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米中対立、トランプ氏だけの責任ではない 「敵」を必要とするアメリカという国

Global Outlook 世界を読む
ニーアル・ファーガソン氏=西村宏治撮影

――なぜ歴史家たちは「ネットワーク」に注目してこなかったのでしょうか。

国や企業といった階層型の組織について書くのは比較的たやすいのです。まとまった史料があることも多いからです。でも、(階層型組織の史料を集めた)政府の公文書館に行っても、退屈な史料しかないことも多い。1923年のドイツのハイパーインフレについて私が意味のあることを書けたのは、分散型のネットワークの中にいたユダヤ人銀行家の史料を見つけてからでした。

もう一つ、歴史家がネットワーク研究を避けるのは、陰謀論に巻き込まれることを恐れているからだと思います。フリーメーソンとか、ユダヤ人の銀行家とか、そういうものについて書いてもあまり尊敬されないのです。

――トランプ米大統領は「階層型」ですか、「ネットワーク型」ですか。

私は、トランプ氏が(ロシアと協力するなどして)19世紀型の権力システムを再構築できる人物なのではないかと見ていましたが、そうはならなかった。その理由のひとつには、ワシントンの官僚たちの反発を乗り越えられなかったということがあります。また、彼の本音は、「反中国政策」を追求したいということにもありました。米国と中国という二つの「階層的」な権力のどちらにつくか、世界各国は迫られることになります。

ただ、トランプ氏は本能的にネットワーク型の人間なのでしょう。官僚的ではなく、規律もとれていない。だからあれだけツイートしているわけです。

――米国と中国の対立を「第2の冷戦」と評していますね。

両国の対立は、貿易戦争から技術戦争にも広がり、香港をめぐる政治的な議論にまで発展しています。その意味で、冷戦という言葉がふさわしいと思います。

ただ、米国と中国は経済的に深く絡み合っていて、関係を断つのも簡単ではありません。しかし両国に避けられない衝突があるのなら、戦争をするよりは冷戦のほうがましだと言えます。

――トランプ政権後も「冷戦」は続きますか?

米国政府は何万人ものスタッフからなる巨大で複雑な組織です。トランプ氏ばかりが注目されますが、「第2の冷戦」は、彼の保護主義的な感情と、政府機関の思惑との相互作用で生まれたのです。

トランプ氏がとった関税策をきっかけに、米政府からは「米国のテクノロジーに対する中国からの投資を制限しよう」という動きが出てきました。国防総省は「今こそ南シナ海で中国を追い落とそう」と考えるようになり、議会は「香港問題で中国を追い詰めよう。ウイグルの問題も取り上げよう」となった。これらは政府機関の話であり、もはやトランプ氏だけではコントロールできない問題なのです。

――なぜ米国はそこまで中国を追い詰めようとするのでしょう。

二つ理由があります。一つは米国にとっては、中国の台頭を制限するのが正しい道だということです。オバマ政権は、結果的に中国の台頭を許してしまいました。しかし中国は、法に基づいたルールにしばられない一党独裁国家で、すべての人を監視下に置こうとしている。そんな国に世界を押さえられてはいけない、という考えです。

インターネットや自由貿易の影響で、中国は民主的にはならないにしても、もう少し自由になると思われていました。しかし習近平氏が権力を握ったころから、むしろ逆に20世紀的な、全体主義的戦略に戻ったと分かってきたのです。

―─もうひとつの理由は。

米国は敵を必要としているのではないか、ということです。敵がいないと国民が互いに憎み合ってしまうからです。(冷戦末期の)1980年代は米国にとって最良の時代でした。ソビエト連邦は基本的に崩壊しかけていた。冷戦は、多くの人にとって当時の幸せな思い出を呼び起こすものでもあるのです。

――今回の冷戦は武力を伴う「熱い戦争」にはなりませんか。

逆説的ですが、冷戦とは熱い戦争を避ける方策なのです。米国とソ連が一度だけ戦争に近づいたのが「キューバ危機」ですが、それでも戦争を避けました。非常に高くつくからです。

