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外出自粛でも別荘行きはOK 見直されるロシアの「ダーチャ」と家族の価値

LifeStyle
ロシア風別荘のダーチャで食事するクラピビナさんの友人たち。若者の中でダーチャが見直されている=ウラジオストク郊外

タチアナ・クラピビナさん

――ロシアでは一時、感染者数が急速に増えました。市民の間で不安は広がっていますか。

もちろん心配はしていますが、モスクワに比べれば極東の感染者が少ないこともあって、街の雰囲気が以前に比べ、ものすごく不安になったようには見えません。人々は感染者数が増えているのは検査の数が増えているのが理由だと思っているからです。

どちらかと言えば、外出できないような状況にも徐々に慣れ、生活を楽しむ余裕が出ているようにも感じます。外出制限が始まったのは3月末。1週間で終わるかと思っていたら、2週目に制限が一気に厳しくなりました。ロシア人はみんなで集まって楽しんだり、自然の中で活動したりするのが大好きです。でも、レストランや劇場が閉まり、海岸を歩いたり、近くの島に行ったりすることもできなくなりました。そのころが一番、不安や緊張感が高まったと思います。

■若者にダーチャが人気

――ロシアも5月初めは大型連休でした。どのように過ごしたのですか。

私は友人のダーチャ(ロシア風別荘)に日帰りで行きました。集まった人たちはみな外出を控えていたので、感染の心配はありません。自然の中でバーベキューをし、みんなで語り合いました。とてもいい気分転換になりました。周囲のダーチャにも車がたくさん止まっていました。いまは野菜など植物の種をまく時期ですが、こんなに人がいるのを見たのは初めてです。

一般的なロシア風別荘の「ダーチャ」。木造2階建てで、水洗トイレやエアコンが付いてないものも多い

――最近は若者の「ダーチャ離れ」が進んでいると聞いていましたが、この状況で、見直されているのですか。

ロシアのダーチャは、日本でイメージする別荘とは違い、一般的には質素な小屋といった感じの建物です。ソ連時代から週末や夏休みを利用して訪れ、のんびり滞在するだけでなく、敷地内の畑で野菜やフルーツもつくります。

ただ、大半のダーチャには水洗トイレやエアコンがなく、現代の都市生活に慣れた人には快適とは言えません。都市部から離れたところにあるので、手入れに通うにも不便。いまはスーパーで野菜やフルーツを手軽に買えるので、若者には人気がありませんでした。

だけど外出自粛中でもダーチャに行くのは認められていて、警察に止められる心配もありません。自然の中で、家族だけで安心して過ごせるので、以前より多くの人がダーチャに出かけるようになっています。

■家族の絆考える機会に

――家族の結びつきも深まっているのでしょうか。

家族と過ごす時間が増えたことで、これまで隠れていた家族の関係が表に出てきたように感じます。もともと関係がいいと、さらに深められますが、問題があれば、悪化してしまいます。

我が家では家族の絆は深まっています。私と母は毎週、ウラジオストクから車で2時間ほどの町に住む祖父母に食料品を届けています。二人とも高齢で病気があるので、新型コロナに感染すると大きなリスクがあります。できるだけ外出を極力控えるべきだからです。一緒にご飯を食べて、おしゃべりをし、楽しい時間にもなっています。

私の友人の1人は、以前は夫の仕事が忙しくてあまり一緒の時間が過ごせませんでした。でも在宅勤務になって関係がよくなり、「自粛ありがとう。夫と過ごす時間が増えて、まるでハネムーンみたい」と喜んでいます。うらやましいですね。

ウラジオストク郊外のダーチャ。若者を中心に利用する人が減っており、手入れがされていないものも目立つ

――親子の関係はどうでしょうか。

以前より、親が子どもを楽しませようと考えるようになったのではないでしょうか。インターネットでゲームを探すだけでなく、自分でも考えたりしています。モスクワに住む友人は毎日、子どもを楽しませる工夫を考えています。例えばバルコニーの活用。家族の夕食をロマンチックにするため、キャンドルを灯して食べたり、小さなゴールをつくってサッカーをしたり。手作りの工夫に子どもは大喜びのようです。

もちろん、ゲームを考えることに疲れてしまった親もいます。1人の友人は「この1カ月間で『幼稚園の先生』という新しい専攻を学んだ。仕事を失っても、幼稚園で働けるかも」と皮肉交じりに愚痴をこぼしていました。

――ソ連時代からアネクドート(風刺小話)のような、ピリッとした笑いをみんなで楽しむのも好きですよね。

少し前、ネコが主人公のアネクドートの「大喜利」がインターネットで流行りました。ロシアでは、空腹の猫が朝、モノを落として、飼い主を起こすと言われています。そこで、お題は4匹の猫が飼い主の顔をのぞき込む写真に「ナターシャ(ロシアに多い女性の名前)、もう午前6時だよ、すべて落としたよ」と書かれた猫たちの言葉。それを「すべて落としたよ。原油は32ドル、1ドルは72ルーブルだよ。本当に全部落とした」と原油価格やロシア通貨ルーブルの下落にかけたり、「マスクをしないと。マスクをつくって。僕らはパニックだよ」と変えたり。人気が出て、この猫たちが描かれたTシャツも発売されました。苦しい状況をジョークで楽しむロシア流は変わりませんね。

