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#MeToo運動の前に起きた小児性愛事件、被害者がつづった「爆弾」

Bestsellers 世界の書店から
相場郁朗撮影

『Le Consentement(同意)』は、フランス文学界に爆弾を投げ込んだ問題作である。著者ヴァネッサ・スプリンゴラ(48歳)が、著名な作家「G.」に出会ったのは13歳の時だった。両親の離婚後、超リベラルな母に育てられた少女は、出版社で働く母に同伴した席で「G.」の視線を感じて戸惑う。作家は学校の前で少女を待ち受け、文学的な手紙攻撃でその心をつかみ、少女を学校や家庭から引き剝がして愛人とした。一体、50歳の魅力的なおとな、しかも有名作家が周到に用意したわなにはまらない13歳の少女がいるだろうか。

「G.」とは、作家のガブリエル・マツネフ。マツネフは定期的にフィリピンへ買春旅行に出かけるような自他ともに認める小児性愛者で、それを題材にした作品で知られる。#MeToo運動を経た今から見ると信じられないことだが、当時は文学なら、芸術なら、何をしても許される風潮があった。

マツネフは1990年、人気文学番組『アポストロフ』にも招待され、もてはやされる。ゲストで唯一、彼の行為を非難したカナダ人女性作家ボンバルディエは、当時の仏インテリ層から袋だたきにあった。

15歳まで関係が続いた後、スプリンゴラは惨憺(さんたん)たる精神と肉体を引きずって放浪の歳月を送った。追い打ちをかけるように、マツネフは彼女との関係を克明に記した「日記」さえ発表。2013年にはフランスの名誉ある文学賞ルノドー賞に輝く。作家が一方的に紡ぐ「物語」に抗して、自分がどう生きたのか、「同意」していた自分を責めるのをやめて真実を「本に閉じこめる」力を得るまで、長い時間がかかった。

映画界でも、同様の動きがある。被害を受けた者たちが大人になり、声を上げるようになった。外部の者は、なぜ今さら?と思う。その問いの立て方は間違っている。今だから、ようやく語れるようになったのだ。

スプリンゴラの作品に復讐(ふくしゅう)の怨念は感じられない。むしろ、書くことで人生を自分の手に取り戻すことを選んだ女性の勇気と聡明さが清々しい。

現在、フランスで15歳前の子どもに性的行為を働いた者は、その子どもの「同意」の有無を問わず、有罪となる。本書の出版を機に、老作家は未成年者への強姦容疑で予備調査の対象となっている。

馬と人が対等な芸術空間

『D'un cheval l'autre(馬から馬)』の著者バルタバス(62歳)は、1984年から「ジンガロ」という騎馬劇団を主宰してきた馬術の鬼才として内外に知られる。馬が人間に服従して芸を見せるサーカスとはちがい、馬はあたかもその意思で動いているかのよう。馬と人間がまったく対等な立場に置かれ、光、ダンス、音楽といっしょに生み出されるその芸術空間は、「ジンガロ」以前、地上のどこにも存在しなかったものだ。

大道芸やサーカスの道を経て、「ジンガロ」という独自のスペクタクルにたどり着いた彼の半生は、馬に始まって馬に終わる。パリの北郊外のオーベルヴィリエに馬たちとともに劇場を構え、3年間隔くらいで次々と新作を発表。物質的繁栄を追う時代に背を向けるように長年キャラバンで生活し、野生のオオカミのごとき孤高を保ってきた。人間より動物に近い人なのだ。

『D'un cheval l'autre(馬から馬)』は、そんなバルタバスが、人生の秋に突入し、初めて発表するエッセーである。忘れがたい馬たちとの思い出の数々が一枚の絵のように、または一編の詩のように書き連ねられる。

