■コンテンツ輸出にかける期待
10月、南仏カンヌで開かれたテレビ番組見本市「MIPCOM」会場近くのホテル。民放連やNHKなどがつくる組織「国際ドラマフェスティバルinTOKYO」のスタッフの姿があった。日本の番組への関心を引こうと、各国のバイヤーを招待し、事前に見せたドラマの中から「買いたい作品」を選んでもらい、作品を表彰するイベントを開いた。
組織のトップで民放連会長の大久保好男(日本テレビ会長)はコンテンツ輸出の最前線を確認したいと、今回MIPCOMを初視察した。ホテルでGLOBE記者らに「どうしたら素晴らしいコンテンツが日本にたくさんあることを知ってもらえるかPRに知恵を絞っていく」と話した。
NHKは放送法に基づき、7000億円を超す受信料収入がある。民放は広告が主な収入源だ。2008年のリーマン・ショックで広告出稿が急減し、その後持ち直したが、ネット広告の急伸などで以前のような収入は望めない。
民放各局が活路を求めるのが海外へのコンテンツ輸出だ。総務省によると、10年度に約66億円だった日本の放送コンテンツの海外輸出額は、17年度に約445億円と7倍近くに増えた。20年度は500億円を目標に置く。
MIPCOMの会場内では、NHKや在京キー局、在阪の準キー局などがブースを設けて自局の番組をPRした。また、民放やNHK、製作会社などが作る放送コンテンツ海外展開促進機構(BEAJ)は、総務省の委託を受け、単独でブースを設ける予算がない地方局向けのブースを設営した。北海道、愛知県、福岡県などの放送局のコンテンツ担当者が、日本の地方の魅力をアピール。近年は地方局の番組輸出も盛んといい、BEAJの君嶋由紀子事務局長は「地方局が外国と共同制作で番組を作り、その国から来る人も増え、やりがいを感じることもある」と話す。
■制作費の圧倒的な差
一方、ネットフリックスなど外資の浸透が進むなか、日本のテレビ局は圧倒的な資本力の差を見せつけられている。
民放関係者らによると、地上波で放送するドラマやアニメの制作には1話2000万円程度かかるが、外資の配信業者が流すオリジナルドラマの制作費は1話1億円。アニメは1話6000万円程度と倍以上の開きがあるという。民放関係者は「ネットフリックスのドラマは嫉妬を覚えるくらいすごい出来。テレビ局でも意識が高い人間は、脅威を感じている」と危機感をあらわにする。
日本のテレビ局もネット対応を広げている。日本テレビ系の「Hulu」(フールー)、「FOD」(フジテレビオンデマンド)、TBSやテレビ東京などが作る「Paravi」(パラビ)、民放各社で作る「TVer」(ティーバー)といったサービスがある。
■有料配信、伸び悩む日本
NHK放送文化研究所(東京都港区)のメディア利用動向調査によると、2018年に利用している動画配信サービス(複数回答)では、無料のユーチューブが53%で突出、動画投稿サイト「ニコニコ動画(二コ動)」とインターネット放送局「Abema(アベマ)TV」が7%、ティーバーが5%。一方、有料ではネットフリックス、FOD、Huluがいずれも2%で、「無料サービスと比べると、有料動画配信は軒並み利用率が低いというのが実情だ」(同所メディア研究部)。
キー局が運営に関わる唯一のネットテレビ局が、サイバーエージェントとテレビ朝日が16年に立ち上げたアベマTVだ。ほかの日本の配信サービスは放送した番組やオリジナルドラマなどが売りだが、アベマTVは番組表があったり、生放送をしたりするのが特徴だ。
お笑いコンビ「雨上がり決死隊」の宮迫博之らの謝罪会見の生中継などが注目を集め、有料会員数は約52万人に増えた。藤田晋社長は10月の記者会見で「ニュースやスポーツといった中継がテレビのようにできるのはアベマTVだけ。少なくとも新たなメディアの土台はできた」と話した。
だが、これまで毎年200億円程度の赤字で、ビジネス的にはまだ厳しい。ニコ動を運営するドワンゴの夏野剛社長は、経済ニュースメディア「ニューズピックス」のネット番組で「(日本のテレビ局が)10年前からやるべきだった。アベマがどうなるかが、日本のテレビ業界の未来を決める」と話した。
5月に放送法が改正され、NHKがテレビ番組をいつでもネットで同時配信できるようになった。NHKは20年中に本格的に始める見通しだが、今後、放送が前提の受信料のあり方が問われる可能性がある。民放キー局も同時配信を始めた場合、「地上波放送を見てもらえなくなり、広告収入が入らず大変」とある地方の民放関係者はため息をつく。