米中関係で危険なのは、偶然による衝突です。たとえば中国が「自分たちが台湾を取り戻すまで、誰もなにもしないだろう」と考えているときに、米国がなにかを仕掛けるといった場合です。ところが冷戦下では、お互いが相手に対して非常に疑い深くなっているので、そうしたことが起こる可能性は低いのです。

――「第2の冷戦」での日本の役割をどう考えますか。

日本は米国にとって、より重要な存在になるでしょう。日本の助けがなくては中国を抑えられないからです。日本も、中国がこの地域の支配的な権力になることを望んでいないはずです。中国から離れることは、経済的には高くつきます。それでも、戦略的なメリットは経済的な負担を上回るのではないでしょうか。

――あなたはトランプ氏をリアリストと評されています。ただ、彼に対してはポピュリストであり、ファシズムにつながるという批判もあります。

彼はポピュリストでもあり、リアリストでもあると言えます。両立はまったく可能です。金融危機に見舞われた19世紀に生まれたポピュリストは、当時、移民の制限や自由貿易の制限、緩和的な金融政策を求めました。これらはすべて、トランプ氏が好んでいる政策です。その意味では、トランプ氏は(ポピュリズムという)アメリカ政治の伝統の一部を受け継いでいると言えます。

一方でファシズムは、第一次世界大戦にあわせて出てきた動きです。その特徴は「準軍事的」な運動だったということです。ですから1920年代の初期ファシストを見ると、彼らは制服を着ています。もしタイムマシンに乗って1933年のドイツにいったら、誰も「まるでドナルド・トランプのアメリカみたいだ」とは言わないでしょう。トランプ氏とファシストとは、同じとは言えません。

――トランプ氏は再選されますか。

トランプ氏の存在は、おそらく米国の民主主義にとってとても良いことだと思います。彼のおかげで、リベラル側は、彼の人種差別主義や腐敗など、批判することに事欠かない。再び目覚めたのです。

ただ、民主党は十分に時間があったのに、トランプ氏を破れる候補を見つけることに成功していない。トランプ氏は敗れても仕方ない候補ですが、おそらく再選されるでしょう。それは民主主義の失敗ではなく、民主党の失敗です。

■ネットワークと、マネーの歴史

――あなたのは金融史についての本も書かれていますが、ビットコインなど、仮想通貨の将来についてはどう考えていますか?

ビットコインは、コーヒーとか紅茶の支払いに使われるような、円とかドルを代替するものにはならないと思います。ただし、なくなるとは思いません。それは面白い特徴をもったデジタル資産ですし、裕福な人々にとっては保有する意味があるからです。

もしあなたが億万長者なら、資産の少なくとも1%ぐらいはビットコインで持っておくべきかもしれません。つまり富の1%を、5倍になるかもしれないが、ゼロにもなるかもしれないギャンブルにかけられるような人々にとって、ビットコインには未来があるのです。

現実的なマネ-にとって本当の課題は、中国の電子決済でしょう。アリペイやウィーチャットペイなどです。ものすごい勢いで成長していますし、世界的な金融の枠組みにおいて、ドルのライバルになる可能性があります。とても便利だからです。

――なぜアリペイやウィーチャットペイは、ドルの脅威になるのでしょうか。

こうしたプラットフォームは、紙幣やコイン、プラスチックのカードや小切手といった古い技術に比べて、支払いの方法としては非常に効率的です。

しかし国際取引のかなりの部分、たとえば国際送金が、こうしたプラットフォームを通じてなされ始めると、たとえば日本銀行(などの中央銀行)が、それを簡単にコントロールすることができなくなります。さらにより大きな問題は、ドルがもはや取引の大部分を占めなくなるということです。

これは、米国の権力にとって大きな脅威になります。支配的な通貨準備を持っているということは、非常に重要だからです。ですから、米国の権力にとっては中国に世界の電子決済の枠組みをつくられてしまうのは、非常によくないことなのです。ドル支配の価値を下げてしまうからです。この先、(米国が)なんらかの対応をとるのではないかとみています。

Niall Ferguson  1964年、英国・スコットランド生まれ。米スタンフォード大学フーバー研究所上級フェローなどを歴任。保守派を代表する論客でもある。著書に『文明』(勁草書房)、『マネーの進化史』(早川書房)、『スクエア・アンド・タワー』(東洋経済新報社)など。