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事故後も活況、エチオピア航空 家族5人を失った遺族の苦悩

Behind the News ニュースの深層 更新日: 公開日:
妻と娘、3人の孫の遺影碑の前で取材に応じるクインドス・カランジャさん=19年11月6日、アフリカ東部ケニアのナクル、石原孝撮影

2019年11月下旬、アフリカ東部エチオピアの首都アディスアベバにある国際空港。アフリカ各国や欧州、中国の乗客で混雑する中、ここを拠点とするエチオピア航空の機体が次々に離着陸していった。アフリカ最大の航空会社として、世界中に路線を拡張する戦略を続ける。つい少し前に墜落事故を起こした会社とは思えないほどの勢いを見せていた。

そこから約1000キロ離れたケニア南西部の都市ナクル。墜落事故で妻と娘、孫3人を亡くしたクインドス・カランジャさん(60)は、大きな民家を持てあましているように見えた。さみしさを紛らわせるため、居間の壁には、犠牲になった家族の写真を至る所に掲げていた。

昨年3月10日。家族5人を乗せたエチオピア航空の旅客機(ボーイング737MAX)は、アディスアベバの空港を離陸してわずか6分後に消息を絶った。郊外に墜落した機体は、一部を除いてほとんどが破損。現場周辺に住む農家のハイル・バカラさんは、「機体が空中で大きく上下左右に揺れたまま、落下していった」と話す。

犠牲者の国籍は35カ国に上り、目的地だったケニアは32人で最多だった。カナダ、エチオピア、中国などが続く。国連職員も20人以上が犠牲になった。さらに、同型機は2018年10月にもインドネシアで墜落事故を起こし、乗員乗客189人が亡くなっていた。

エチオピア航空の事故が起きた時、カランジャさんはケニアの首都ナイロビの空港で、家族の帰りを待っていた。数年前にカナダに移住した娘が、現地を訪れていた妻と共に、3人の孫を連れてアディスアベバ経由で久しぶりにケニアに戻ることになっていた。

離陸前、SNSのビデオ付き通話で妻や娘と会話した。初めて会うはずだった9カ月の孫娘ルビーは、「お姫様のように見せたいから」と、きれいな洋服に着替えていた。3時間もすれば、抱き合って再会を喜びあうはずだった。だが、いくら待っても、重い荷物を持った家族は到着口から出てこなかった。しばらくして、機体が墜落したことを知らされた。

■「事故を教訓に」の思い、実るか

事故から数カ月後、カランジャさんは自宅の庭に5人の遺影碑を建てた。DNA検査を経て、家族の遺体の一部は昨年10月、カランジャさんや娘の夫の元に戻ってきた。「私は、最も幸運な遺族だったと言わざるをえない。妻の遺体はひどく損傷していたが、頭と体の一部が特定できたんだから」

ただ、家族との思い出を尋ねると、「答えるのが難しい。私が高校教員の仕事を退職して、孫や家族との時間をつくれると思った矢先だったんだ」と答えた。

カランジャさんは、機体を製造したボーイングや運航していたエチオピア航空については「コメントできない」としたうえで、その思いを吐露した。「私の願いは、同じような悲劇が二度と起きないこと。機体に欠陥があると分かれば、すぐに飛行をやめて欲しい。全ての航空会社にとって、この事故を教訓にしてもらいたい」

ボーイングは、事故発生当初は「737MAXの安全性には完全な自信がある」としていた。だが、中国や欧州の航空当局は、インドネシア、エチオピアで相次いで機体が墜落したことを受けて同型機の運航停止を決定。遺族からは「一つ目の事故の際にしっかりと修理をしていれば、エチオピアでの事故は起きなかったのではないか」との批判を受けた。

エチオピア政府は4月に発表した暫定報告書で、機体の失速防止システムに不具合があったとの見方を示した。その後、ボーイングのデニス・ミュイレンバーグCEO(当時)は「二つの事故とも、(失速防止システムが)センサーの間違った情報に基づき作動したことは明白だ」として、一定の責任を認めた。

ボーイングの信頼失墜は、経営にも影響を及ぼしている。19年7~9月期は、民間機の納入は62機にとどまり、前年同期の190機の3分の1にまで減少。売上高も2割超減った。事故が続いた「737MAX」は主力小型機で、大きな痛手だった。

ボーイングは12月、今年1月から同型機の生産を休止すると発表。ミュイレンバーグCEOの辞任も明かした。遺族との補償金交渉も難航している。

■運行会社の責任は

一方、エチオピア航空は事故後も路線の拡張を進めるなど、その影響を最小限にとどめている。昨年9月の決算発表では、年間に1210万人が利用し、前年度と比べて14%上昇。営業収益も17%上がったという。

同社のテウォルデ・ゲブレマリアムCEOは取材に対し、「路線数は120を超え、外国の主要都市にはすでに飛んでいる。今後は各国の第2の都市にも就航できるようにしていきたい」と語った。また、現在は週5便のアディスアベバと成田空港を結ぶ便についても、「2020年に毎日飛ばせるようにしていきたい」と意気込んだ。

墜落事故については、「完全に機体の問題だった。欠陥があったのだ」としてボーイングの過失を強調した。また、「ボーイングが事故のときと同じ型の機体を安全だと主張し、運航が再開されれば使用するのか?」との問いには、「我々は再開を決める最後の航空会社になるだろう。顧客や乗員らを納得させる必要があり、慎重にならざるを得ない」と言葉を濁した。

エチオピア政府による事故原因の最終報告書のとりまとめは、今も続いている。発表内容次第では、ボーイングだけに責任を負わせるわけにはいかなくなる。事故を起こしてしまった航空会社として、安全第一という遺族の思いを優先することが求められている。