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サッカーの練習に「騒音だ」と警察へ通報 ドイツ、スポーツ施設の悩み

World Now
集合住宅に隣接するSCベリルーナー・アマチューレのサッカー練習場。かつて近隣住民から騒音で訴えられた=SCベルリーナー・アマチューレ提供

ドイツには1日にざっと11時間もの「静かにする時間(ルーエツァイト)」がある。州ごとの法規に沿って午後10時から翌日の朝7時、さらに午後1時から3時という地域も。日曜は終日うるさくできず、電気ドリルや芝刈り機は御法度だ。ワールドカップ4回優勝のサッカー大国だが、練習や応援はどうしているのか。

ベルリン市のほぼ中央に位置する創立100周年のサッカークラブ「SCベルリーナー・アマチューレ」を訪ねると、人工芝のサッカー練習場の周囲にコンクリートの壁を隔てて集合住宅が林立していた。冬休み中だったが、ふだんは5歳から19歳までの約500人が練習に励む。

「サッカーのプレーや応援がうるさい」と、クラブが隣接する集合住宅から提訴されたのは1990年代のことだ。分断されていた西ドイツ時代は、ベルリンの壁に近いさびれたエリアで「子どもの健全な育成の場」と認知されていた。それが、壁崩壊後はカフェが立ち並び、アーティストらが好んで住む街へ変貌。新住民はサッカーを「騒音」ととらえた。

午後10時までの練習を平日は午後9時、日曜は午後3時に撤収するように早め、「笛は吹かない」という条件で和解。住民や地元議員らを試合に招待するといった努力を続けてきたが、その後も年に数回は警察へ通報されていた。

総監督のハーバート・コムニック(63)は声を潜めて話した。「ドイツには『寝ているオオカミを起こすな』ということわざがある。問題は一つ起きると、どんどん大きくなる。だからそうなる前に対処しないといけない」

SCベルリーナー・アマチューレ総監督のハーバート・コムニック

人口が増え続けるベルリンでは、スポーツ施設と住民との争いは絶えない。別の地区では2014年、体育館の新設計画が「出入りする車の騒音が心配」との住民の訴えにより、中止になった。市スポーツ連盟のダヴィド・コズロウスキ(36)は「スポーツより『住』が優先されることもあるが、住民自らが街の魅力の一部を壊している。パラドックスだ」と憤る。

そんな状況のなかで18年、ある法改正がなされた。スポーツ施設から出る騒音の規制値を一般的な騒音より5デシベルほど緩和することになったのだ。連邦環境省の広報担当は「スポーツ施設は騒音も出すが、人々の健康を促進するメリットもあることを考慮した」と話す。

コムニックは、やっと子どもたちに「のびのびプレーして」と言えるようになった。「苦情は大人が対処するもの。子どもに教える必要はない」

住宅地に隣接したサッカー場。住宅地が限られているベルリンにはこうしたサッカー場が増えているという=ベルリンスポーツ連盟提供

騒音を出す側の社会へのメリットも考えるドイツの法整備には、前例がある。00年代に「子どもの声がうるさい」と保育施設が相次いで訴えられ、閉鎖や移転が続出。連邦政府は11年の法改正で、保育施設の音を騒音から除外した。「子どもは大人よりうるさいのが自然で、ネガティブな騒音とは違う。明文化する必要があった」(連邦環境省)。この考え方は国外でも注目され、待機児童に悩む東京都も15年、ドイツにならった形で保育施設の騒音規制を見直している。

【動画】「騒音にうるさい」ドイツ、悩むスポーツチーム