自然に敏感な子供はこうして育つ アグネス・チャンのレシピ

私は香港で生まれ育って、正真正銘のシティーガールでした。
都会で生活をして、自然に親しむ事があまりなかったのです。
土をいじる事もなく、花や木を育てる経験もほとんど、ありませんでした。
結婚して、横浜に移り住んで、初めて庭のある家に住みました。
香港でも母がベランダで花を育てるのは見ていましたが、家に本当に土があるのは新鮮でした。
「子供ができたら、自然の素晴らしさを教えてあげたい」と心で誓いました。
庭に果物の木をたくさん植えようと思いました。
最初に植えた果物は梅でした。
結婚の記念に、義理の父から梅の木をいただいたのです。
その梅の木は優秀で、毎年たくさんの実を付けてくれました。
6月になると実がなり、子供達はそれをとるのを毎年楽しみしていました。梯子に登って採ったり、大騒ぎでした。
採った実を丁寧に洗って、大きいな瓶にウオッカ、氷砂糖と一緒に入れて、梅酒を作りました。
熟した梅はジャムにしたり、梅シロップを作りました。
梅ジャムはパンに塗って食べたり、近所に配りました。
夏になると梅シロップをサイダーで割って、氷を入れて飲みました。
花が咲いて、実がなる、それを収穫して、手を加えて、食べるようにするという土から食卓までのプロセスを子供たちに見せることができました。
長男が生まれて、誕生祝いに、2本目の果物の木を植えました。
夏ミカンの木でした。「たくましく育つように」と願いを込めました。
その夏ミカンの木に、毎年アゲハチョウが卵を産みに来るのです。
幼虫の時から保護して、葉っぱを採って家の中で育てました。
息子たちは幼虫がどんどん大きくなるのを見守ります。
「よく食べるね」「よく見るとかわいいね」と興味津々でした。
そのうちに幼虫はサナギを作って、その中に籠るのです。
一番興奮するのはさなぎから蝶々が出てくる瞬間です。
サナギから出てきた蝶は濡れた羽を乾かします。
飛び立つのをみんなで息をひそめて待っていました。
飛び立つアゲハチョウの美しさに私たちはいつも歓声をあげます。
しかも、アゲハチョウは一旦飛んで行っても、一度は必ず戻ってくるのです。
そして、「さよなら」と言ってくれるようにクルクルと私たちの周りに飛ぶのです。
その後、息子たちはどこまでもチョウを追っかけていくのでした。
毎年、アゲハチョウを育てては放って、毎回、毎回、感動するのです。
命を育む楽しさ、美しさ、愛しさを教えることができました。
そのうちに次男の誕生に桃の木を植え、三男の時はさくらんぼの木を植えました。
そのほかにぶどう、柿、キウィ、ゆずの木も植えました。
決して広い庭ではありませんが、楽しみがいっぱいありました。
夏に汗疹が出たときは桃の葉を摘んで、お風呂に入れました。魔法のように汗疹は治りました。
鍋料理を食べる時にはゆずを採って、薬味にしました。
柿がなったときには、野鳥のために全部は取らないようにしました。
キウィにはメスとオスがあって、結婚させないと実がならないことも覚えました。
庭では野菜も育てました。
なす、トマト、ハーブ、苦瓜、胡瓜など、育てやすいものを選んで、子供たちと一緒に育てました。
採りたての野菜の甘み、苦味を味わうのがみんなの楽しみでした。
ネギや山椒、唐辛子も自分たちで育てました。
植物と付き合っていると、収穫の楽しみがいつもあって豊かな気持ちになれるのでした。
果物と野菜を育てると、虫も鳥もよく来てくれます。
ウグイスの鳴き声で春を感じたり、セミの声で夏を迎えました。
息子たちはミミズもクモも、甲虫も大好き。
私が苦手に思う生き物とも仲良く付き合ってました。
自分だけで生きているのではなく、たくさんの命に囲まれて生きていることを、小さな庭のおかげで、
息子たちに感じさせることができたように思います。
自然に敏感な人間になって欲しくって、季節の移り変わりを意識できるように、心がけました。
春はお花見、夏は海水浴、秋は紅葉刈り、冬はスキーとそれぞれの季節を楽しみました。
旬のものを食べさせるようにもしました。
竹の子堀りを毎年のように、義理の母が持つ山の斜面でやりました。
半日竹の子を掘って、家に帰ってきて、アク抜きをして刺身でいただいたり、炊き込みご飯で食べたり。
家中に春の香りがしました。
春のご馳走、山菜や菜の花もよくいただきました。
夏になると自分たちの庭で育てたトマトに砂糖をかけて、スイカ代わりに食べました。
自分たちの育てた胡瓜を丸かじりしたり、枝豆とスウィートコーンを茹でておやつにしたりしました。
秋には栗と鶏肉の煮物をつくり、銀杏に豆乳の甘い汁をかけて食べました。
冬の楽しみは焼き芋。サツマイモの甘い香りはどんな寒い夜も暖かくなりました。
私たちは釣りが大好きです。
休みがあると、みんなマイ竿を持って近郊の川に出かけては釣りをします。
小さい時から釣りをしていたので、息子達はよく釣れます。
釣れた魚は必ず自分たちで調理して食べます。
息子達には魚のさばき方、料理仕方を丁寧に教えました。
「感謝の気持ちを持って食べてあげないといけません」と話して、大事に獲物をいただきました。
自分たちが捕った魚は特に美味しいようで、いつも喜んで食べてくれました。
「私たちは自然の一部、全ての生き物の仲間ですよ」と息子達によく話していました。
長男は現在はアパートに住んでいます。
庭はないですが、自分のパティオでハーブ、トマト、果物などを育てています。
カモミールを育てて、カモミールティーまで手作りです。
わたしが大好きなモヒートも自分で育てたミントとライムで作ってくれました。
料理に必要なハーブは買う必要がなく、全部パティオで採れます。
鳥の水場を作って、花を育て、たくさんの鳥が遊びに来るのです。
このあいだ訪ねたら、なかなか見かけないハミングバードが来ていました。
「かわいい!」と驚いたら、息子は「僕のパティオにはよく来てくれますよ」と自慢げに言いました。
限られた条件の中で、息子は自然との繋がりを大切にしているのです。
自然と繋がりがあると、人間は自然に慰められるようになると思います。
イライラした時は、鳥の泣き声を聞くと心が落ち着きます。
悲しいときは、健気に咲いている花に勇気づけられます。
寂しい時には、旬のものを食べて、ちょっと幸せに感じることができます。
自然は一番頼りになる友達かもしれない。
都会で生活していても、子供達に自然の素晴らしさを教える方法はいっぱいあると思います。
自然と繋がりを絶ってしまったら、子供達は大切な友達をなくしてしまうことになります。
子供達の人生をよりしあわせにするために、是非、子育てのなかで、子どもに自然の素晴らしさを教えて、自然と親しませるということしてあげてください。