アグネス・チャンが教える、3人の息子に実践した食育のエピソード

子供の幸せを考えるときに、まずは丈夫な体、心(脳)を育てることが基本になります。
健康な体と心がないと、人は幸せになれないからです。(アグネス・チャン)
食の字は、「人」を「良」くすると書きます。
その通りだと思います。
自分に合った食べ物を食べれば、ご先祖様からいただいた体を活かすことができます。
自分に合わないものを食べると、体を壊してしまいます。
自分の体質を良く知り、食べ物に対する知識を持ち、体の可能性を最大に活かすことで、元気な毎日を過ごす。これが大事です。
「食育」とは、ただ食べ物のことを教えるだけではありません。
何を食べるか、誰と食べるか、どうやって食べるか、どう料理をするか。食べるということを通して、様々なことを子供たちに教えることができるのです。
まず何を食べるかについては、自分の合う食べ物を選ぶのが一番大切です。人にとって宝になる食べ物でも、自分に合わないと災いのもとになります。食べ物を食べたら、自分の体の反応を良く見て、正しく何を食べるかを選択していく習慣を息子たちに教えました。
そのためには、自分の体質を知ることです。
人はそれぞれに体質が違います。
中国の家庭では、「熱」か「寒」、「実」か「虚」、「湿」か「燥」という三つの要素で体質を見分けます。
熱の人は暑がり屋、寒は冷え性。
実の人は体に有り余った物があり、虚は体に足りないものがある。
湿の人はむくみやすい、燥は乾燥しやすいのです。
私は寒、虚、燥で、冷え性で貧血、乾燥しやすい体質です。
そのために、体を温めるもの、栄養あるもの、体を潤してくれる物を心がけて食べるようにしています。
息子はみんなそれぞれ体質が違います。
親として、私はまずは子供の体質を見分けて、そして、本人に説明をしました。
理解してもらったら、「どうすればより調子が良くなるのか」「丈夫な体を作れるために何を食べればいいのか」を話し話し合いました。
長男はパパに似てまして、熱、実、湿です。
次男は私と似ている体質です。
三男は熱、実、燥です。
調子をよくするための食べ物は、3人とも違います。
だからうちはいつも大皿で色んな材料を使って料理を作りました。
そこから、それぞれが自分の体質に合ったものを多く食べるように教えました。
さらにできれば、もっといろいろな食材を食べさせたいですね。
日本では30種類の食材を毎日食べるようにと言います。
我が家では「五色、五味」を目指しました。
赤、白、黄色、青、黒の五色の食材を使って
苦い、辛い、甘い、酸っぱい、塩っぱいの五味を目指します。
五色五味を食べる事で、中国では五臓を守ることができると信じられています。
メリハリのある食事をさせるために、「五色五味」を目安にするといいのです。
子供たちは色とりどりで、色んな味がする食べ物を口にすることで、食べることの楽しさ、栄養のバランスを知らず知らずのうちに覚えることができます。
手料理でなくても、たくさんの種類の食べ物をそろえることで、家族の健康は守られます。
次には、誰とどうやって食べるかも大切です。
私は子供たちが小さいときに、絶対に一人で食事をさせませんでした。
必ずパパかママが一緒にご飯を食べるようにしました。
どうしても親が一緒に食べることができない時は、スタッフや友達に頼んで、一緒に食べてもらいました。
ご飯を食べるのは、お祝いの事のように楽しい時間です。
テレビを消して、ワイワイ話しながら、ありがたく美味しくいただくのです。
そうすると、子供たちの様子がよくわかります。
「大好物に箸がいかない、調子が悪いのかな」
「あまり話に参加しない、何か悩みがあるのかな」
と問題があるときに、早めに気付くことができます。
親子の絆を深められる食卓を大事にしました。
子供たちに「孤食」は良くないと教えたせいか、忘れられない思い出があります。
三男が中学生になったとき、年の離れた2人のお兄ちゃんたちはもうすでにアメリカに留学中でした。
ある晩、パパは夕飯の約束があって出かけました。
三男は学校が終わるとそのまま友達の家で夕飯をご馳走になることになってました。
私が夕飯を食べようとするとき、「今日は独りでご飯ですね」と三男が急に帰って来ました。
「どうしたの?」と私がびっくりしたら、三男はニコニコして、「ママに独りでご飯食べさせるわけにはいかないでしょう」と食卓に座ったのです。
「友達の家で夕飯食べるはずじゃなかったの?」と聞いたら、「そうです。でも、ママのご飯に付き合ってから戻るよ」と言いました。
ママを「孤食」にさせたくない三男の思いやりに、私はウルウル……ありがたかったです。
