。

日本も米国同様、「力による現状変更を認めない」ということを目標にしている。中国に国連海洋法条約(自由で開かれた海洋秩序の常識)を守らせることが狙いで、戦争するのが目的ではない。

――海上自衛隊は台湾海峡の通過にも慎重ですね。

私が海上幕僚監部防衛部長だった10年、練習艦隊がインドネシアを出港して中国・青島に寄港する計画があり、直線距離で最も近いルートを取るため台湾海峡を通過する選択肢もあった。しかし、練習艦隊は結局、青島入港の直前まで、その許可がおりず引き返すことになった。最近でも海上自衛隊が台湾海峡を通過したということは聞いていない。

ただ、台湾は日本の安全保障上、非常に重要だ。中国が台湾を統一すれば、自由に太平洋に進出できるようになる。日本は「ひとつの中国」の原則は守る一方で、台湾の現状を維持するための戦略について真剣に考えるべきだ。

海上自衛隊の護衛艦「かが」「いかづち」などが参加して9月7日から10月17日まで行われているインド太平洋方面派遣訓練=海上自衛隊ホームページから

――尖閣諸島近海では、長らく中国海警の公船と海上保安庁と巡視船が対峙し、後方に海自護衛艦と中国海軍艦艇が控えるという構図が続いているようです。最近の状況はどうなっているのでしょうか。

12年9月に日本政府が、いわゆる尖閣国有化宣言を行ってから尖閣諸島周辺の情勢が一変したことはご承知のとおりだ。最近、尖閣諸島周辺では、中国海警の公船が、ほぼ毎日、日本の接続水域に侵入し、毎月数回の頻度で領海にも侵入している。近年、海警に所属する中国公船は大型化や武装化が図られている。同時に、19年7月以降、国務院公安部から武警隷下に「武警海警総隊」として移管され、中央軍事委員会による一元的な指導及び指揮を受けて運用されるようになった。

中国の尖閣諸島周辺での活動は今後、「軍・警・民」が一体となってその力を発揮してくることも踏まえた対応が必要になるし、海上自衛隊と海上保安庁の連携が複雑化するという懸念を持っている。

――尖閣諸島の安全保障のため、どのような措置が必要でしょうか。

最初に実施しなければならないのは海洋状況把握(MDA:Maritime Domain Awareness)の確立だ。尖閣諸島周辺海域の状況を可視化し、情勢の変化に速やかに対応可能となるようにしていかなければならない。

次に海上自衛隊と海上保安庁のさらなる連携の強化だ。「軍・警・民」が一体化した中国の活動には切れ目がない。他方、(日本のように)法執行機関と自衛権を行使する機関が明確に分かれている側では、切れ目なく対応する連携が求められるからだ。

最後に、平和安全法制によって「グレーゾーンの事態に切れ目のない対応が可能となった」とされているが、法律の運用によってカバーしなければならない部分も存在する。尖閣諸島周辺で起きる事態を想定し、円滑に法律を運用できるような準備をするとともに、足りない部分があれば、法律の改正をも念頭においておく必要がある。