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尖閣沖で日本漁船を追尾、中国が打った新たな既成事実化 日本も踏み込んだ対策を

ミリタリーリポート@アメリカ
尖閣諸島=2013年、朝日新聞社機から撮影

この事件に関して、日本の外交当局は中国外交当局に対して電話で抗議しただけだった。日本では危機感はもちろん、強い関心が持たれた様子はない。この事件によって、中国の東シナ海への進出が一段と強化されたと危惧しているアメリカ海軍関係者たちは、日本自身が落ち着きはらっている状況に驚いている。

■日常化している中国公船の航行

中国公船が尖閣諸島周辺の日本領海や接続水域に侵入するのは、あまりにも「日常化」してしまっている状態だ。たとえば、今年元日から5月31日までの152日間のうち142日間にわたって、延べ495隻の中国公船が尖閣諸島周辺の日本の接続水域内を航行した。そのうち10日間は、延べ36隻の中国公船が日本の領海内に侵入している。

まさに中国公船が尖閣周辺海域に姿を見せる風景は日常のものとなってしまっている。そのため、日本政府も日本の多くのメディアも、中国公船の尖閣周辺海域への接近に関して、いちいち目くじらを立てなくなってしまっている。これこそ、中国の海洋戦略遂行にとって思うつぼの状況だ。

中国海洋戦略の東シナ海における当面の目標は、尖閣諸島周辺海域では日本と中国の間に領域紛争が存在することを国際社会に知らしめ、その際に、尖閣諸島周辺海域を実効支配しているのが日本なのか中国なのか、第三国では明確に判断しかねるような状況を印象づけることにある。

2012年9月11日に日本政府が尖閣諸島の魚釣島(ならびに北小島と南小島)を国有化してからしばらくの間は、日本政府も日本のメディアも尖閣諸島周辺での中国公船の動きに神経をとがらせ、大きく報道していた。そのため国民の関心も高かった。

その後、中国は尖閣周辺海域に公船を断続的に送り込み、それが3年、4年、5年と続くうちに日本国民の関心は薄れ、日本政府も定例業務としての抗議を繰り返す状態が続くようになった。ようするに、尖閣周辺海域への中国公船の接近は「日常の風景」と化したのだ。

尖閣諸島付近の接続水域を航行する中国公船(奥)を警戒監視する海上保安庁の巡視船=海上保安庁提供

■「新たな日常」定着させる第一歩

日本の領海内で操業中の日本漁船を、中国の法執行船である海警局の公船2隻が追尾して操業を妨害した今回の事件は、中国当局に言わせると、「中国の政府機関が中国の主権的海域で漁業取り締まり(中国の法律では尖閣周辺海域では5月1日から禁漁期間とされている)という警察権を行使した」ということになっている。

中国の公船が日本領海を含む尖閣周辺海域内で航行を繰り返すという「これまでの日常」(軍事的威嚇行動をとったり海洋調査活動をしたりせずに、できるだけ直線的かつ短時間で航行する場合には、原則として国際法上の問題は生じない)に加えて、日本が主権的権利を持つ尖閣周辺海域において、中国公船が中国の主権を行使するという「あらたな日常」を定着させるための第一歩が踏み出されたのだ。

「これまでの日常」と同じく、ステップアップさせた中国公船の尖閣周辺海域での行動は、今後も断続的に2年、3年、4年と続き、2025年頃には、しばしば尖閣周辺海域で中国海警局の公船が日本漁船を「取り締まる」姿が日常的に見られるようになるかもしれない。

このような状態を目にした国際社会はどのように受け止めるであろうか? そもそも尖閣諸島や東シナ海などは国際社会では無名の存在だ。日本と中国(そして台湾)以外では、尖閣諸島を巡るトラブルなどは全くと言って良いほど関心を持たれていない。したがって、海上保安庁の巡視船と中国海警局の公船がともに警察権を行使している海域を実効支配しているのは、日本なのか中国なのか判断しかねることとなってしまうのは当然だ。

沖縄・尖閣諸島沖で領海侵入や接続水域への航行を繰り返している中国の公船「海警」。最近は5000トン以上の大型船も見られる=海上保安庁提供

■日本がとるべき方策

このような状況を招かないために、日本がとるべき尖閣諸島の防衛策は二つある。第1は、「尖閣諸島は日本が実効支配している」という事実を誰の目にも明らかな形で示すことだ。第2は、尖閣諸島に中国海洋戦力が接近できない軍事態勢、つまり接近を阻止する態勢を固めることだ。

第1の防衛策で最も効果的なのは、尖閣諸島で最大(といっても、わずか4平方キロにも満たないが)の魚釣島の最高地点である奈良原岳山頂付近に高性能コンパクト灯台を設置することだ。この「奈良原岳灯台」に、気象観測用レーダーと小型高性能海洋監視レーダーを設置し、それぞれに小型高性能上空監視レーダーを併設することで、尖閣諸島周辺の海域と空域の気象データ、航空機や船舶に関する交通データを常時把握することができる。

そして魚釣島の西岬付近に、コンテナハウスを応用した気象観測施設と海難救助施設、それに発電機や浄水機や浄化槽設備などの生活維持施設、さらにヘリパッドならびに小型救難艇用の簡易着岸設備を設置するのだ。

それらの施設に、海上保安庁職員と自衛隊員で構成する気象観測チーム、海難救助チーム、海洋監視チームからなる「魚釣島測候所」の隊員を常駐させれば、尖閣諸島周辺の交通や漁業の安全が確保されることになる。

日本政府そして国会が決断しさえすれば、自衛隊と海上保安庁の能力ならびに日本の技術レベルから判断すると、これらの施設の設置は極めて容易だ。ということは、中国軍や中国海警局にとっても、魚釣島にこのような測候施設を設置するための奇襲作戦はさして困難ではない(拙著『シミュレーション日本降伏』PHP新書参照)。したがって、日本がいつまでも「魚釣島測候所」を設置しないでいると、中国が設置してしまう可能性は少なくない。

もっとも、以下のような意見もある。魚釣島に灯台や測候施設を設置し、海保職員と自衛隊員を常駐させれば、中国側を著しく刺激することになってしまう。その結果、軍事的緊張が高まるだけでなく、経済関係や文化交流をも含めた日中関係全体に悪影響を及ぼすことになる。したがって、永久構造物を建造するような手段は差し控えるべきである。このような見解は日本政府をはじめ米政府関係者の中にも存在している、というよりは主流であるといえよう。

一方、南シナ海情勢から判断すると、断固たる姿勢を日米側が示さなければならない時期が来たと考えるべきだとする意見も少なくない。尖閣諸島周辺海域で日米共同演習を実施せよ、あるいは米政府は尖閣諸島の領有権に関して明確な立場を示せ、というような強硬論も米軍関係者の中には存在するのである。

次回は、このような賛否両論を検討し、現状では「魚釣島測候所」建設が上策であることを論じさせていただく。