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森林火災続いたオーストラリア、強まる危機感 「石炭大国」は重い腰を上げるか

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1月にシドニーで開かれた気候変動対策を求めるデモ。同じ日に全国の主要都市で開かれた

シドニー中心部を3万人の人々が埋めた。1月10日にオーストラリアの環境団体が企画した気候変動対策を訴えるデモ。登壇者が「今、必要なのは、石炭の利用をやめて100%再生可能エネルギーに移行する計画だ」と叫ぶと、会場から大きな拍手がわき起こった。

オーストラリア政府は2015年に採択された温暖化対策のパリ協定にもとづき、30年の温室効果ガス排出量を05年比で26~28%減らす目標を掲げている。だが、この日のデモは他の主要都市でも開かれ、参加者たちは削減目標をさらに高く設定するよう政府に求めた。

オーストラリアは石炭のほか鉄鉱石や天然ガス、アルミニウムの原料となるボーキサイトなどの資源に恵まれ、その輸出が経済成長を後押ししてきた。中でも日本が最大の輸出相手となる石炭は、18年の輸出額が668億4900万豪ドル(約5兆円)と品目別でトップ。国内の発電も6割近くを石炭火力に頼り、再生可能エネルギーは2割にとどまる。

国内外で石炭からのエネルギー転換が進めば、経済への影響は大きい。だが、デモに参加したライアン・ドッド(23)は「石炭輸出は相手国の二酸化炭素(CO2)の排出量を増やすことになるから、やめるべきだ。日本ももっと再生エネに投資した方がいい」と訴えた。

これほどの人々がデモに参加した大きな理由が、昨年後半から猛威を振るった森林火災だ。このころ連日、深刻な被害の様子が伝えられていた。

数キロ離れた森の火災で夜空がどす黒い赤に染まり、列車が通過するときのような轟音(ごうおん)が響いた。飛んできた火の粉が集落に降り注いだ─。記者はデモの直前に取材した被災地の村で、そんな異様な体験を聞いた。2月に訪れた豪南部カンガルー島では、面積の半分近い21万ヘクタール余り(東京都の面積に相当)が延焼し、推計で5万匹ほどいたコアラの半数前後が死んだとみられている。自然保護区に残った林に踏み入ると、難を免れたコアラを見つけた。焼けたユーカリにわずかに芽吹いた葉に食いつき、必死に生きようとしていた。

火災の傷痕が残る森。多くの野生動物が犠牲になった

火災は昨年9月ごろに始まり、豪南東部を中心に広がった。3月までに延焼面積は日本の約6割にあたる計2300万ヘクタールに及び、3000棟以上の住宅が焼失。犠牲者は34人にのぼった。煙はシドニーを覆っただけでなく、海を越えてニュージーランドにも達した。森林火災が珍しくないこの国でも、未曽有の被害となった。

今回の天災を招いた原因だとデモ参加者らが考えているのが、地球温暖化だ。豪気象局によると、19年の平均気温は平年を1.52度上回り、1910年の観測開始以来、最も暖かく、乾燥した年となった。特に昨年12月中旬には全国の最高気温が平均で41.9度と、これまでの最高を更新。温暖化を放置すれば、さらに気温が上昇し、大規模な火災を繰り返すという不安が広がった。

■与野党ともに消極的

しかし政界には危機感が乏しい。首相のモリソンは昨年12月、消火活動に消防隊が奮闘し、被災者が苦しむなか、家族と休暇でハワイに旅行していたことがばれて、世論の反発を買った。モリソン率いる与党の保守連合は、世論調査の支持率で最大野党の労働党を常に上回り、「首相にふさわしい人物」でも他を大きく引き離していたが、今年に入って一時、逆転を許した。

モリソンは毎日のように、メディアから「温室効果ガスの削減目標を上乗せしないのか」と問われたが、それでも、「オーストラリアの排出量は世界の1.2%を占めるだけ」と従来の立場を変えなかった。

かたくなな態度の背景には、与党内の石炭派議員の存在がある。ニューサウスウェールズ大准教授のデビッド・マクナイトによると、石炭産業は政治献金を通じて与党に強い影響力がある。「地域社会の様々な活動を財政面で支援する『良き市民』であり、選挙でも保守連合の運動を支えてきた」と指摘する。

石炭派は下院で10人にも満たないが、キャスティングボートも握る。下院の定数151人のうち与党の勢力は77人。2人が野党側に寝返るだけで政権は立ちゆかなくなる。効果的な場面で与党からの離反をちらつかせてきた過去もあり、18年には気候変動対策を含む法案を政府に断念させた。マクナイトは、ここ10~15年で保守系議員が、米保守派の影響を受けやすくなったとも指摘する。トランプ米大統領のように、パリ協定からの脱退を主張する議員もいる。

一方、ライバルの労働党も30年の削減目標について沈黙を続ける。炭鉱労組が有力な支持基盤の一つだからだ。雇用を脅かすかもしれない脱炭素化を明確には打ち出せず、「石炭の輸出は認めるが、国内の発電利用は推進しない」という玉虫色な姿勢にとどまる。

ところが来年に延期された第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に向け、新たな動きが出てきた。豪エネルギー相が5月、温室効果ガスを減らすための先進技術への投資に関する行程表のたたき台を発表。削減目標は変えないものの、再生可能エネルギーや水素エネルギーの技術開発を重視する姿勢を強調し、CO2を回収、貯蔵する技術のほか、小型原子炉の可能性にも触れた。化石燃料については、天然ガスの利用重視を打ち出したものの、石炭への言及はほとんどなかった。

早くも石炭派議員が反発し、石炭火力発電の最新技術などを行程表に盛り込むよう求めている。また、新型コロナウイルスの感染拡大により、環境規制の強化を求める運動にも一時の勢いは見られない。ただ、2年以内にある総選挙をにらみ、市民も巻き込んだ気候変動を巡る議論が、再び盛り上がる可能性は十分にある。