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ISに占領され廃墟と化した町、フィリピンにも なぜ過激派につけ込まれたのか

Behind the News ニュースの深層
2019年5月に記者が撮影したマラウィの町。過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う武装集団とフィリピンの政府軍との戦闘で破壊されていた=鈴木暁子撮影

人のいない中心部のモスクや建物は崩れ落ち、壁に銃撃の痕が残る。ミンダナオ島の西側にあるマラウィ。2019年5月に私が訪れたとき、町はまるで何十年も人のいない廃虚のようだった。美しい湖のほとりで、商売上手なイスラム教徒たちでにぎわってきた人口約20万の町は17年、ISに忠誠を誓う武装勢力「マウテグループ」に占拠され、フィリピン政府軍との戦闘の舞台になった。

ISに忠誠を誓う武装集団と政府軍との戦闘で被害を受け、ぼろぼろになったマラウィ中心部のモスク=鈴木暁子撮影

マウテグループは、マラウィ近隣の裕福なイスラム教徒の家に育ち、シリアやエジプトへ渡航歴もあるとされるオマーとアブドゥラの兄弟と両親らが結成。兄弟はISの東南アジア支部リーダーとみなされていた人物と組み、17年5月に突如、マラウィで政府軍を攻撃。銃撃戦が始まると、逃げ遅れた市民500人は政府軍の攻撃を防ぐ「人間の盾」にされた。米軍なども協力し、空爆も使われる戦闘に発展した。

教師のアイニー(36)は銃を持った黒ずくめの男たちが突然、市街地に入ってくるのを見た。「ムスリムは祈れ。でなければ殺す」「ヒジャブをかぶれ!」。銃砲を鳴らして叫ぶと、アイニーの目の前で、髪をブロンドに染めた女性を射殺。商店から武器や食品を盗み、キリスト教系大学に火をつけ、黒いISの旗を建物に掲げた。

「3時間やる。ムスリムは町を出ろ」と言われたアイニーはからくもバスに乗って200キロ以上離れた町に脱出したが、逃げる途中に会った妊婦は路上で産気づき、後に亡くなったと聞いた。

5カ月続いた戦闘の末、島では住民約50人、政府軍兵士ら168人と、IS側の約1000人が命を落とした。

市民が誇る美しいラナオ湖の周辺で、銃撃や空爆でぼろぼろになった建物=マラウィ、鈴木暁子撮影

■つけ込まれた、おおらかな土地柄

キリスト教徒が人口の9割を占めることで知られるフィリピンだが、13世紀ごろイスラム教が伝わった南部は、約2割がイスラム教徒だ。20世紀に入って、米国やフィリピン政府の政策でキリスト教徒の入植が進むと、先祖伝来の土地を奪われたイスラム系住民が反発。独立を求め、組織間の争いや政府軍との紛争などでこれまで十数万人もの死者を出してきた。多様な人たちが暮らす島のまとまりのなさや複雑な感情につけ込む形で、過激思想を持つISのような組織が忍びよったといえる。

ぼろぼろになったモスクの柱には「ISISは大嫌いだ」の文字が=マラウィ、鈴木暁子撮影

IS側の犠牲者には、マレーシアやインドネシア、サウジアラビア、ロシアのチェチェン共和国など海外出身者が多く含まれていた。ある女性は戦闘が始まる前の週、モスクでトルコ出身の男に会った。彼が戦闘員の一人だと気づいたのは、後になってからだ。「イスラム教徒を傷つけるとは思いもせず、歓迎した」。マレーシアやインドネシアを経由してイスラム教徒が直接ミンダナオ島へ入島する場合、入国審査が緩いおおらかな土地柄も、外国人戦闘員の集結を許すことにつながったのだろう。

銃撃や空爆でぼろぼろになった建物の解体作業が続く=マラウィ、鈴木暁子撮影

戦闘から3年となるいまも、マラウィの町の復興はままならず、およそ10万人が避難生活を送っているとされる。中心部では戦闘で使われた爆発物の撤去が終わらず、住宅の再建もできない。郊外には戦闘から逃れた人のための仮設住宅が広がっている。19年7月までの住民帰還という政府の目標は達成できず、100億円以上を拠出した日本をはじめ各国から集まった少なくとも計744億円の支援金も大半が使われぬままだ。(日本は100億円以上を拠出しており、JICAによると一部を使ってマラウィの道路整備工事が始まっている)

日本では自然災害の被害者らのために作られることが多い仮設住宅。マラウィの仮設住宅に暮らすのはテロとの戦いから逃れた人たちだ=鈴木暁子撮影

■不満や憧れくすぐる過激派

遅々として復興が進まないなかで、期待が集まるのが、マラウィを含むミンダナオ島西部の5州1市63村が参加してできる自治政府の創設だ。フィリピン政府が日本やマレーシアの後押しを受けて、現地の最大武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)とイスラム教徒の自治政府づくりに合意したのは12年のこと。MILFと国家警察の銃撃戦が15年に起きるなど、和平に向けた審議が遅れたが、やっと現実的な手続きが進んできている。

今年2月、国際協力機構(JICA)の招きで来日した自治政府の暫定首相で、MILF議長のムラド・エブラヒム(70)が取材に応じた。

イスラム教徒による自治政府の暫定首相で、MILF議長のムラド・エブラヒム。2月に来日し、広島県などを訪問した=都内

首都となるコタバト市を中心に、議会や政府組織の整備、職員採用が進んでいるという。日本政府も人材育成や予算策定の助言などで協力する。自治政府で働く予定の若者らは、焼け野原からの復興を学ぶために被爆地・広島も訪れたという。ムラドは「フィリピンのイスラム教文化の中心地であり、観光地としての可能性を生かしたい」とマラウィの復興に意欲を見せた。

とはいえ、イスラム教徒だけでなく、キリスト教徒や少数民族も暮らす島で、イスラム系武装勢力を前身とする自治政府が、平和と安定をもたらせるのだろうか。ムラドは、自治政府が目指すのは「非宗教的で、多文化が共存するマレーシアのような政府だ」という。政権の幹部候補者がイラクのクルド自治区や北アイルランド、スペインのカタルーニャなどを訪れ、学んでいるという。

ISに忠誠を誓う武装集団との戦闘から避難し、仮設住宅に住む子どもたち=鈴木暁子撮影

今後の大きな課題は、武装解除だ。ムラドは「50年近く紛争が続いた地域で、武器を常備してきた住民も多い。武装解除と引き換えに相手は何を求めるのか、一つ一つのグループと対話を進めている」という。イスラム教徒も一枚岩ではなく、MILF主導の自治政府づくりに反発する人もいる。まとまりに欠けた状況につけ込まれれば、マラウィ占拠のような事態が再び起こりかねない。

現地で支援したNGOの女性は、子どもが黒ずくめの男の姿を「ポギ(ハンサム)!」と言うのを聞いてショックを受けたという。若者たちの日々の生活の不満や武装への憧れをくすぐって、過激思想などへと導く動きはなくならない。住民の不満を少しでも減らし、さまざまな人たちが一体となって平和を目指す意識を高めることができるか。自治政府の存在意義がかかっている。