雑誌の売り場でもマスクが販売されていた=ウラジオストク

――誕生日などでは大勢の人が集まって楽しむことが多かったですよね。寂しくはないですか。

穏やかな日々もいいですが、やっぱり寂しい気持ちはあります。大勢で自然の中で楽しむほか、私はダンスやエクササイズのピラテスに通っていましたが、いまはオンラインのレッスンになりました。ライブのレッスンでも、やっぱり家で一人は寂しい。グループでやるのが楽しいですから、早くみんなと一緒に体を動かしたいですね。

■社会的距離とる実践

――ロシア人には規則に縛られない、自由なイメージもあります。きちんとルールを守っていることに驚いています。

正直に言えば、外出自粛を守らない人も多くいます。その理由が理解できないからです。例えばウラジオストクでは、海岸や近くの島を散歩するのも禁止になりました。でも1人や家族で出かけて何が悪いのか、よくわからないのです。家に閉じこもっているより、海の新鮮な空気を吸って、時々散歩したほうが免疫力が上がるという意見の人も多い。もちろんグループで歩いている人は多くないですし、人と人との距離を2メートルぐらいはとるなど、大事なポイントは気をつけていますよ。

――日本に比べると人と人との距離が近い印象もありました。

ソ連時代から男性はあいさつのときに握手をし、親しければ抱き合ったりもしていましたが、いまはそれもなくなりました。実は、それを喜んでいる男性もいるようです。「ニューノ-マル」ですね。

いまは特に高齢の人が心配しています。先日、50代の女性二人に話を聞こうと近寄ろうとすると、「コロナウイルスがあるから、誰とも話したくない」と断られました。若い人なら「大丈夫ですよ。距離が離れればいいですよ」という感じです。

――タチアナさんの知り合いでも、感染した方はいるのですか。

友人の友人が感染したと聞きましたが、直接の知り合いにはいません。私の住むアパートで「コロナに感染した人の親族が住人の中にいる」という情報が、住人向けのSNSのチャットで流れたときには、少し驚きましたが、それほど感染者が多い状況ではありません。ただ、貼り紙には「エレベーターのボタンにできるだけ触らない」「階段を使おう」「手を洗いましょう」などと感染予防も書かれていました。なので、最近はエレベーターを待っていても、別の人が来れば乗らずに次を待ちます。自宅はアパートの3階なので、階段を使うことも多いです。

――マスク姿も当たり前になったとか。以前のロシアからは信じられませんね。

私も驚いています。以前はマスクはそれほど売ってもいませんでしたから。いまは外出でマスクをするほか、ウェットティッシュや消毒液も持ち歩くようになりました。ロシア人の生活習慣もすごく変わりましたよ。

スーパーでは店員も客もマスクをしていた=ウラジオストク

■日本の桜見られず

――日本とロシアを結ぶ国際線が運休となり、羽田空港に取り残されたロシア人もいましたね。

春は日本のサクラを見ようと、訪日するロシア人観光客が多いシーズンです。それに加えて、今年は全日空と日本航空が新規にウラジオストク路線を開設したので航空券の価格が下がり、多くの人が日本へ旅行に出かけました。それなのに新型コロナの感染が広がり、ロシアは国際線を停止してしまいました。

私の友人も4月6日に帰国する予定でしたが、飛行機がキャンセルとなり、夫と子ども2人の家族4人で日本に取り残されました。ただ、在日ロシア大使館が足止めされたロシア人向けにアパートやホームステイなどの宿泊施設を確保し、友人の家族はアパートに無料で泊まることができました。

さらに政府のサイトで申し込むと1日あたり大人2400ルーブル(約3500円)、子ども同1600ルーブルのお金を口座に振り込む支援もありました。私の友人は半信半疑のようでしたが、「念のために」と申し込んだら、すぐに入金されて驚いたそうです。大使館は、羽田空港に残った人にも食料を提供するなど手助けをしたようですよ。ただ、「早く帰国便が飛ぶよう、空港に残った」という人もいたと聞きました。

――原油価格の下落もあり、ロシア経済も大きな影響を受けています。仕事の不安は大きいですよね。

友人の中でも、翻訳やカーオーディオの販売など小規模な会社の経営者は「仕事がなくなった」と嘆いています。一方で、新しいアイデアでなんとかビジネスを維持しようという動きもあります。レストランやカフェでは、デリバリーを始めるだけでなく、その途中でお店に立ち寄ってビールなどを買って届けてくれるサービスを始めたところもあります。無料で料理のレシピを公開した店もありますね。ウラジオストクで人気のジョージア(グルジア)レストランの店員は民族衣装を着てデリバリーをし、例えばお客さんが誕生日なら、玄関で踊ったり、詩を読んだりしてくれます。

「遠隔で働いています」。持ち帰りのコーヒーショップの窓が閉じており、スマホや電話、インターホンで注文するよう書かれていた=ウラジオストク

先日は友人から、「一緒にビジネスをしませんか。私が日本から物を送るので、販売してくれませんか」と提案されました。カフェでコーヒーを買ったときには、店員から「日本の会社で仕事はないですか」と突然聞かれました。カフェはいま店内で飲めないので、売り上げが大幅に落ち込んでいます。私が「日本語が必要ですよ」と言うと、「勉強するから大丈夫です」と答えました。いまも日本で働いている極東出身のロシア人も少なくないのですが、さらに増える可能性があります。

最近、「スモートリ」という自動車や建機を販売する地元の有力企業も名古屋に拠点を作ったのですが、インターネットに「日本市場でビジネスをしたい企業を助ける」とあります。ロシア極東にとって日本はすぐ隣の大きな市場。これからもっと結びつきが強まるかもしれません。