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その出社、本当に必要か 「出社主義」から抜け出る方法

LifeStyle
JR東京駅では山手線の運転再開後もホームへの入場規制が続いた=2019年9月9日午前10時33分、川村直子撮影

■「災害時の通勤ルールない」4割

まず、2019年9月9日月曜日に関東地方を通過した台風15号で、何が起きたか振り返る。

JR東日本など鉄道各社は前日の8日夜から、9日始発から計画運休をすることを発表した。だが安全確認に時間がかかり、予定通り再開できなかった電車が少なくなかった。主要駅は9日朝、時間通りの再開を見込む利用者らでごった返した。

出勤した人は、どんな状況だったのだろう。東京大学と県立広島大学が共同調査を行っている。

それによると、首都圏の通勤・通学者で当日出勤・出席の予定があった人のうち(調査対象4511人)、「遅れて出社・出席した」と「いつもと変わらず出社・出席した」が約4割ずつ、残りの15%が「会社や学校を休んだ」と回答した。

いつもと同じように出勤した理由には「日常的な業務はできると思ったから」(35%)、「自宅や家族に心配がなかったから」(34%)、「出勤を控える指示がなかったから」(15%)といった声が上がった。

さらに519人を対象にした詳細調査で、そもそも勤務先で災害時の通勤ルールが決められているか尋ねると、「事前に決められていないし連絡が来るかどうかも決まっていない」が4割を超えて最も多かった。

「思ったよりも、いつも通り出勤した人が多かった。災害に対する余裕がなくなってきたと言えるかもしれない」。調査をした東大の廣井悠・准教授はそう受け止めたという。

東京大学の廣井悠・准教授=澤木香織撮影

災害時、インフラ産業の従事者や行政職員など、どうしても出勤せざるを得ない人がいる一方、必要性がそれほど高くない人もいる。後者の人たちが無理をして出勤や移動をすることで、渋滞など前者の人たちに影響してしまうこともある。廣井准教授はこれまで、東日本大震災の帰宅困難者対策や大阪北部地震での出勤困難者対策を研究し、安全確保の視点で対策を考えてきた。

「災害時は平時の『ひずみ』が顕在化すると言われます。今回は、無理して働くことのひずみが出たのではないでしょうか。災害対策として考えるだけでは根本的な解決にはならない。今回のことをきっかけに働き方の考えを見直すべきだと思います」と話す。

■「計画運休なら出勤禁止」をマニュアル化

台風15号当日に予定していた経営会議や全国150カ所の事業所をつなぐテレビ会議について、「いずれもモバイルのシステムを使って多くの社員が出社せず参加して乗り切った」というのがリコージャパン(本社・東京都港区)だ。

同社では、計画運休が発表された場合には、原則事業所への出勤を禁止。パソコンを持ち帰り、テレワークで仕事をすることを記したマニュアルを昨秋に作成した。

計画運休の際の出勤ルールを定めたリコージャパンの資料

きっかけは2018年の西日本豪雨と、直後に続いた台風21号、24号の被害だった。特に関西空港が冠水し、大阪の都市部も被害を受けた台風21号の際には、大阪の事業所が停電。帰宅困難になった社員が多数いた。それまでも台風の前にはパソコンを持ち帰り在宅勤務をするようアナウンスしていたが、マニュアルに記して明確化した。マニュアルでは、計画運休の可能性に言及した時点で、顧客との予定を調整することも盛り込んだ。

強風や雪の中でも顧客先を訪問し、「こんなときに来てくれるのはリコーさんだけ」と評価されるーー。そんな時代もあったという。だが、総務部長の鎌田巧さんは「いまは、事前に予定を調整することで、お客様にも評価されている」と話す。

社員が出社してから、天候の状況次第で早期帰宅を指示しなければならなくなるのは、会社にとっても高度な判断力が求められることにもなる。鎌田さんは「交通の状況によっては、帰宅難民を増やしてしまう。あらかじめ無理に出社させないと判断し、自宅で仕事をしてもらった方が生産性も保つことができる」。

■「会社にいる=仕事」ではない

当然ながら、医療やインフラ産業に関わる人や自治体の職員、メディアなど、災害時に出社が必要な人もいる。一方で、どこで働くかよりも、アウトプットを出せる環境を作ることを重視し、積極的にテレワークを進める企業もある。

ソフトウェア企業「アステリア」(本社・東京都品川区)は、台風15号ではテレワークを実施した。当日出社したのは徒歩で通える7人だけだった。「私も徒歩通勤なので、電話番をしました」。平野洋一郎社長はそう振り返った。

アステリアの平野洋一郎社長=澤木香織撮影

同社は日常的にテレワークを推奨しており、当日朝時点の最高気温予想が35度以上のときにはテレワークを推奨する「猛暑日テレワーク」といったユニークな制度も設けている。