劇団創設を可能にし、劇団に名を与えた馬、ジンガロ(「放浪の民」の意)。後に優雅な「後退ギャロップ」を披露することになる、闘牛のピカドールから買い取った馬、キホーテ。馬肉になる一歩手前だった馬、シャパロ。「お前とは、(観客に)見せることも、証明することも、驚かすことも、説得することも必要ない。ただ私自身であり、私たち自身であればいい」とバルタバスに言わせた品格の馬、カラヴァッジョ。馬たちの肖像の合間合間に、幼い時に生まれた馬への情熱、馬を取り巻くさまざまな職種の人間模様、そして終わりのある生への哀切がくっきりと浮かび上がる。一体何頭の馬が、彼の人生を横切っていったのだろう。本の最後にAからZまで連ねられた無数の馬たちの名は、彼と人生を共にした戦友たちの墓標のようだ。

2003年から、バルタバスはべルサイユ宮殿の大厩舎(きゅうしゃ)に創設されたベルサイユ国立馬術アカデミーを指揮することになる。馬術だけでなく感性を養うことに重きを置き、ダンス、音楽、弓道なども取り入れた独自の教育を展開している。

だが、社会的成功を手にした後も、既成の秩序とは相いれない「野性」を、バルタバスが失うことはなかった。「野性」の魂を売ったら、彼の目ざすものは永遠に失われることを、彼自身が一番よく知っていた。

「馬たちは私が世界を見つめる目だ」と彼は書く。馬と彼の間に言葉はいらない。むしろ言葉は邪魔になるもの、信用のならないものであり、馬と人間の真の信頼関係は、沈黙と、全開にした感性と、たゆまぬ厳格さの中でこそ実を結ぶ。

それにしても、言葉とは一番遠くにある人の書いた一文、一語が、どれも託宣のように胸に突き刺さるのは、一体どういうわけか。一切の偽善や見せかけが通じない馬の「動物性」に対するように、おそらくバルタバスは、書くという行為にも一切の虚飾をそいで向かい合ったのだ。

本書が明かすのは、ひたすら自分の夢に忠実に、一頭一頭の魂を顕在化させる道を追究したバルタバスという男の類いまれな生のあり方だ。その姿は人界を離れて求道する永遠の修行僧のようでもある。

フランスのベストセラー(エッセー部門)

L'Express誌3月12日号より

1 On n'est jamais mieux soigné que par soi-même

Frédéric Saldmann フレデリック・サルドマン

予防医学の推進者である医師が自分の健康は自分で守ろうと呼びかける。

2 Le Consentement

Vanessa Springora ヴァネッサ・スプリンゴラ

未成年の時の性体験を冷徹に見つめ直し、著名作家を糾弾する問題作。

3 Génération offensée. De la police de la culture à la police de la pensée

Caroline Fourest カロリーヌ・フレスト

民族や文化のアイデンティティー擁護の行き過ぎと自由の関係を探る 。

4 Municipales. Banlieue naufragée

Didier Daeninckx  ディディエ・デナンクス

移民の多いパリ北郊外の市政に隠された宗教団体や麻薬組織との癒着を告発。

5 D'un cheval l'autre

Bartabas バルタバス

騎馬劇団ジンガロを率いる馬術家が数々の名馬との出会いと人生を語る。

6 Karl et moi

Baptiste Giabiconi バティスト・ジャビコー二

著名デザイナー故カール・ラガーフェルドと親交のあった男性モデルによる書。

7 Le Siècle du populisme. Histoire, théorie, critique

Pierre Rosanvallon ピエール・ロザンヴァロン

著名な歴史社会学者が世界に広がるポピュリズムの歴史を詳細に分析。

8 Dans les geôles de Sibérie

Yoann Barbereau ヨアン・バルブロ

ロシア当局にぬれぎぬを着せられて拘束され自力で国外逃亡した顚末。

9 L'Effet Louise

Caroline Boudet カロリーヌ・ブデ

ダウン症の娘を持つ親が、行政や学校との闘いと障害をめぐる現状を描く。

10 Le maire et les barbares

Eve Szeftel エヴ・シェフテル

票集めに犯罪者たちとさえ手を結ぶ市議会の実態をAFPの記者が暴いた問題作。