私がご飯を食べているときに、三男は色んな話をしてくれました。2人だけの食卓でも盛り上げようとしたのです。
私がご飯を食べ終わると、三男は飛び出して、友達のところに戻りました。
その時はお腹がいっぱいになっただけでなく、胸もいっぱいになりました。
子どもと一緒にご飯を食べることが心を元気にしてくれるのを実感しました。
食卓の温もりの大切さが、わが家でしっかり根付いていることがわかり、うれしかったです。
食を通して、子供の脳を鍛える事もできます。
毎日違う献立で脳を刺激することができるのです。
脳細胞を繋ぐシナプスを増やすことができて、頭の回転を早くできます。
そして、ご飯を食べているときに、会話の中に子供たちを参加させるのは重要な学習方法の一つです。
人の話を聞くことで、聞く耳が育てられます。
必ず会話の中で、私は子供たちに「君はどう思う?」と聞くのです。
子供たちは自分も意見を言わないといけないと分かると、聞いた情報を自分なりに理解して、自分のものにして、意見を考えるのです。その次に、意見を人にわかるように伝える準備をします。いざ意見を発表する時には、はっきり話さなければいけません。
聞く、理解する、自分のものにする、意見を考える、まとめる、発表する。
このプロセスは学習の手順そのものです。
学校はこのプロセスを求めます。
このプロセスに慣れていると、すんなり学業についていけます。
社会に出ても役立つこのプロセスは、食卓で楽しく、無意識に子供たちに教えることができます。
大人が子どもたちの意見を大事にすることで、子どもたちの自己肯定感を高めることもできます。
食卓での会話が大好きな私たちは、今でもご飯の時間が長いのです。
話が尽きません。
ご飯を食べ終わっても食卓から離れないのです。
果物を食べて、デザートも食べて、お茶、コーヒー、お酒と……。
政治、経済、読んだ本、旅の話で、眠くなるまで家族の団欒は続くのです。
さらに、食育の中で、私が大事にしていたのは料理をすることです。
三人の子供とも男の子ですが、小さい時から料理を教えました。
料理をすることは算数に興味を持たせるうえでも、効果があります。
このくらいのお金でどのくらい食材が買えるのか?
重さ、時間、大きさも気にしないと、美味しいものが作れないのです。
出来上がったとき、人数分に分けることも計算です。
生きた算数の教え方だと思います。
さらに、集中力も教えられます。
集中しないと手を切って怪我したり、火傷したりします。
そして、失敗するときもあります。
でも、もう一度頑張れば、次は成功する可能性がある。
子供達に失敗は取り返しがつかないことではなく、次に成功するための学習だと教えることができるのです。
同じレシピでも、作る人が違うと味も形も違う。
違いは自然なもので、恐れるものではなく、面白い、楽しいものであることも教えられます。
成功して料理がうまくできた時、独りで食べるより、みんなで食べるの方が楽しい、分かち合う幸せも教えられます。
だから、料理が作れる子供を育てるのは生活力を上げることだけではないのです。
ある意味、人生の哲学も教えられます。
現在、三人の息子とも料理が出来ます。
特に長男は料理が大好きです。
パンもパスターも自家製。
地元の食材へのこだわり、食に対する知識や興味も、普通とは言えない真剣さです。
次男はひとり暮らしなので、無駄がないように、健康食材会社から毎週材料を宅配してもらって、自分で料理をしています。
お兄ちゃんほど食通ではないが、自分の体をよく知って、健康な食生活に心かけているのです。
三男は環境問題に関心があって、地球の温暖化に悪影響があると、家族が集まるところ以外では赤肉を食べません。
就職した会社は植物を使って、「肉」を作っている会社です。
その考え方に私は感心しました。
昔の人間は食べ物を「お腹」で食べていました。お腹を満たすためにものを食べたのです。
進化すると、人間は「舌」で食べるようになりました。美味しいものを食べるようになったのです。
さらに進化すると、人間は「頭」で食べるようになりました。自分にとって何がいいのかを考えて食べるのです。
でも、一番理想なのは「心」で食べることです。
食べるものに感謝し、食べられない人のことも思う、地球への負担も考えて食べる。
食育が本当に目指すところは「心」で食べることができる子供たちを育てることですね。
■私が実践した食育を紹介する本が先月、発売になりました。『子供の一生を幸せにする24の食育術』(1400円+税、ぴあ発行)です。簡単なレシピも入ってます。参考にしていただけたら幸いです。