一般的には災害時でも出社する人が多い状況について、平野さんは「会社に行くこと=仕事をすること、という風潮がまだまだあるのではないでしょうか」と指摘する。

「プレッシャーの向く先を、みんなが出社するから出社するという同調圧力ではなく、きちんとアウトプットを出していこうというプレッシャーに切り替えていかなくてはならない」と話す。

行政も動き始めた。東京都は昨年11月、台風15号と19号の防災対策の検証結果を公表した。今後、計画運休時の出勤のあり方について公労使の会議で新たなルール化を議論することや、今後の台風接近時には出勤抑制やテレワーク実施を呼びかけることを盛り込んだ。

■「出社することが評価」、変えるには

「張ってでも会社に行くことが評価される」。そんな働き方の慣習や個々の意識を変えていくには、どうしたら良いか。男性ゆえの生きづらさなどを研究する「男性学」が専門の社会学者、田中俊之・大正大学准教授に聞いた。

大正大学の田中俊之・准教授=澤木香織撮影

ーーなぜ、台風で時間通りに電車が運転するか不確実な状況でも、出社しようとしてしまうのでしょうか。

「定時には席につかなければならない」という働き方のルールが広く共有され、それを真面目に実行する慣習が定着しているからだと思います。

働き方を変えていこうという世の中の風潮がある一方で、いざふたを開けてみると、災害時でも多くの人が時間通りに出勤しようとしていた。もちろんテレワークをしていた人も一定数いると思いますが、あれだけ駅が混雑したということは、多くの企業では働き方の実態があまり変わっていないのだと感じました。

日本の会社員は、1日8時間、週40時間働くことが労働基準法的には「定時」になっています。それが「最低限、働かなければならない時間」だと多くの企業で共有されてしまっていると思います。災害時だけではなく、その慣習から外れるようなことはあまりできません。

男性の育児休暇の取得がなかなか進まないのも同じ理由です。1日8時間、週40時間が「最低限」なのだから、仮に2週間の育休を取るとなったら「最低限」の労働時間に穴を空けてしまうことになる。それは大変申し訳ないことだと考えてしまうのだと思います。

ーー災害時の出社ルールにかかわらず、働き方の慣習に違和感を感じたとき、どうやったら変えていけるでしょうか。

もし会社で、社長以外の人が「台風の日は定時に来なくても良いよ」と言ったとします。社員が自宅にいたことによって、取引先と連絡が取れなくなるという事態が1件でも起きてしまったら、「お前が列を乱したからこうなるんだ」となってしまう。

もし結果が同じだったとしても、定時に出社しようとしたのであれば、「がんばったのに連絡が取れなかったんだから仕方が無い」となる。誰も責任を取りたくはないので、ルールと違うことは言いません。だから、変えていくとしたら、トップダウンになりがちだと思います。

ーートップダウン以外でできることは?

会社の規模や経営者の考え方による部分はあるかもしれません。大企業は現状を維持させることが経営者に課せられている部分があり、どうしても前例踏襲となって、革新的なことは起こりにくい。だから、若い世代ならば「働く場所を変える」という選択肢が早いかもしれません。

いま経営者層の多くが60~70歳だとすると、自分が若い頃に持った常識と、社会の常識とがずれてしまうことがある。そういう人に一から説明し、気づいてもらって、対策を打ってもらう……となると、何年もかかってしまいます。

ーーそうなると、できる世代だけ、できる会社だけが働き方を変えていくことになり、社会がどこかの世代で分断してしまわないでしょうか。

それ以外の方法は、難しいと思います。変えられるところから変えていく。日本社会は、現状を何とか維持しようとする力が強いので、分断のようなものを生まずに新陳代謝をすることは非常に難しいんじゃないでしょうか。

と言いつつ、最近こんなことがありました。僕は定年退職者へのインタビューを続けているのですが、大企業につとめていた65歳くらいの男性に話を聞きました。「10年くらい前から、子どもの行事を理由に会社を休む男性社員が増えてきた」という話をしていた際、「子どもが理由で休むなんて」と最初は頭に来たと言っていました。

でもしばらくして、「あ、世の中が変わってきたんだ」「自分の常識が古いんだ」と気づいたそうなんですね。最後には、自分は子どもの運動会や授業参観に一度も行ったことがなかった、と反省したそうなんです。後悔しても取り戻せないから「すごく反省した」と。

確かに世代で決めつけることもよくない。自分の常識が古いことに気がついたり、常識だと思ってふるまっていたことに後悔や反省が生まれることも当然あります。

慣習に違和感をもてるのは、入社して間もない頃だと思います。まず、立場の弱い人が意見を言いやすい態勢が企業のなかにあることが、大事ではないでしょうか。

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