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コロナのデモはまるでトランプ集会 この国難でも党派対立を超えられないアメリカ

アメリカに生きる
デモの会場に、銃保有の権利を訴えに来たビリー・ヘイリーさん。ジャケットをまくり、身につけている銃を見せた

当日の午前、近くに車を止めて州議会の議事堂に向かって歩くと、徐々に車のクラクションが聞こえてきた。たくさんの車が、議事堂を取り囲むように道路をゆっくり周回している。

外出時は相手と6フィート(約180センチ)の距離を取るソーシャル・ディスタンスの方針があるので、このようなスタイルにしたのだ。とはいえ車に何人も一緒に乗っている車も多く見かけるが……。

デモの車列

まずは参加者の話を聞いてみようと、車に向かって星条旗を振っている女性に声をかけた。

不動産業を営んでいるというシーラ・ショールさんは、自分たちのようなスモール・ビジネス(小規模な自営業者)が苦しんでいると訴えた。バージニア州の自宅待機命令は6月10日までだ。「6月までなんて、壊滅的です。明日にでも再開して欲しいくらいです」と話した。

この時点で米国の失業者は2000万人に達しており、確かに極めて深刻な状況だった。ただ、経済的に苦境に陥った人々が声を上げたデモかというと、そうとは限らなかった。

それは、人々が掲げる様々なメッセージや旗を見れば、一目瞭然だった。

デモの車列の中には、「ガズデン旗」というガラガラヘビをあしらった黄色い旗を掲げている人たちが目についた。

ガラガラヘビをあしらった「ガズデン旗」

保守の草の根運動「ティーパーティー運動」でよく使われていたのが、このガズデン旗だ。「私を踏みつけるな」という言葉が記されたこの旗は、「政府は私たちの生活に介入するな」というメッセージにもつながる。

私が米国で最初にデモの取材をしたのが、2009年のティーパーティー運動のデモだった。その後もあちこちで、この運動を取材した。ガズデン旗を見て当時のことを思い出すと同時に、どういう主張の人たちなのか、この時点でおおよその想像はついた。

ガラガラヘビをあしらった「ガズデン旗」と共に、様々なメッセージを掲げた車

車体に直接書き込んだものや(後で簡単に消すことができる)、紙に書いて掲げたメッセージには、こんなものがあった。

「私の体のことは私が決める」

「自由こそ必要不可欠だ」

「専制を排除しろ」

いずれも個人の自由を尊重し、政府は関与するな、というメッセージだ。

デモの中には、トランプ大統領を支持するものや、民主党のノーサム州知事を批判するメッセージもたくさん見かけた。トランプ支持者が多いことを見越し

て、トランプTシャツを売る男性の姿も。まるでトランプ大統領の選挙集会のようだ。

トランプ大統領支持のTシャツを売る男性

そもそもこのデモ自体、トランプ大統領がけしかけた面があった。

こうしたデモがミシガン州で最初に起きた後、トランプ大統領はツイッターで、ミシガン州、ミネソタ州、そしてバージニア州の名前を挙げて「解放せよ!」を呼びかけた。いずれも、民主党知事の州だ。

こうしたデモは一部地域で暴徒化したが、経済活動の再開を急ぐトランプ大統領は一貫して擁護し続け、「一部の知事は再開が遅すぎる」と批判をしている。

州議会議事堂の入り口周辺には、様々な政治的な主張をする人も集まっていた。

その中の一人、ビリー・ヘイリーさんは、「銃は命を守る」というバッジをつけていた。こうした集会に参加するときは毎回このバッジをつけて、銃を持つ権利を訴えているという。

「銃規制と自宅待機命令は、どう関係しますか?」。私が問いかけると、「両方とも憲法の問題ですよ。こうして集会をするのも憲法で保障された権利です」と語り、ジャケットの下に身につけた2丁の拳銃を見せた。

突然銃を見せられてたじろいだが、「ウイルスのことが心配じゃないんですか?」と聞いてみた。

すると、彼もやっぱり人の子だった。それまでとは声の調子が変わり、「それは心配ですよ。私の両親は70代だ。父親はちょっと健康に問題があってね。いまも毎日働いてはいるけれど……」と心配そうに語るのだった。

【動画】トランプ支持者が目立った「再開」デモ

■デモに冷ややかな目線も

トランプ大統領支持のメッセージを掲げた車

議事堂の入り口周辺に集まっている参加者は、集まっているメディアに訴えたり、スマホでライブ中継をしたりしたりと、自分たちの主張を訴える「声の大きい」人たちが多い。数人に話を聞いたところで、一般の人たちはデモのことをどう思っているのだろうと気になり、いったん車列を離れた。

すぐ近くの建設現場では、クラクションが鳴り響く中で、作業員たちが黙々と作業を続けていた。建設工事は「必要不可欠」な業種の一つとして認められている。

彼らにはそもそも、自宅待機という選択肢すらない。それを選べば、仕事を失うだけだ。

黄色い蛍光色のベストを着た作業員の男性に、デモをどう思うか聞いてみた。

「あれは何をやっているんだい?」。逆に尋ねられて、趣旨を説明した。

「私たちは『必要不可欠』らしいから、こうして働いていますけどね。この時期に働きに出るというのは果たして賢明なのかね。私だって心配だけど、健康で仕事があるうちは働こうと思っています」

ほかに聞いてみた人たちも、総じて冷ややかだった。

「あれはごく一部の人たちだ」(近くで働く男性)

「せっかく感染拡大を食い止めているのに、自宅待機命令の解除は早すぎる」(看護師の女性)

「大半はトランプ支持者。しかも白人ばかり」(地元の記者)

唯一、病院で働いていたが職を失ったという男性だけが「彼らが言っていることは正しいと思う。私も早く、自宅待機命令を解除してもらいたい」と同調した。

こうした境遇の人たちは多いはずだが、経済的苦境にある人たちがデモの中核となり、広がっている様子はみられない。多くの人が距離を置いてデモを見ているのは、一つにはウイルスの脅威が去っておらず、まだ再開は早すぎると思っているからだろう。

もう一つは、このデモもまた、アメリカで激しくなる一方の党派対立の中に組み込まれてしまっていることが、明白だからだ。

デモの車列。「私の体のことは私が決める」とある

ピュー・リサーチセンターが5月7日に公表した世論調査結果では、知事による自宅待機命令などの緩和が「早すぎる」という回答が68%だった。しかし党派別に見ると、民主党支持者では「早すぎる」が87%に上るのに対して、共和党支持者では47%。逆に「緩和のスピードが不十分だ」という答えが53%に及んだ。
こうした中でトランプ大統領は、党派を超えて難局を乗り切ろうと呼びかけるよりは、自ら対立構図を作り上げ、自分の支持層を固めようとしている。

コロナ禍もまた、アメリカ社会の分断の中に組み込まれ、それがさらに分断を加速するという悪循環に陥っている。