英国では収入の8割を支援し、スペインが最低所得保障の制度を導入。米国は所得制限があるものの大人に1200ドル、子どもに500ドルを給付した。日本でも1人10万円ずつ支給するなど、各国で似た対策がとられた。
BIを研究する国際組織「ベーシックインカム地球ネットワーク(BIEN)」でリサーチマネジャーを務める同志社大教授の山森亮(50)は、「人びとの生活を守るという政府の役割に政治が真剣に向き合ってきたのかが問われた。それがBIに目を向けさせた」と説明する。
山森がBI導入の壁として挙げるのが、「働かざる者、食うべからず」という考え方だ。しかし、「日本は失業手当や生活保護を受けられない人が多いなどセーフティーネットが不十分。成長を前提とした経済が行き詰まり、賃金の補完としてBIが必要になる」との見方を示す。
駒沢大准教授の井上智洋(45)は、人工知能(AI)やロボットが多くの人の雇用を奪う時代になれば、BIが必要になると主張する。「AIによる大量失業を身近に感じるのに、あと10年かかると思っていたが、コロナによって別のかたちで実現した。失業しないまでも賃金が減る人が増えるのは確実だ」
とはいえ、国民1人あたり月7万円のBIを支給するには年間約100兆円の財源が必要だ。1000兆円超の借金を抱える日本が導入できるのだろうか。
井上は「所得税や相続税などの引き上げで可能」と考える。そうした税金を財源とする「固定BI」とともに、井上が提唱しているのが「政府・日本銀行が貨幣を発行することで得られる利益」を財源とする「変動BI」だ。
いま日銀は国債を市場から大量に購入し、間接的に政府に資金を渡している。そのお金を政府がBIとして国民に給付する仕組みだ。
日銀は国債を買う額を増やしたり減らしたりすることで、政府が支給するBIの額を変動させる。この変動BIの額をデフレ不況のときは増やし、インフレ好況のときは減らすことで、景気をコントロールするという考えだ。
井上は「コロナ対策で日銀が上場投資信託(ETF)購入を増やして株価を支えているのは、企業と株主にお金を配るのと同じこと。ならば国民にも直接配るべきだ」と訴える。
大恐慌下で、経済学者のケインズは有効需要をつくり出す必要性を主張した。中央銀行が大量の国債を買って財政で需要をつくるアベノミクスのような政策は、今回のような危機下でこそ有効といえる。ところが、景気がそれほど悪くないのに財政と金融政策をふかし続けてきた日本は、政策余地があまり残っていない状態だ。
コロナショックで世界各国も「日本化」し、財政をふくらませる一方、金融緩和によって国債金利を低くおさえこんでいる。「国がお金を集めて国民に配る」。そんな社会主義のような時代が来るのだろうか。