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日本を追放されたシーボルト 「その後」の足跡が残るライデンを歩いた

At the Scene 現場を旅する 更新日: 公開日:
要塞を下りてくると、門の向こうに教会が見える=2020年1月5日、オランダ・ライデン、西村宏治撮影

アムステルダム中央駅から、電車で約40分。ライデン中央駅を出ると、すぐ左手に風車が見える。風車博物館デ・ファルク(①)だ。18世紀半ばの建造で、高さ29メートル、オランダでも最も大きい風車のひとつという。

この風車だけではない。街に入ると、まるでおとぎ話の世界のような古い街並みが出迎えてくれる。17世紀にさかのぼる古い建物も多い。

ライデン中央駅から歩き始めると、すぐに風車博物館デ・ファルクが目に入る

その街中に残るのが、日本博物館シーボルトハウス(②)だ。もともと1600年ごろに建てられた家で、シーボルトが1832年から15年ほど住んだ。その後は裁判所などとして使われたが、2005年に博物館としてオープン。彼が集めた日本の美術品、生活用具、動植物の標本など約800点を常設展示する。

日本博物館シーボルトハウス。シーボルトが日本から持ち帰ったもののうち800点余りが常設展示されている

数年前には助成金の打ち切りが検討されたが、国会議員から「日本との交流の歴史に配慮すべきだ」との声が出て減額にとどまった。広報担当のマルヨレイン・ホースは「年中、特別展も催している。過去、そして現代の日本を伝える場所です」。昨年は5万4000人以上が来館。約2000人が日本人だった。

シーボルトが追放時に持ち帰った約2万5000点の品物は、ほとんどがオランダ国王に買い取られた。うち5000点を収蔵するのが、国立民族学博物館(③)。日本関連の常設展示もある。

国立民族学博物館。シーボルトが日本から持ち帰ったものの多くも、ここに収蔵されている

そんな博物館が取り組んでいるのが、シーボルトのお抱え絵師、川原慶賀(1786~1860ごろ)が出島を中心に長崎湾の全景を描いた屏風の修復だ。

オランダ国内の邸宅に残されていたものを18年、博物館が購入した。屏風は高さ1.7メートル、幅4.7メートルの八曲一隻。学芸員のダーン・コックは「博物館には、何千枚という世界最大の慶賀のコレクションがありますが、その中でも最大級の作品です」と話す。

ライデンの国立民族学博物館が修復を進めている川原慶賀のびょうぶ。今年中の修復完了をめざしている=同博物館提供

描かれたのは1836年ごろ。細部まで詳しく描かれており、6ミリほどの高さの人間も服装や髪形などが判断できるほどだという。

さらに史料的価値も高かった。これまでに修復された形跡がなく、屏風の裏張りには、長崎貿易の関係書類が使われていた。「当時の荷主の中国大陸の人の名前なども見つかっている。とても貴重な史料です」

昨年にはクラウドファンディングで約3万4000ユーロ(約410万円)を集め、京都からも専門家を招いて修復を進めている。「修復も順調です」。今年末の完成をめざしており、いったんお披露目した後、最終的には常設展示の中心にする計画だという。

夕暮れ、街灯が運河の水面に家々の姿を映し出していた

いったん追放されたシーボルトだが、のちに再来日し、幕臣の訪欧の実現に力を尽くした。ライデンには1862年、幕府初の遣欧使節団が到着。翌年には、後の海軍軍人・榎本武揚や哲学者・西周、法学者・津田真道といった若き俊才たちも街を訪れている。西と津田はこの地に残り、ライデン大学で法学を学んだ。

街に残る古い建物は、そんな彼らが目にしたものでもある。国の行く末が見えないなか、何を考えていたのか。暮れかかる街を歩いていると、幕末が急にそばにやってきた気がした。

■要塞から街を一望

街の中心にあるブルフト(要塞)(④)は9~10世紀の建造。要塞に続く門は17世紀のものという。小高い丘を登り、さらに城壁の内側についているらせん階段を上がると、街全体が見渡せる。目の前に見えるホーフランゼ教会(⑤)の姿が特に美しい。

要塞からホーフランゼ教会を見る

■オランダ最初の大学

ライデンは大学の街。16世紀、スペインの侵攻を食い止めた功績がたたえられ、オランダ初の大学がここに置かれた。ライデン大学植物園(⑥)は有料で見学できる。シーボルトが持ち帰った日本の植物が残っているほか、日本庭園も設けられている。

ライデン大植物園。シーボルトが日本から持ち帰った植物などが残っている

■伝統のパンケーキ 大きさに驚く

オランダの伝統料理として知られているのが「パンネクック」。オランダ風パンケーキだ。ライデン市内の老舗パンケーキ店アウトライデン(⑦)は1907年創業。シャルル・ド・ゴール、ウィンストン・チャーチルといった外国のVIPも訪れたという専門店だ。

パンケーキの専門店「アウトライデン」

メニューはクリームやフルーツを載せた「おかし系」から、チーズやハムを使った「ごはん系」までさまざま。店員さんのおすすめにしたがって「ベーコン、チーズ、卵」を頼んだ。

待つこと10分。料理が届いて驚いた。でかい。直径35センチ。宅配ピザのLサイズ並みにでかい。思わず周りを見たが、みんな1皿ずつ平らげている。すごい。

この大きさで13.35ユーロ(約1600円)だ

厚めのクレープのような生地は、もちもちでおいしい。チーズとベーコンの塩味の具合もよく、意外にも20分ほどで食べきった。満腹になり、目の前の空になった皿にも、すごい満足感。食後のコーヒーが腹にしみた。